第11話
太陽の日差しが照りつけ、立っているだけで視界が地面から立ち昇る気で陽炎のように揺れ、いつもはうるさいくらいの蝉の声がどこか遠くに聞こえる。最高気温38.7度を記録し、今日は今年一番の猛暑である。そんな今日ついにこの日がやってきてしまった。今日は俺、長谷部さん、神崎さんそして俺の妹の四人で朝から電車にのり海に行ていた。なぜ妹がついてきているのかというとそれは昨日の夜まで遡る。
俺は自分の部屋でせっせと明日の準備をしていると部屋の扉がいきなり大きくバタンと音を立てて開いた。そしてその勢いと同時に妹が部屋へと入り込んでくる。
「お兄!見てみて、この服‼すごくかわいくない?欲しかったやつがやっと届いたんだー!!だからさ明日この服着て一緒にお出かけしよ!!」
俺の部屋に入ってくるなり持っている服をこれ見よがしにに見せつけてくるこいつは妹の青葉 晴花(あおば せいか)だ。こいつは昔から落ち着きがなくやんちゃな性格をしており、昔からこの性格には苦労させられている。例えば俺が寝ている間に顔に落書きをしたり、虫嫌いな母のカバンに虫のおもちゃを入れたり、いろいろと家族内でトラブルを引き起こすことが多い。特に一番やばかったのは、父の頬にキスマークをつくり母がそれを勘違いしてしまった時はかなり家族内が荒れた。その件で母にこっぴどく怒られて以降は少し落ち着いたものの未だにちょくちょくといたずらを仕掛けてくる。
そんな晴花だが今じゃ都市内有数のトップ校に通っている。俺からすればいったいいつ勉強していたのかわからないがお嬢様校にかっよている現在は学内でも成績はかなり良く、認めたくはないが俺よりも頭がいいと思う。学校内では「家がかなり金持ちで大きい庭とたくさんのメイドがいて、暇なときはピアノを嗜んでいる」とかそんな訳の分からない噂を同じ学校に通う幼馴染が教えてくれた。実際は特に裕福とも貧しいとも言えないごく一般的な家庭で、家ではいつもぐうたら過ごしているだけなのだが、一体どんな学校生活を送っているのか不思議でならない。
そんな妹は今も俺の部屋に入るなり持っていた服を放置してベッドの上でごろごろしている。その服はずっとほしかったやつじゃないんですか?さっきまで見せつけてきていたのにもう飽きてしまったんですか?妹よ、ほんとに学校ではうまくやっているのかお兄ちゃん心配になってくるよ…。
「悪いけど明日は用事があるから一人で行ってきな」
俺はそう言うと晴花のことを無視しながら明日の持ち物を確認する。
「えーどうして⁉どこいくの誰と行くの何しに行くの」
「友達と海に遊びに行くんだよ」
「海‼いいなー晴花も行きたい行きたい行きたい!!!」
晴花は俺のベッドの上で駄々をこねるように暴れだす。ベッドはミシミシと音を立て始めもう少し大きく暴れれは壊れてしまいそうだ。
「いや、さすがに無理だって。いきなり妹を連れていったらみんなに気を使わせちゃうだろ」
「むー」
晴花は不満そうに頬を膨らませているが迷惑になることは理解しているのかじっと俺のことを見つめてくる。
「確かに男たちの中に晴花みたいなかわいい子が混じったらみんな晴花のこと好きになっちゃうかもしれないけど…」
こいつのその自信はどこから来るんだか、確かに容姿は整っているかもしれないがモテるほどなのか?それとも兄妹だから俺がそういう風に感じないだけなのか?まぁ、俺の女装はかなりかわいいんだ同じ血を引いてさらに元から女のこいつはもしかしたらかわいいのかもしれない。
「わかったらもう部屋から出てってくれ。俺は今明日の準備で忙しいんだ」
晴花はまだ不満がありそうな顔をしていたけどあきらめたのかベッドから起き上がると扉の方へと歩く。しかし晴花はある一点を見つめると歩く足を止める。
「それ」
晴花はその視線の先を指差す。その視線と指の先には俺が明日着る予定の“女性用の水着”があった。そう“女性用の水着”だ…。
「いや、これはなちがくて…」
俺が慌てて言い訳しようとするが晴花どんどんと俺の方に迫ってくる。その目は俺のことをずっと見つめて、無言のまま俺へと徐々に近づいてくる。そして俺の目の前に来ると目線を俺に合わせ俺の眼だけを見つめてくる。その黒い瞳は全てを飲み込んでしまいそうなほど黒く、いつもはもっと明るい表情をしているのに晴花の顔からは何も感じることができないくらい無表情だ。
「お兄、いったい誰と海に行こうとしてるの?その水着お兄が着るんだよね?お兄が女装するってことは男友達じゃないよね?ねぇ、お兄ちゃんと説明してくれるんだよね?」
怖い、怖いのになぜか晴花かから目を離すことができない。普段はあんなに元気いっぱいではしゃいでいるのに今の晴花は水のように静かで、闇のように暗い。俺は精一杯声を出すとどうにかごまかそうと必死に頭を回す。
「これはその…そう!ほんとは一人で行こうt…」
「なんで噓つくの?」
俺が言い終わるよりも早く晴花は俺の言葉を途中で遮る。
「う、噓なんてそんな…」
「ほんとは?ほんとは誰と行くの?」
その顔は噓は絶対に許さないという圧を感じるほどだった。俺は少し怖くなり恐る恐る本当のことを話す。それを聞いているときの晴花の顔は一切動かず無表情のままで俺は一生晴花にはうそをつかないと誓った。
「てことは女装して女の子たちと海に行くんだ」
「はい、そうなります…」
「ふーん、そうなんだー」
晴花はいまだ無表情のまま会話を続ける。俺はいつ怒られてもいいように体を小さく丸める。
「そっかー、そればら晴花もついていいていいよね」
俺が小さくなって待ち構えていると、予想とは異なり嬉しそうな口調で晴花は手を合わせる。
「いやー、それはちょっと…」
「いいよね?」
俺が渋ろうとするとまたしても晴花の顔から笑顔が消え無表情のままこちらを見つめてくる。
「じゃあ、二人に確認してみていいよって言ってくれたら晴花も一緒に行こう。もしどっちか一人でもダメって言ったら流石に連れていけないからな」
「まぁ、それなら…」
俺がそう提案すると晴花はしぶしぶ受け入れてくれた。しかし小さな声で「もしだめでもこっそりと…」なんて言葉が聞こえたからあきらめる気はなさそうだ。俺はすぐに二人にROINをすると二人からは「おっけー」、「いいよ」とものの数分で返ってくる。晴花はそれを見るなり「晴花も明日の準備しなくちゃー!」といいながら俺の部屋を慌てて出ていく。
大きくため息をし、少々面倒になったなと感じつつも晴花の楽しそうな顔を見て、まぁこれでよかったのかなと思った。
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