第16話

「おい、お前これはどういうことなんだよ」


俺はみんなが盛り上がっているなか目の前に座る亮に顔を近づけて小声で問いかける。


「いや~実話さ、今日の合コンメンバーがどうしても足りなくて急遽呼んだ的な?」


「おまっ、なんで合コンなんだよ!俺が人と話すの苦手なの知ってるだろ!!しかもなんでよりにもよって女子側なんだよ!!」


「しゃーねーだろ、どうしても足りなかったんだからよ」


「それなら他の女子呼べよ、お前モテるんだから声かければすぐ来ただろ」


「ばかいえ、そしたらその子が本気で俺のこと狙ってきたらどうすんだよ。俺は別に今彼女とか作る気ねーんだよ、だからお前が俺の相手するんだよ」


「だからって…」


「とにかく頼むよ、おまえの分は俺が出すからさ。それに今度お前が欲しい服買ってやるから。」


「ん…」


俺は仕方なく亮のお願いを聞いてあげることにした。決してただ飯を食べれるとかちょうど欲しかった服があったとかそういうのじゃないぞ。これはあれだ、親友の頼みだから仕方なくだ。断じてモノにつられたとかそういうのじゃないぞ。って俺はいったい誰にこんな言い訳してるんだか。


俺たちがそんな風にひそひそ会話をしているうちに自己紹介が始まっていたらしく俺の番が回ってきていた。


「えっと、わたしの名前はユナって言います。十七歳です。彼氏は今までいたことありません。よろしくお願いします」


俺はみんなが注目する中挨拶を終え椅子に座ったまま頭を下げる。俺が頭を上げると今度は男性陣の自己紹介が始まった。二人とも亮に負けず劣らずかなりかっこよくそれぞれが名前や趣味などを話しているが全然頭に入ってこないっていうか興味が出ない。俺はそんなみんなをしり目にオレンジジュースをちびちびと飲む。やがて自己紹介が終わったのかまたしてもみんなでわいわい盛り上がり始める中、俺は一人メニューを眺めると注文をする。


「なあ。ユナちゃんは休日は普段どんなことしてるの?」


俺が一人でいることに気を遣ってか亮が俺に話題をふってきた。正直余計なお世話だが亮に呼ばれている手前これ以上は亮の評判も下げかねない。俺はしぶしぶみんなの和に入ることにした。


しかし普段から何してるって聞かれてもな、女装してますとは言えないし、しいていうならお出かけとかか?


「んーっとそうですね、お出かけとかよくしますよ」


「それなら今度俺と一緒にどこか行こうぜ」


俺から一番遠い席に座る赤毛の男は机に身を乗り出すように前に出すと大きな声を出す。俺は苦笑いをして返すと「もーいきなり攻めすぎーw」と俺の二つ横に座る桃色の髪をショートボブにした女の子が手で口を隠すように笑う。「俺はモモちゃんでもいいんだけどなー」と赤毛が言い返すと「なにそれーw女の子ならだれでもいいんでしょー」と会話が進む。聞いてるだけで胃もたれしてきそうな会話に俺はオレンジジュースを一気に流し込み。そんな二人を横目にもう一人の男子が俺に話しかけてくる。


「それにしてもユナさんこんなにかわいいのに彼氏いたことないなんて意外ですね」


「あはは、そんなことないですよ。わたしなんて全然モテませんて…」


緑色の髪の毛に眼鏡をかけ、見た目はかなり真面目そうな男が柔らかい口調で話す。俺はそれに対しても苦笑いで返すことしか出来なかった。俺は亮に「早く助けろ」と念じながら見つめるが、亮は顔をそらせたままグラスを持ち上げずずずと飲み続ける。どうやら俺のことを助ける気はないらしい。あいつから話を振っておいて見捨てるなんてなんて薄情なやつなんだ。絶対高い服買わせてやる。俺は亮をにらむとそう決意する。しかしそれでも話は終わらず次々と質問をしてくる。


「お出かけとは主にどこに行かれるんですか?」


「えっと、デパートとかですかね」


「それはお一人で?」


「最近は友達と行くことは多いんですけど、一人で行くときもあります」


「好きな食べ物は?」


「パンケーキとかですかね」


なんなんだこれは質問が終わる気配がない。何だか合コンってよりもお見合いをさせられてる気分だ。はー、早く帰りたい。


「ちょ、そんなもんにしといてあげや」


俺が次々と質問に返答していると亮が間に入ってくる。俺は「やっときたか」と亮に視線を送るとばつの悪そうな顔で片手で謝る。


「ふむ、確かにそうですね。初対面の人相手に少々いろいろと聞きすぎてしまったようです。ユナさん気を悪くさせていたらすみません」


頭を下げると申し訳なさそうな顔をする。俺は「気にしていませんよ」と愛想笑いをするが、目だけは亮を睨めつける。男は俺に興味を失ったのか別の女子の方へとしゃべりかける。


「おい」


俺は目の前にいる亮を睨み続けると亮は体を小さく丸める。


「おまえばかなのか?」


俺が少し地声の入った声でそう言うと亮の体はビクンと跳ねる。


「いやだって」


「だってじゃねーよ、おまえ俺を見捨てただろ。何がお前の相手だけすればいいだ、完全に無視してたじゃねーか」


「仕方ないだろ、一応合コンなんだから俺とずっと話してるわけにもいかないしそれに、かわいい子とおしゃべりしたいのは男のサガだろ?」


亮は必死に言い訳をするが俺は許すつもりはない。


「二つだ」


「え?」


「俺が欲しい服二つ買ってもらうからな」


「それは…」


「あん?」


「買わせていただきます」


俺と亮はその後もしばらく二人でしゃべっていた。どうやらほかのところでもペアができていたらしくそのまま合コンは続き気がつけば二十一時を過ぎる手前になっていた。


「それじゃあ今日はこれでお開きにしますか」


お店を出ると俺たちは各々と連絡先を交換してそのまま解散となった。ちなみに俺は女性陣の中の隣に座っていた近藤さんという白髪の女性となぜか連絡先を交換した。彼女曰く「またどこかで会える気がしたから」とのことだった。一度も話をしていないため彼女のことはよくわからないが何だか不思議な感じの子だった。その次の日、俺は亮と一緒にデパートとへ行き欲しかった服を買ってもらい満足した。ちなみに亮は財布の中身を見て肩を落としていたが自業自得だ。俺のことを無理やり付き合せたんだ「俺は安い女じゃないぞ」とそう言いかけたがよくよく考えたら俺、女じゃねーわ。何だか最近女装することが多くて自分でも麻痺してきてる気がする。





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