第12話

「あ、あづい、、あづいよお兄…」


俺の横に立っている晴花は帽子を深く被ると俺にもたれかかり、手をうちわがわりにあおぐ。


「がまんしろー、もうじき二人ともつくみたいだからあと少しがんばれ。それと今はお兄ちゃんとは呼ぶな」


今はまだ朝だというのに溶けてしまいそうなくらい暑い。まだ来てから数分しかたっていないはずなのに体は汗でややべとべとしていて、背中のあたりは服が体に少しだけくっついてしまっているそんな中ただひたすらにぼーっと待っていると一台の車が俺たちの目の前に止まる。その車の助手席側の窓がゆっくりと下に下がるとそこには長谷部さんの姿があった。


「ごめん遅くなちゃって、外は暑いから早く乗って」


俺たちは長谷部さんに促されるまま車へと乗りこむとそこは冷房がきいていて先ほどの暑さが噓みたいに汗が少しずつ引いていく。


「水でも飲む?」


俺が車に乗り込みゆっくり涼んでいると横に座っていた神崎さんが水筒を手渡してくれる。俺は「ありがとう」といいそれを受け取ると反対側に座っている晴花へと渡す。晴花はそれを受け取ると神崎さんに向かって「ありがとうございます」とうやうやしくお辞儀をする。


「あなたがユナの妹さん?あたしは神崎冬雪、よろしくね」


「はい、おにi…お姉ちゃんがいつもお世話になっています。妹の晴花っていいます。今日は無理言って連れてってくれてありがとうございます」


晴花は丁寧に挨拶をするとぺこりと会釈をする。俺は晴花のこんな丁寧に話しているところを初めて見たためかなり驚いた。家ではあんなんだけど外だとちゃんとしてるんだなっと感心していると前の座席から顔だけをこちらに向けた長谷部さんも挨拶を始まる。


「はじめましてー!私は長谷部春奈だよー!気軽に春奈って呼んでね。ちなみにこっちにいるのがお兄ちゃんの直春だよ」


長谷部さんは隣で運転している人を指さすとさらっと紹介する。


「どうも、妹がいつもお世話になってます兄の直春です。面倒のかかるやつですがこれからも仲良くしてやってください」


直春さんもまた丁寧な口調で挨拶をする。その挨拶からはなんていうか苦労人のそれが見え隠れしている。長谷部さんはそんな紹介に対して「どこが面倒かかるっていうのよ」といいながら肩をペシペシ叩いている。直春さんもそれに対して「危ないからやめろって」と軽く返している。これだけのやり取りでもこの兄妹が仲の良さが伝わってくる。そしてどこの兄も妹には苦労してるんだなとしみじみと感じた。


車内ではかなり盛り上がり、主に今向かっている海についてでわいわい話し合っていた。海に着いたらまずみんなでビーチバレーをするとか誰が一番早く泳げるのか競争するとか、お腹が空いたら海の家で焼きそばを食べるとか他にもあれがやりたいこれがやりたいとみんなでしたい事を言い合っていた。ちなみに俺は海に入るとウィックが流れてしまう可能性があるため入るのは少し難しいかもしれないな。





やがてそんな話を数時間していると海に着いたのかナビが「目的地周辺につきました。案内を終わります」といい切れてしまう。俺たちは会話を終え、みんなして外を眺める。そこには太陽の日差しを反射した青い海があり、砂浜には多くのお客さんたちで賑わっていた。そして車を駐車場に止めると四人とも勢いよく飛び出す。ちなみに直春さんは一緒に遊ぶわけではなくただ送り迎えをするだけというらしい。なんとも優しいお兄さんだ。俺たちは少し走ると車の方から「この辺の喫茶店にでもいるから帰る時はまた連絡しろよー!」と大きな声が聞こえ俺たちは手を振りかえしそれに応える。




一目散に海へと駆け出すのは先頭を走る長谷部さんと手を握られ、つられて走る晴花の二人だ。二人は海に着くなら服をその場に脱ぎそのまますぐ海へと向かってしまった。残された俺と神崎さんは二人が脱ぎ散らかした服をたたむとレジャーシートを敷き、やや小さめのパラソルをさす。


「春奈ー!日焼け止め塗らないとあとで後悔するよー!」


準備を終え荷物をまとめると神崎さんは海にいる長谷部さんな向かって大きな声をだす。しかしうまく聞こえていなかったのか長谷部さんはただ手を振るだけでこちらにくる様子はない。俺も一応晴花に声をかけて見たものの大きく手を振るだけで戻ってくる気は無さそうだ。俺たちは顔を合わせると呆れたように首を傾げた。


俺がまだ少し準備をしていると神崎さんは俺の肩をつっき、日焼け止めを手渡してくる。


「これは?」


俺が疑問に思い尋ねてみると神崎さんはいたずらに笑い応える。


「背中にそれ塗ってよ」


俺がその言葉に驚いていると神崎さんはニヤニヤしながら寝転びつけていた水着を外す。そこには白くて綺麗な肌が顕になっていて俺にはかなり刺激が強い。


「ちょ、何してるんですか⁉︎そんな格好して、早く水着着直してくださいよ‼︎」


「だって外さなきゃちゃんと塗らないでしょ?そんなこと言ってないで早くしてよね、この格好ちょっと恥ずかしいんだから…」


神崎さんの顔は耳の方まで赤くなっており、よほど恥ずかしいのか顔を見られないように伏せている。俺はそんな神崎さんの背中に日焼け止めをつけた手で触る。


「ひゃっ」


俺が背中に触れると神崎さんは変な声を出して体をびくつかせる。俺もその声に驚き慌てて手を離す。


「ちょっと、なんでやめちゃうの?早く続けてよ」


「いや、そっちが変な声出すから…」


神崎さんは振り向きこちらを見ると赤い顔のままジト目で見つめてくる。


「これは…ちょっと冷たくてびっくりしただけだから。だから早く続けて」


そう一言だけ言うとまたしてもうつ伏せになり顔を隠す。そのため俺は言われるがまま神崎さんに日焼け止めをぬり始めた。俺が日焼け止めを塗っている間神崎さんはずっと「ひゃっ」とか「んっっ」など変な声ばかり出すので、周りの人からは少しいやらしい目で見られていたのだが俺も神崎さんも恥ずかしさのあまり周りを気にする余裕がなかった。





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