第十九話 合流

 威龍と雛を客桟に置き、哉珂は教会の裏手にから仲の様子を窺っていた。

 しかしまるで何事もなかったかのように一般開放区は人が歩いている。子供を連れて散歩をしていたり恋人同士が語り合ったりと至極平和だ。


(教会側は変化なしってとこか。笙鈴は予定外だっただろうが、あんなのは閉じ込めておけば良いだけだ)


 大騒ぎになっていればそれに乗じて教会内部を調べることができただろう。

 だがこうも安定した日常を送っていると、何をしても哉珂が侵入者で悪者になる。

 ぐっと哉珂は拳を握りしめ、最も怪しい祈りの塔に目を向けた。

 人の姿は見えるが何をしているかは分からない。神官なのか笙鈴なのか、男か女かもここからでは分からず、忍び込んだところで無駄の可能性がある。

 少しの間迷っていると、ぽんっと何者かに肩を叩かれた。咄嗟に哉珂は跳ねのけ腰の短刀を抜いたが――


「お待ち下さい! 私です!」

「仔空!」


 声をかけてきたのは仔空だった。いつの間にか別行動になっていたが、追いかけて来てくれたようだった。


「よかった。どこにいらしたんです」

「色々な。それより教会の中を調べたいから口裏を合わせてくれ」

「構いませんが、今は良くない。笙鈴のことで神官が気を張っている」

「そういや笙鈴は急にどうしたんだ。今まで静かにしてたんだろう?」

「分かりません。ただ先日、祈りの塔から連れて行かれた有翼人女性がいます。確か笙鈴の前に教祖だった方で、それから笙鈴は様子がおかしくなったように思います」

「元教祖? ふうん。笙鈴は今も祈りの塔にいるのか?」

「はい。最上階の十階で、窓が一つあるだけです」

「当然鍵はかかってるよな」

「はい。それも各階に二つは扉があって全て鍵が違います。今までも侵入者は全員あそこに隔離されました」

「侵入じゃなく客が来なかったか。有翼人の男と有翼人の子供を抱いた少年だ」

「客? いいえ。少なくとも正面からは誰も」

「お前が知らないだけの可能性は?」

「あります。ですが正面以外の出入り口は地下か崖側です。客を歩かせるとは思えませんね」

「歩かせたなら分からないってことだな」


 哉珂はきょろきょろと辺りを見回してから、じっと祈りの塔を睨んだ。

 少しだけ目を瞑り考え込み、とんっと仔空の肩を叩いた。


「協力してくれ。時給銀一で上限無しだ」

「太っ腹ですね。いいでしょう」


 哉珂はぴんっと銀貨を弾いて仔空に渡す。仔空は器用に空中でそれを掴み、にやりと笑みを浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る