第11話 魔物

少し歩いた頃


アレス先生は立ち止まり、おもむろに壁の方向に指をさしてこう言った。


「ソニアさん。角を曲がった先に魔物がいますよ。」


魔物?何も音とか聞こえないのにどうして分かるんだろう。


「魔物ですか?どうしてわかったんですか?」


「感覚を少し尖らせて魔力感知してみてください。」


私は言われた通り魔力感知を行うため目を閉じ深呼吸をした。そして、その感覚を集中させ、周囲の魔力を感じ始めた。


先ほど壁に含まれている魔力を感知することができなかったが


「確かに…何かがいますね。」


先生が指した方向に僅かながら魔力の微妙な波動を感じた。この魔力が魔物かどうかなんてわからないが、感知した魔力が動いているのが分かった。


「ではソニアさん。角を曲がったら直ぐに無詠唱でウィンド・カッターを放ってください。」


「ウィンド・カッターですか?」


「そうです。ウィンド・カッターです。ソニアさんが使える魔法の中で一番殺傷能力が高い魔法ですので簡単に倒せるはずですよ。」


「魔法を外したとしても慌てずに魔法をもう一度放ってくださいね。私はソニアさんがピンチにならない限り手を出すつもりはないので頑張ってください。」


ピンチになったら助けてくれるとは言っても、、、初めての魔物との戦闘で不安と緊張にかられた。


「私一人ですか・・・わかりました。・・・・・・頑張ります。」


そう言うと、アレス先生は優しく微笑み


「魔物はまだ動いていませんので心の準備ができたらお願いしますね。」


私は頷きながら、自分の心を落ち着かせ、ウィンド・カッターを発動時の魔力の流れと風の刃のイメージを心に浮かべた。


「ふーーふーー」


呼吸を整え、いつでも魔法を放てるように準備ができたが、私の心臓の鼓動が鳴りやまなかった。


この緊張や不安が私を押し潰すような感じに襲われた。


「「よしいくぞ」」


心の中でそうつぶやいた。


私は勢いよく通路の曲がり角に出てウィンド・カッターを放った。


いや、放ったはずだった。その魔物は体が半分になっても死なず、あまつさえ体が元通りになった。


「「あれってスライム?」」


私の目の前にいたのはゲームなどで最初に出てくる定番のスライムだった。


少し薄水色の半透明な球体で、サッカーボールぐらいの大きさをしている。表面は滑らかで、光を透過するような透明感があった。


そうして観察していると、スライムは私に向かって飛び込んできた。


「キャー」


私のお腹に直撃して私は少し飛ばされてしまった。かなりの速さで、スライムの動きが見えても体まで反応できなかった。


「痛い・・・」


少し飛ばされたが意外にもそれほど痛みはなかった。私が今着ている防具が身を守ってくれたのだ。


私は直ぐに立ち上がりもう一度ウィンド・カッターを放った。しかし、スライムの体がまた再生し始めた。


「「ウィンド・カッターじゃ倒せないの?」」


そう思っていると、スライムの半透明の体の中に少し色が違うビー玉みたいなのがあった。


ゲームだとスライムは核を壊せば倒せると定番なので、私はすかさずスライムが再生し終わるまでにビー玉に向かってウィンド・カッターを放った。


「死んだのかな?」


私が放った魔法がビー玉に当たってスライムは水風船のようにしぼみ、再生や動く気配がなかった。


そうしていると後ろの方で拍手が聞え後ろを振り向いた。


アレス先生がこちらに拍手しながら笑顔で歩いて来ていた。


「ソニアさんおめでとうございます。どうですか初めての魔物との戦闘は?」


私は埃を払いながら今の気持ちを率直に答えた。


「そうですね・・・疲れました。」


アレス先生はにこりと笑い


「そうですかお疲れ様です。怪我もしていないようなので良かったです。」


「戦闘を見ていて良く出来ていましたよ。スライムは核を壊さない限り再生ができますので、状況を判断して核を壊しに行った行動は凄く良かったです。ただ、スライムの攻撃を食らったのは良くなかったですね。」


「今回はスライムなので攻撃を食らっても怪我などは滅多にしませんが、強い魔物はどの攻撃は一度でも食らうと死にますので注意してください。攻撃を避けれないのなら防御魔法を使うのがいいですよ。」


私自身も反省すべきことが沢山あったが、こう言われるとスライムの攻撃を食らったのは痛感だった。


確かにスライムの攻撃は目で見えていたのだから、防御魔法を発動させる時間はあった。折角習った魔法を使えないのは良くなかったと思った。


「アレス先生ありがとうございます。今回の戦闘で得た教訓を胸に刻みます。」


今回は初めての戦闘だったが、これからも魔法での戦闘があるためしっかり心に刻んだ。


「ソニアさんが分かってくれて先生も嬉しいです。では、少し休憩してからもう少しダンジョンを進みましょうか。」


こうして私達は少し休憩してダンジョンを進んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大好きだった小説の物語に転生!?しかし転生先が悪役令嬢の下っ端のモブ役!? きりいわ @inyy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