第15話

長谷部さんたちと海に行ってから四日ほど経った今日、俺は朝から冷房のかかった部屋でのんびりと過ごしているとスマホに一軒の着信が入った。俺はそれに気づくとベッドから体を起こして机の上にあるスマホの画面を見る。そこには真ん中に大きな文字で“亮”と書かれていた。亮は俺の女装趣を知る数少ない友人の一人で、俺の唯一無二の親友だ。俺は嫌な予感がしたためそのまま電話に出ずに無視することにした。しかし何度もかけなおしてくるため俺は仕方なく電話に出ることにした。


「もしもし」


俺がけだるそうに電話にでると向こうからは「お、やっちでたか」と亮の声がした。


「こんな時間に何の用だよ」


「こんな時間て、もう十一時だぞ。まさかまだ寝てたのか?」


「まあそんなとこ。それで要件は何だよ?まさか電話してみただけとかじゃないよな?」


「そうそう!お前さ、今日暇だったりする?」


「ん~」


俺は少し考える。確かに今日は特にやることはないし暇といえば暇だ。しかしそれを言うと何か面倒なことを頼まれそうでそれがちょっと嫌だ。


「何かあるのか?」


俺は先に用件を聞くことにしてそれから返答することにした。これなら最悪「忙しいから無理」という言い訳を使うことができる。


「ちょっと飯でもどうかなって思ったんだけどさ、夜とかあいてないか?」


飯か、まぁそれぐらいなら付き合ってやってもいいかもしれない。


「別にいいぞ。それで何を食べるんだ?」


「ちょっとまってろ、今場所送るから」


数秒待っていると亮から一つのメッセージが届く。そこにはお店の住所と時間が書いてある。


「ここに十九時でどうだ?」


「お前が選んだ店にしては結構おしゃれだな」


「え、そうか?まぁ、いいってことだよな?」


亮は何か焦っているような気がするが。まぁ気にするほどのことでもないか。


「わかった。十九時に行けばいいんだな」


「おう、それじゃあまた後でな。そうそう言い忘れてたんだけどちゃんと女装して来いよ」


「は?なんでお前と飯食うだけでそんなことしないといけないんだよ」


「いいだろ?とにかくそういうことだから!」


「ちょ、おま…。あいつ勝手に切りやがって」


俺が言い返そうとするとその前に切られてしまった。別にあいつのお願いを聞いてやる義理はないのだが、俺もせっかくならかわいい恰好がしたい。それに今の俺は男物の服はあまり持っておらずほとんどが女物の服ばかりになってしまっている。そのため俺は仕方なく女装して出かけることにした。





現在時刻はすでに十九時を過ぎ、俺は約束の店へと速足で向かう。亮にはすでに遅れるという連絡はしてあり、それに対して「先に中にいる」と返答が返ってきた。俺は店の目の前まで付くと看板を確認し、そのまま中へと入っていく。俺は亮から聞いていた座席を探すと亮の後姿を見つけ声をかける。


「ごめん。おそくなった…」


俺は亮に近づくと徐々に声が小さくなっていく。そこにいたのは亮だけではなく二人ずつの男女の姿があった。俺がその場で立ったまま呆けていると俺が来たことに気付いたのか大きな声で「こっちこっち」手招きをする。俺はこの状況に理解が追いつかず呼ばれるがままにみんなが座るテーブルへと歩いて行く。亮以外にも俺が来たことに気付いたのか「まじかよ」、「めっちゃ可愛い子やん」、「うっそー!」などという声が聞こえてくる。俺が亮の横まで行くと「いろいろ言いたいことはあると思うがとりあえず座れって」となぜか女子が座っている側の椅子に促される。


「お前オレンジジュースでいいか?」


「え?あ、うん」


何もわからない状態で席についた俺をよそに亮は店員にオレンジジュースを注文する。それは数分と待たずに運ばれてきて俺の目の前に置かれる。すると亮がいきなり飲み物が入ったグラスを持ち上げるとその場にいるみんなが同様にグラスを持ち上げる。俺はただみんなにつられるようにオレンジジュースが入ったグラスを持ち上げる。みんながグラスを持ったことを確認した亮は大きな声で音頭をとりグラスを前に突き出す。


「それじゃあみんな集まったことだし、今から楽しい楽しい合コンをはじめまーす!!」


「「「かんぱーい!!」」」


亮の掛け声と共にみんなは持ち上げたグラスをぶつけ合う。俺は亮のその一声に驚き今この現状を要約理解する。


「って、これ合コンかよ!!」


そんな俺の心からの叫びはこの場の盛り上がりによってかき消されてしまった。





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