第3話
月曜日の朝、俺が学校の教室の扉を開けると長谷部さんはすでについておりいつものように友達たちと話をしていた。俺は入るなり自分の席に着くといつものように一人本を読み始めた。
「ていうかはるちゃん今日いつもよりテンション高いね」
クラスメイトの一人が長谷部さんに向かってそんなことを言った。あまり盗み聞きはよくないかもしれないが昨日の一見以来長谷部さんのことが気になっていた俺は本を読むふりをしながら彼女たちの話に耳を澄ませていた。
「え~そうかな~」
「そうだよ、絶対何かいいことあったでしょ」
「ん~まぁ、あったといえばあったかな~」
「えー、どんなことがあったか教えてよー」
「んーそれはね~、ないしょ」
長谷部さんはそう言うと両手で口元を覆うように隠した。そのしぐさもかわいくてつい守ってあげたくなるような気持ちになる。
「あたしならいいでしょ?」
その会話に途中一人の少女が入り込む。彼女の名前は神崎 冬雪(かんざき ふゆき)は少し高めの身長にウルフぐらいの黒みがかった青色の髪をしたクールな感じの子だ。長谷部さんとは小学生のころから親友らしくその美人系の顔立ちは男子からかなり人気がある。
「冬雪にだったら話してもいいかな~」
「えー、ずるい~」
そんな会話を聞いていると俺の背中に強い衝撃が来た。
「よぉ、何朝からニアついってるんだよ」
「はぁ⁉別にニアついてねーし!!」
こいつの名前は石田 亮(いしだ りょう)。中学のころからの友達で今では俺の頼もしい親友だ。俺とは正反対の性格で顔はかなりかっこよくがさつなところもあるがみんなからは慕われているクラスの中心人物だ。他の人たちは俺と話すのをすぐやめてしっまていたがこいつだけは俺のことをしつこく誘ってくれていた。そのせいかこいつとだけは普通に話すことができ、今じゃ互いの悩みを相談することもある。そのため俺が女装していることを知るもう一人の人物だ。
「なんだ、かわいい服でも買ったのか?それなら着てるとこ見せてくれよ」
「ちがっ、そんなんじゃねーよ。いや、実はな…」
俺は迷ったが昨日あった出来事を洗い浚い話すことにした。
「ってことはお前、春奈ちゃんとデートしたのか!」
「ちょっ、ばか、声が大きい。それに話聞いてたのか?偶々お茶しただけだ!!」
「ふ~んどうだか。俺が頑張って汗かきながら部活をしている中、お前は女装でデート。全くいいご身分だな」
「そんなこというなよ、第一こっちはずっとばれるんじゃないかってひやひやだったんだぞ」
「それにしてもお前の女装と春奈ちゃんとのツーショットか…俺も見たかったな~」
「おまっ、他人事みたいに言いやがって…」
「でも実際お前の女装はかわいいからな、春奈ちゃんもかなりかわいいしそんな二人のツーショットは是非とも見たかったな~」
「お前そんなこと言うと二度と遊んでやらんぞ」
そう俺は知っている。こいつは俺の女装した姿を写真に撮り彼女だと言って自慢したり、それを使って女子からの告白を断っていることを。正直俺からすればどうして女の子からの告白を断るのか理解ができない。まったくモテる奴の考えはわからん。
「そういうなよ、俺の生きがいはお前とデートすることだけなんだからさ」
「それなら別の生きがい見つけろよ。お前モテるんだから彼女くらい作ればいいだろ?」
「馬鹿かお前、あんなかわいい女装見せられてデートまでしたんだ、いまさら他の女子となんて付き合えねーよ。もういっそのことお前女になれよ。そうすればお前も堂々と女装できるし俺にも彼女ができるwinwinの関係じゃないか?」
こいつ本当に頭いかれてるんじゃないか?なんでこんな奴がモテるんだろうな…結局顔か!!顔なのか!!世界はどうしてこんなに理不尽なのか…。
「そんなことしねーよ。お前、それ以上言ったら本当に見せないからな」
