第6話

あたしの目の前を歩く二人の美少女。一人はあたしの親友長谷部春奈。そしてもう一人が今日初めて会った少女、名前はユナというらしい。二人はなんだか楽しそうにお喋りしながらあたしの前を歩く。あたしはただ二人の背中を眺めることしかできなかった。そんな二人の後ろ姿、主にユナのことを見ているとその背中はやはりどこかで見たことのあるような気がした。そしてあたしはその後ろ姿に一人の男の子の面影を感じた。


「青葉・・・くん・・・?」


ユナの後ろ姿を見ながら歩くあたしは無意識にそんな言葉が口からこぼれた。どうしてそう思ったのか自分でもわからないけれどなぜか彼女の姿が彼に少し似ているような、そんな気がした。





青葉遥君はあたしと春奈のクラスメイトでどちらかと言えばあまり目立たないタイプの男の子だ。しかし頭はかなり良く、運動もでき、顔もそこそこ良いため陰ながら彼のことを好いている女子は割と多い。あたしもそんな彼のことが気になる女子たちの一人なのだが、別にあたしは頭が良いからとか運動ができるからとか、顔が良いからなんて理由で気になってるわけではない。


それはとある日の朝の出来事だった。あたしはその日部活の大会が近かったため朝も部活動に励んでいたとき、まだ教室には誰もいないような時間に彼が学校に登校する姿を見かけたことがあった。あたしは彼がどうしてこんな朝早くから登校してるのか少し興味はあったがそこまで気にしてはいなかった。


しかしその次の日もまたその次の日も、その次の次の日も彼は毎朝早く学校に来ては

いるもののなぜか教室に来るのはあたしと同じぐらいになることが多い。

なのであたしは教室にくる前に彼がどこに向かっているのかだんだん気になり始めて、後をつけてみることにした。


彼は学校に来るなり昇降口には向かわずその目の前を通り過ぎて裏庭の方へと歩いていく。あたしは彼にばれないようにこっそりと後を追う。そしてしばらく歩いた先にある角を曲がるとそこには小さいいけれどきれいな花を咲かせた花壇があった。あたしはその場で立ち止まり、花壇を遠目から眺めているとどこかからじょうろを持った青葉君が戻ってきてその花たちに水をあげはじめた。あたしはこの学校に一年と少し在籍していたがこんなところに花壇があるなんてあたしも含めほとんどの人が知らないんじゃないだろうか。ここには全くと言っていいほど人が来ないため雑草がかなり生い茂っている。しかし、花壇の周りだけは雑草は生えておらず丁寧に整えられていた。いままであまり男子に興味がなかった私だったが、そんな彼にだけは興味がわいてきた。


次の日もあたしは朝早くに学校につくと彼が来るのを待った。そして彼が来ると後を追いかけ水やりをしている姿を遠くから眺める。次の日もその次の日も、彼は必ず同じ時間に来ては水やりをする。そして少しだけ花にしゃべりかけると教室へ向かう。彼は教室にいるときにはほとんど笑ったりしないたりせずどこかつまらなそうにしているため、彼のそんな優しそうな顔を見るのは初めてだった。





そんなことを思い出しあたしは前で楽しそうに会話をする二人の姿を見る。そしてやはり思う。ユナのあの笑顔は青葉君が花に向ける顔と似ているなと。そう考えてみるとユナの身長はだいたい青葉君と同じぐらいに感じる。それにあの目、青葉君の目はすべてを吸い込んでしまいそうなほど黒い眼をしている。そんなところもそっくりだ。それにユナの名字は青葉だと春奈が言っていたしね。


あたしは確信したユナの正体はおそらく青葉遥君だと。しかし、なぜ青葉君が女装しているかが見当がつかない。


(もしかしたら春奈と二人してあたしのことを驚かせようとしている?)


春奈はそういったドッキリなどは大好きなためありえなくはない。しかしそれにしては春奈は普段より楽しそうに話しているし、こっちをだましているようなそぶりもない。あたしはどうして青葉君がそんな恰好をしているのか気になりすぎるあまり歩いている最中も映画上映中も青葉君の顔から目が離せなくなっていた。ちなみにそのせいで映画の内容は部分的にしか入ってこず、かなり気になっていた作品だったため少し後悔した。





映画が終わると春奈は「ごめん、私少しだけお手洗い行ってくるね」と言いながら駆け足でトイレのほうへと向かってしまった。残った私はどうすればいいのかわからず無言の時間が続いた。


(これはチャンスなのでは?春奈はいない今ならどうしてそんな恰好をしているのか聞ける。でもこれでもし人違いだったら…ええい、ままよ!)


あたしは無言の空気を断ち切るようにして青葉君?に声をかける。


「ねぇ…」


「どうしたの?」


それはとてもかわいくて男とは到底思えないような声をしていた。だがもう止められない。あたしの次の言葉はもう喉元まで来てしまっているのだから。


「もしかして…青葉君?だよね…?」





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