第2話

(俺はいったい何をしてるんだ…」)


俺の目の前にある机の上には小さいケーキがいくつも並んでいる。そして対面にはケーキを頬張るように食べる長谷部さんの姿があった。





数分前


「この後暇?もしよかったら少しお茶でもしない?」


俺の服の裾を掴んで長谷部さんは首を少し傾げて聞いてくる。長谷部さんはクラスでもかなり人気があり、学園のアイドルと言われているほどだ。見た目はどちらかといえばかわいい系で少し波がかった茶色い髪は腰あたりまでのびている。そんな子に「お茶しない?」なんて聞かれたら全国の男たちは「もちろんです」と答えてしまうだろう。無論俺も男だ。こんなかわいい子に誘われたら即オッケーしてしまうところだ、ところなんだが…俺は今女装しているのだ‼︎こんな格好いつバレるかわからないのに一緒にお茶なんて…でも、もしこの誘いを断ったら今後こんな機会は一生ないかもしれない。


「もしかして何か用事でもあった?それなら今度でも…」


(あー、なんか少し悲しそうな顔をしてしまった。こんなの断れるやついるのか?)


「いや、全然暇だよ?だから一緒にお茶しよ」


俺はあざとい声でそう答えた。自分で聞いててぞわぞわしてくるその声はいったいどこから出てるんだ?正直これ以上一緒にいるのはリスクがあるがこんなかわいい子を悲しませるなんて俺にはできない。それに今まで女の子となんてまともに喋れなかったけどこの姿なら意外と話せるのでは?そうだ、別にバレなきゃ問題ないんだ。今までだって誰にもバレてこなかったんだ。一緒にお茶するくらいなんてことないはずだ‼︎





そんなことがあり現在にいたる。今俺たちがいる店は女性限定のスイーツ食べ放題の店だ。正直かなり興味があった。しかし女性限定ということもあり入ることができなかったのだ。もちろん俺の女装ならばなんとかなったかもしれない、かもしれないが...これは俺の尊厳の問題だ。ここでこの店に入ってしまったらなんか男として負けな気がした。


「もしかして甘いもの嫌いだった?」


長谷部さんはケーキを食べる手を止めてこちらを見つめる。少し前かがみに上目遣いをして、長い髪を耳にかけているせいで首元まで見えているその姿はなんか少しエッチだ…。


「うんん、そんなことないよ。わたしこの店ずっと興味あったけど一人ではなかなか入れなかったから長谷部さんとここに来られてすごくうれしいよ」


俺はまたしてもそんな風にあざとく返す。俺はいったい今何をしているんだ…。もう恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ…。


「そう?それならよかった。実は私も一人ではなかなか入る勇気がなくてユナちゃんがいてくれて凄く助かったの。それと、私のことは春奈でいいからね。女の子同士なんだからさんずけとかしなくていいからね」


「え、あ、、そうなの?じゃあ、春奈って呼ぶね」


正直女の子を下の名前で呼び捨てするなんてすごく恥ずかしい。でも俺はちゃんずけでよぶには少し勇気が足りなかった。


「よかったらさROIN交換しない?」


ROINとはユーザー同士で、無料でメッセージのやり取りや、音声通話、ビデオ通話ができるアプリのことだ。


こんなかわいい子と交換できるなんて今回で最後かもしれない。そう思い俺はそのお願いを承諾した。


(おー!俺のスマホの中に女の子の連絡先が…なんだか考え深いな。今まで家族と一人の友達しかいなかったところにこんなかわいい子の連絡先が追加されるなんて…)


そう俺がしみじみに感じていると


「ねえ、この名前の“A”っていうのはなに?もしかして名字?」


やらかした…。俺のROINの名前は自分の名字のイニシャルで登録していたのをすっかり忘れていた。しかし“A”だけならまだ何とかなるかもしれない。


(ここは正直に答えるべきなのか、それともうそをつくべきなのか…)


少し考えた末に俺は正直に言うことにした。


「うん。実は名字“青葉”っていうの」


「へ~、そうなんだ。実話ね私のクラスにも青葉って名前の男の子がいるんだよね~」


「へ、へーそうなんですね…」


(それ俺のことです)


俺はどう返せばいいのか分からずただうなずくことしかできなかった。


「もしかしたら兄妹だったり?なんか雰囲気も少し似てる気がするんだよね~。ちなみに私は青秀学園の二年なんだけどユナちゃんはどこの高校なの?」


兄妹っていうか本人なんです。ここはどうしよう流石に同じ学校だとうそってばれるよな。


「わたしは聖蓮女子高校の二年です」


俺は妹の高校をいう事でしのぐことにした。俺は妹とは割と仲が良くときどき二人でお出かけをするときもある。もちろん女装をしてだけど。そもそも俺が女装に目覚めたのは妹の影響が大きい。妹が「ねえ、ちょっと化粧の練習させてよ」なんていい俺に化粧をさせたとき俺は自分のかわいさに気づいてしまったのだ。そのため妹は俺が女装していることを知るこの世にたった二人しかいないうちの一人なのだ。


「うそ、聖女なの⁉ちょーお嬢様じゃん!!」


「そ、そんなことないですよ。確かにお嬢様っぽい子も多いですけど、わたしは別にそういうのじゃないですから」


「そうなの?でも聖女ってすごく頭いいところだよね‼︎確かにユナちゃんすごく頭良さそうな感じする」


「そんなことないと思いますよ」


俺は妹のことを考えてみる。確かに妹は頭はいいけど家ではぐうたらしてることが多いしお嬢様って感じはしないよな。


「さっきから無理して敬語で話さなくてもいいんだよ。私たち同い年なんだしさ、それに私のことは春奈って呼んで。私もユナって呼ぶからさ」


「うん、わかった。よろしくね春奈」


そんな会話をしているうちに時間はどんどん過ぎていった。正直女の子とこんなに話したのは初めてかもしれない「こんな時間がずっと続けばいいのに」そんなことを考えている自分がいた。





「今日は付き合ってくれてありがとね。ユナといるとすごく楽しかった!!」


前を歩く長谷部さんは楽しそうにこちらに振り返ると笑顔でそう言った。


「わたしもすごく楽しかったよ」


これは事実だ。今日一日長谷部さんといた時間はすごく楽しかった。それだけになんだか寂しい気持ちになった。今日ここで別れればいつものように学校が始まる。さっきまであんなに楽しくすごしていたのに教室では話すことすら出来なくなる。それに長谷部さんは俺が女装していることには気づいていない。それも仕方のないことだ。


俺は女装がばれなくてうれしいようなそれでいて学校では話すことができず悲しいようなそんな矛盾した気持ちがこころをぐるぐるとかき回す。


「もしよかったらさ、来週も遊ばない?」


そんな俺のことを知ってか知らずかそんなことを口にする。


「え?いいの?」


「もちろんだよ!!今日一日すごく楽しかったもん。だから次もまた一緒に遊ぼ!!」


その言葉に俺は頷く。そして絶対に女装がバレないようにする事を誓った。





____________________________________________________________________________

本編をよんでいただきありがとうございます。

少しでも面白い、続きが気になると思っていただければ☆とフォローをしてくれると励みになります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る