第5話

とある月曜日の朝、あたしが学校に着くと教室では廊下のほうまで盛り上がるように会話をするグループの声が聞こえた。教室に入り見渡してみるとそのグループの中心には、小学校の頃からのあたしの親友長谷部春奈の姿があった。私が近くまで行くと会話の内容を少し聞いてみる。どうやら春奈に何かいいことがあったようでみんなはそれについて質問しているらしい。


「えー、どんなことがあったか教えてよー」


「んーそれはね~、ないしょ」


そんな会話を続ける輪の中にあたしは春奈の後ろから近づくと声をかける。


「あたしならいいでしょ?」


声をかけると春奈はあたしが来たことに気づき嬉しそうに抱きつき体に顔を埋める。あたしはそんな春奈の頭をいつものようになでてあげるとまたしても嬉しそうに顔を擦り付ける。春奈からくるなんだか暖かい花のような匂いがし、あたしがどんな時でも心を落ち着かせてくれる。


「それでどんなことがあったの?」


「う〜んとね、新しいお友達ができたの」


春奈はあたしの服から顔を上げると耳元であたしにしか聞こえないくらいの声で囁く。あたしはそんな春奈の姿がかわいくて愛おしいかった。


「その子はどんな子だったの?」


あたしはその“新しいお友達”について詳しく聞くことにした。しかしそれを聞くと春奈嬉しそうにその子との出来事についていろいろと話してくれた。その姿はとても嬉しそうであたしにもあまり見せないような笑顔で話してくれる。それが少し悔しくて嫉妬してしまいそうだったが春奈の笑顔を見るとそんな気持ちもどこかへ飛んでいってしまった。


(もしあたしの春奈に悪い奴が近づいてきたらあたしが追い払ってあげないと)


春奈は良くも悪くも騙されやすいタイプだ。だから近くにいるあたしがしっかりして春奈に悪意が近づいて来ないように周囲を警戒してあげないといけない。






その後、春奈から“新しいお友達”について詳しく聞いてみるとどうやら複数の男性に絡まれていたところを助けてもらったらしい。どうやら悪い人?ではなさそうだ。しかしどうにも好かん。なんせそのユナちゃんとやらの話をする春奈は終始楽しそうで目の前にあたしがいるというのにどこか遠くを見るような目をしている。


(春奈をここまで育ててきたのはあたしなんだ。それなのに横から出てきた子なんかに春奈を取られてたまるか。その子に直接会って化けの皮はがしてやる)


別に春奈が騙されてると決まったわけじゃないが私はそう決意する。あたしは怖かったのだ、終始楽しそうな春奈のことを見ているとこのままだと取られてしまうんじゃないかと不安な気持ちがあたしの中を駆け巡る。


「ねぇ、あたしもそのユナちゃんって子に会ってみたいんだけど?」


「え?ほんとー⁉私もユナに冬雪のこと紹介したかったんだよね!!冬雪とユナなら絶対すぐに仲良くなれると思うんだよね!!」


春奈は満面の笑みで答えると嬉しそうにその場で跳ねる。


「そうね、あたしもユナちゃんと仲良くできそうな気がするは…」


(もしあたしから春奈をとるとると言うならその時は…)





その週の日曜日、春奈とユナちゃんが一緒に映画を見るとのことだったのであたしも同席させてもらうことにした。今週はずっとユナちゃんの話ばかり聞かされていたためあたしもユナちゃんという存在にかなり興味があった。なんせ春奈はあたしとは違い誰とでもすぐに仲良くなれるタイプだ。しかしここまで執着しているところは見たことがなかった気がする。なのであたしもユナちゃんがどんな人物か春奈からの話を聞くことでなんとなくわかった気がしていた。


「ごめーん、まった?」


あたしが待ち合わせ場所で待っていると春奈が遅れて走ってくるのが見えた。


「うんん、そこまで待ってないよ。むしろ時間通りに来るなんてめずらしいね」


「ユナと会うのに遅刻なんてできないよ!!」


「ふ~ん、あたしとのときならいいんだ~」


「しょ、しょんなことないれふ」


あたしは春奈のぷにぷにの頬っぺたを左右に引っ張ると春奈は少し涙目になりながら私の手を握る。


あたしが満足して手を離すと春奈は赤くなった頬っぺたさすり始める。その姿もかわいくてつい抱きしめたくなってしまう。しばらくして頬っぺたの赤さが元の色へと戻っていくとなにかやる気を出したような声をだしてあたしのほうを向く。


「それじゃあユナのところに行こうか!」


春奈はほかの人が見てもどこか機嫌のよさそうな足取りで歩き始めた。





あたしたちが待ち合わせの駅に向かうとそこは日曜日の昼ということもありかなりの人でにぎわっていた。この人数だとさすがに一人でいる人を探すのは難しい。それにあたしはユナちゃんの顔を見たことがないため手伝うこともできない。こうして数分歩き回っていると春奈がいきなり走り始めたため、あたしは春奈の背中を見失わないように追いかける。春奈は少し走ると「ユナ~」と大きな声をあげながら手を振り始めた。それに反応したのか春奈目線の先にいる一人の少女が「春奈~」と言いながら手を振り返そうとするがその手は途中で止まてしまう。どうやらその少女はあたしの姿を見て驚いているらしく体を硬直させてしまっている。それもそうだ春奈は「ユナには当日まで内緒にしておく」といっていたため知らない人がいきなり現れ驚いた様子だ。


あたしは春奈がユナと呼ぶ少女を見ると驚きを隠せなかった。話には聞いていたがかなりかわいい。その少女はまるで作り物の人形のように白い肌とその少女のためだけに作られたといわれても過言ではないほどその服装は美しかった。春奈が守ってあげたくなるようなかわいさならこの少女は何者にも汚されていない純白の宝石のような美しさがある。それは見るもの全てを虜にしてしまいそうなほどだ。

だがあたしはその少女を見ると少し違和感があった。それはまるでなじめてあった気がしないどこか見覚えのある雰囲気をたどわせていた。


春奈はその少女のもとへつくなりあたしの紹介を始める。


「紹介するね、こちら私の親友の冬雪。ユナの話をしたらあってみたいっていうから連れてきちゃった」


春奈はそんな風にあたしを紹介すると少女はどこか居心地の悪そうな表情をとる。その表情一つとってもそのかわいさは揺るがない。だがやはりあたしはこの少女のことをどこかで見たことがある気がする。それがどこでなのかは全く見当がつかない。なんせここまでかわいければ必ず覚えているはずだからだ。いったいどこで見たのだろうと考えているとユナと呼ばれた少女はすこしたどたどしい態度で私に声をかける。


「え、あ、はい、、よろしくお願いします」


かわいい、、見た目だけではなく声すらもかわいいこんな事があっていいのか?あたしがもし男だったらこのまま勢いで告白をしてしまいそうなほどだ。こわかわいさにあたしはさっきまでの違和感は気のせいだと思うことにした。


「どうも…」


ユナのあまりにもかわいさにそんな言葉しか出なかった。


(ちょっと不愛想だったかな?でも、こんなかわいい子を直視しながら会話なんてできないよ)


本当はもっと話したい気持ちがあったがこれ以上はあたしは自身を抑えることができなくなりそうだ。あたしはただそのかわいさを見つめることしかできなかった。





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