エピローグ

 飾り棚の上段には、ピンクの花柄のティーカップが飾られている。


 2段目には、白いティーカップが飾られている。


 3段目には、可愛い缶に入った茶葉が飾られている。


 4段目は、今のところ飾る物がないので、空っぽだ。


 茶菓子は、クロークルームの棚に片付けられている。


 フラウムは、ドレスを全て出して、クロークルームにかけることにした。


 侍女の仕事を奪っては、申し訳ない。


 彼女たちは、魔力がないことで、一族から冷たい待遇を受けていたようで、学校もプラネット家の学校ではなく、普通の貴族が入る学校に入っていたようだ。


 卒業して、スピラルの塔で販売員として働いていたという。


 婚約者のいない彼女たちは、仕事の軌道が乗ったら平民として、プラネットの名を返上するように言われていたらしい。


 名をノンナとメールという。ノンナは21歳で、メールは22歳。この世界の結婚の適齢期をとうに超えている。貴族の令嬢らしく、長い茶色の髪に、水色の瞳をしている。長い髪は結い上げられている。


「私たちは、この髪色と瞳の色で、家族から落胆され続け、婚約者さえ探してもらえなかったのです」と彼女たちは言った。


 美しい顔立ちをしているのに、あまりにも可哀想だ。


 ノンナとメールは、侍女の話の打診を受けたときに、すぐに受けようと思ったのだという。


 ずっと子爵だが貴族の令嬢として育ってきたので、平民として暮らす勇気が、持てなかったのだという。



「フラウム様、今日の予定は、春のドレスを作るために洋服屋が参ります。午後からは、皇妃様の貿易の勉強です」


「はい」


「今日のお召し物は、どのように致しましょう」


「今日は妃様との勉強会があるので、畏まったものがいいかしら?クリーム色のドレスはどうかしら?」


「とてもお似合いになるので、いいと思います」


「では、それで」



 寒い季節の洋服は、3着しかないので、選びようもないのだけれど、彼女たちは一生懸命に仕事をしてくれる。


 急いでドレスを出してくると、着替えを手伝ってくれる。


 ドレッサーで髪を丁寧に梳かしてもらっていると、扉がノックされて、ノンナが出た。




「旦那様です」



 フラウムは立ち上がった。



「食事に行こう」


「はい」


「では、頼むよ」



 二人の侍女は深く頭を下げた。


 シュワルツはまだ慣れない侍女にも気を遣ってくれる。



「フラウム、彼女たちはどうだい?」


「一生懸命に頑張っていると思います。あまり気を遣いすぎると疲れてしまうような気がして、ちょっと心配です」


「そうか」


「でも、お祖父様の推薦で来ているので、頑張って欲しいです」



 シュワルツは、頷いて、フラウムの手を握る。



「シュワルツは、何歳で歳を止めて欲しいですか?わたくしは、もう止まっています」


「それなら、若いうちがいいな」


「今夜、契約をしますか?」


「いいのか?私で」


「今更、わたくしの愛が重くなったのですか?」


「まさか、永遠の伴侶だ。フラウムに選ぶ権利があると思うから、確認しただけだ」


「あなたがいいの。わたくし以外を好きになったりしますか?他の誰かを抱いたりしますか?」


「私にはフラウムだけだ。慧眼で試してくれ」


「試しません。信じています」


「では、今夜だ」


「はい」


「どんな儀式かドキドキするな」



 フラウムは微笑む。


 シュワルツは、ずっと浮かれている。


 結婚が嬉しかったのだと思える。



「今夜が楽しみだわ」


「その前に、午前中に洋服屋が来るだろう?一緒に見てもいいか?」


「いいけれど、お仕事は大丈夫ですか?」


「午後からは仕事をするよ」


「それなら、一緒に選んでください」


「今度、宝石屋も呼びたいんだが、どうだい?」


「そんなに要りません」



 フラウムは、相変わらず、無欲だ。



「兄達の結婚式があるだろう?その準備をしておきたいのだ」


「それもそうですね。皆さん、同じではシュワルツの顔も立ちませんね」


「そうだろう?今日の洋服も余分に購入しておこう。派手やかな物がいいぞ」


「分かりました」



 シュワルツは指先にキスを落として、熱い眼差しを向けてくる。


 朝も抱き合ったばかりなのに、シュワルツはフラウムを翻弄する天才だ。


 ダイニングに到着すると、皇妃様がいらしていた。



「おはようございます」


「母君、今日は遅いですね」


「貴方達は、毎朝、こんなにのんびりしているの?」


「ええ、新婚ですから」


「シュワルツ、……もういいわ。早く子供が授かるといいわね」


「子供はゆっくりでいいのです。今は二人の時間を楽しみたいので」



 皇妃様の顔が、僅かに引き攣っている。



「皇妃様が呆れているわ」



 フラウムは、結婚してからネジが数本抜けてしまった旦那様の肩をトントンと指先で突く。


 その指先を掴まれて、パクッと口に入れられて、指をなめられる。



「きゃっ」



 突然のことで、つい、悲鳴が上がった。



「シュワルツ、いい加減になさいよ。あなたは皇帝になるのだから」


「いいではないですか。平和な国です。きちんとこの帝国を守っていきますよ」


「それならいいですけれど、人の目も気にしなさい」



 皇妃様は、この頃、小言が多くなった。



「母君、いつまでここに滞在するのですか?父君は、もうソレイユに戻っていきましたよ。夫婦なのですから、仲良くしてくださいね」



 いつもなかなか帰らない皇妃様に、シュワルツは嫌みを言う。



「いいのですよ。夫婦にもいろいろあるのです。適度に距離を置くことも大切な夫婦もあるのですわ」


「離縁しても、ここには置きませんので、お願いしますね」



 シュワルツは、皇妃様に釘を刺すと、椅子に座った。



「さあ、フラウム、食事にしよう」



 皇妃様は、怒ってダイニングを出て行った。



「シュワルツ、皇妃様と皇帝って、仲良くないの?」


「昔からあまり良くないね。繕っているだけで、本心は隠していらっしゃる。いつもここに来て、一人で過ごしているのですから。全く、子供が親の仲を心配しなくてはならないのは、どうにかして欲しいものだ」


「そうなのね?」


「フラウムは、気にするな。あまり騒ぐと怒り出すからね」


「大変なのね」


「父君は、今でもフラウムの母君を忘れられないのだ。初恋を拗らせて結婚したから、母君も可哀想な女性だよ」


「やはり間違いは、母の結婚なのですね。巻き戻すなら、あの時期が良かったのかしら?」


「おいおい。止めてくれ。そこで巻き戻したら、フラウムも私も消えてしまう。巻き戻しの術は、もうお終いだ。いいな?」


「ええ、そうね。シュワルツもわたくしも消えてなくなったら、この愛も消えてしまう」


「その通りだ」



 シュワルツは、フラウムの手を握って、指先にキスをする。


 皇妃様には申し訳ないが、フラウムは、このままシュワルツと二人で幸せになろうと思った。







 ・・・・・・・・・・




『拾った皇子と時空を超える。魔力∞でも、恋愛は素人なの」

 を読んでくださりありがとうございます。


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拾った皇子と時空を超える。魔力∞でも、恋愛は素人なの 綾月百花 @ayatuki4482

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