そのタイミングでホームルーム開始の鐘が鳴り亮は「わるかったって」と言いながら自分の席に戻っていく。
俺は一人になるとスマホに一軒の通知が来ていることに気づく。その内容は長谷部さんから「次の日曜日一緒に映画に行かない?」というものだった。俺は少し考えたが昨日の楽しい時間を思い出し「いいよ」と返信した。するとすぐに「ほんと!!楽しみにしてるね!!」というメッセージが返ってきた。俺はそれがなんだか楽しみになり少しやる気が出てきたのだった。
日曜日の昼、俺は長谷部さんと映画を見るために待ち合わせの駅の前で待っていた。しばらく待っていると遠くから「ユナ~」と手を振りながら走って来る長谷部さんの姿が見えた。俺はそれに気づくと「春奈~」と言いながら手を振り返そうとした。しかし俺は長谷部さんの後ろにいる人を見ると体が硬直してしまった。俺の視線の先、そこには同じクラスの神崎冬雪さんの姿があったからだ。
「紹介するね、こちら私の親友の冬雪。ユナの話をしたらあってみたいっていうから連れてきちゃった」
長谷部さんは俺のもとに来るなり肩で息をしながら彼女の紹介を始める。
「え、あ、はい、、よろしくお願いします」
俺はそんなたどたどしい態度をとりながらも頑張って平静を取り繕った。
「どうも…」
神崎さんはそんな一言だけ俺に言うとじっと見つめてきた。
(まさか男だってばれてないよな?)
そんな不安を抱きながら俺たちは映画館へと向かった。
俺たちは映画館につくなりチケットとポップコーンを買うとすぐさま劇場へと向かった。
俺たちが見るのはいわゆる恋愛物語だ。主人公である男の子が偶然クラスメイトの秘密の日記帳を見てしまい、彼女の余命がもう長くないことを知る。そのことを知ってしまった主人公は彼女の「死ぬ前にやりたいこと」に付き合っていくうちにお互いのかけている部分にそれぞれ憧れを持つようになり、次第に心を通わせて成長していくといった物語だ。
俺はあまりテレビとか見ないタイプの人なので見ていてあまり興味の出るものではなかったため、内容が全然頭に入ってこなかった。というよりも左からものすごい視線で睨んでくる人物がいるせいで余計に集中できない。席の順番は右から俺、長谷部さん、神崎さんという順番なのだが如何せん左からの視線が気になる。その視線を送っているのはおそらく神崎さんだろう。なんてったて横にいる長谷部さんは映画を見て物凄く号泣しているのだ。
(神崎さんすごい見てくる。もしかして本当にばれてるんじゃないか?)
そんな不安な気持ちの今映画の内容なんてまったく頭に入ってこなかった。
「んー、すごくよかったー」
映画が終わるなり長谷部さんは背筋を伸ばしながらそういうと俺たちは劇場を出た。
「うん、すごい良かったね。あたしもあんな恋がしたいな」
そんなことをいう神崎さんに対し俺はほとんどこっちなっか見てたのによく内容が入ってきたなと感心する。
「ごめん、私少しだけお手洗い行ってくるね」
そういいながら長谷部さんは駆け足でトイレのほうへと向かっていった。そして残された俺たち二人の間にはしばらく無言が続く。その無言の時間は短いようで長く感じ俺は長谷部さんが早く帰ってきてくれることを念じ続けた。
「ねぇ…」
そんな無言の空気を断ち切るようにして神崎さんが話し始めた。俺は正直驚いた。神崎さんは最初の挨拶以来俺にまったく話しかけてくるそぶりはなくただ見つめてくるばかりだった。
(やばい、ほんとに俺が男だってばれたんじゃないか?)
そんな不安を押し殺すようにして俺は神崎さんの方に向き合う。
「どうしたの?」
俺は自分が出せる精一杯の女声で対応し、少しでも女の子っぽく装う。
(もしここで男だと疑われてもこんだけかわいくしていれば乗り切れるはず…)
「もしかして…青葉君?だよね…?」
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