第13話

「ねぇー二人ともー!早く来なよー!」


神崎さんの日焼け止めを塗り終わるとそのタイミングを待っていたのか遠くから長谷部さんが大きな声でこちらに手を振っている。神崎さんはそれに対して「今行くからまっててー」大きく返す。


「それじゃああたしは行ってくるけどほんとに入らないの?」


「あぁ、もしウィックが流され出ましたら大変だから俺はここで荷物見とくよ」


神崎さんは少し不満そうな顔をしたがそのまま長谷部さんの方へと歩いて行く。俺は三人が海で遊んでいる姿をただ遠くから眺めることしかできなかった。


俺が一人でぼーっと荷物番をしていると何処かから二人組の男たちがこちらへと話かけてきた。


「おねぇさんこんなところまで来て一人?なんだったら俺たちとあっちで遊ぼうぜ」


その男はおそらく自分たちのであろうテントを指さす。なんでこう一人でいると男たちから声かけられるんだろう、こんなところにまで来てナンパとは暇な奴らだな。それにしてもかわいいすぎるのも問題だな。俺がそんなことを考えていると無視されたと勘違いした男たちは俺の手を掴み無理矢理立たせようとしてくる。


「ちょ、離してもらってもいいですか?大声出しますよ?」


俺がそう言うと男たちはバツの悪そうな顔をして周囲を見渡す。すると複数の人たちがこちらを見てひそひそ話している姿がある。男たちは「ちっ」と舌打ちをし、その場を去って行く。ほんと何がしたかったんだあの人たちは。


「お兄ほんとモテモテだね〜」


俺が去ってゆく男たちの背中を見送っていると晴花が俺の顔の前に立つ。その顔はニヤニヤしておりこちらをからかっているようだ。


「まぁな、お前よりはモテモテだぞ。それと今はお姉ちゃんと呼びなさい」


俺が皮肉げに返すと晴花は「私だってモテるんだから‼︎学校ではいつも告白されてるんだから‼︎」と少し荒げた声を出す。


「いやお前女子校やん」


俺が疑問に思ったことをそのまま返すと「え、えっと…」と誤魔化すように顔を背ける。俺はそんな晴花をじーっと見つめていると「そういえば!」と思い出したかのように話題を変える。


「春奈さんが早く来てって言ってたよ」


「いや、海に入ったらウィック流れるかもだし俺は良いよ」


俺がそう渋っていると晴花は何言ってるのみたいな顔で俺を見てくる。


「別に海に入らなきゃ良いじゃん。適当に泳げないとか言って浅瀬で遊べば良いでしょ?せっかく来たんだからおに…お姉ちゃんも一緒遊ぼうよ!!」


晴花は俺の手に引っ張られ二人がいる元へと連れて行かれる。確かに頭さえ付けなければ流されることはないかもしれない。俺は警戒しすぎてそんなことすら思いつかなかった。


俺が晴花に連れられ二人の元へ向かう。二人からは「はやくはやく」、「遅いぞー」などと言い俺たちが来るのを待っている。どうやら二人は俺と一緒に遊びたかったらしい。俺はさっきまでの一人寂しい気持ちを打ち消すかのように晴花を追い抜き、握られた今度は俺が引っ張るかたちで二人の元まで走った。





俺が二人の元へ着くなり長谷部さんは「おそーい」と言いながら頬を膨らませて俺の前へと立つ。俺は「ごめんごめん」と一言謝ると長谷部さんは腰に手を当て「よし!」とふんぞり返る。俺たちがそんなやり取りをしているとさっきまで長谷部さんの横に立っていたはずの神崎さんが少し離れた位置から俺たち二人に勢い良く水をかける。俺と長谷部さんがびっくりして「きゃー」などと叫んでいると神崎さんは大きく笑いながら又しても水をかけてくる。


「やたなああ、それー!」


長谷部さんは神崎さんを見るとその場にかがみ脛当たりまである海水をそのまま神崎さんへとかけ返す。しかし神崎さんはそれを華麗に避けると後方にいた晴花の顔へとかかる。


「あっ…」


長谷部さんがそんな口を開け、その場に立ち尽くす。晴花は体を小刻みにぷるぷると震わせながら「やりましたねー」といいこちらに向かって水をかける。長谷部さんは俺の背中に隠れてしまいその水は俺へとかかる。そして俺もそれに対抗するかのように神崎さんと晴花の二人に向かって水をかけ返す。こうして俺たち四人は長い時間お互いに水をかけあっていた。





しばらくしてお腹がすいたのか長谷部さんが「そろそろ海の家行かない?」と提案してきたため俺たちは海から上がると自分たちの荷物がある場所まで向かい体をふく。そして荷物をまとめると俺たちはそのまま海の家へと向かった。


海の家には焼きそばやかき氷、焼きとうもろこしといったごはんや、浮き輪やサンダル、Tシャツといった雑貨なものまで売られており、俺はカレーライスを長谷部さんは焼きそば、神崎さんはたこ焼きと唐揚げ、晴花は大きなかき氷をそれぞれ注文した。やがて注文した料理が運ばれてくるとほうばるようにそれらを食べ始めた。俺がカレーライスを食べていると向かいに座っていた神崎さんの視線に気づいた。俺は「どうかしたの?」と尋ねてみると神崎さんは「それ」と言いながら俺のカレーライスを指差す。そして「一口頂戴」というと机に身を乗り出すようにして口を大きく開ける。「え?え?」と俺が困惑していると神崎さんは「早く頂戴よ」といたずらに笑いながら応える。俺はカレーを一口すくうと口を大きく開けた神崎さんへと食べさせる。「ん~おいしい」神崎さんはカレーを食べると片手で口元隠しながらもぐもぐと食べる。そして「はいこれ」と言いながら串に刺さった唐揚げを渡してくる。それを手で受け取ろうとすると神崎さんはその手を引っ込めてしまい「口開けて」とニヤニヤしながらこちらを見ている。


(こいつさっきの行為はこれが目的だったんだな)


俺は神崎さんの目的に気づきためらっていると「はーやーくー」などと神崎さんはせかしてくる。正直そんな恥ずかしいことはしたくない、しかし神崎さんはかなりしつこく俺が食べるまで続けてくるだろう。俺は意を決し机に身を乗り出すと目をつぶって口を大きく開ける。すると俺の口の中に何かが入った感覚がしそれを食べる。俺が目を開けると目の前には片手は机に肘を置き、もう片手には何も刺さっていない串を持った神崎さんが嬉しそうに「おいしい?」と聞いてくる。俺は口の中にまだ唐揚げがある状態で「おいひい」と片方の頬を膨らませてそう応える。


俺が椅子に座りなおすと横に座っていた晴花が今の一連をニヤニヤした顔で見ていた。俺はそんな晴花を見て「なんだよ」と少し睨むように見つめると「べつに~」と言いながら目をそらされてしまった。


(最悪だ。こんな恥ずかしい姿をよりにもよって妹に見られてしまうなんて…俺もうお嫁にいけないよ。)





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