第35話 天上 第五章
ドラゴンの首に掴まり、フラウムは天上に上がった。
「降りよ」
「はい」
フラウムは、低くしてくれた首から、地面に降りた。
天上と言うから、雲の上かと思っていたら、普通の街がある。
シュワルツの宮廷の庭のようだ。
ユラナスは、人の姿に変わっていた。
「こちらに来い」
「ユラナスは、本当に皇子様なの?」
「そうだ。其方の魔力は無限大だろう。それに見合った者が契約する約束になっておる」
「その無限大が問題なのよ。一族の目の色が変わるのよ。怖いわ」
「人は欲深き者だ。フラウムはそうでもないな?」
「そんなことはないわ。わたくしはシュワルツを好きなの。それに医療も魔法も覚えたいの。欲深いわ」
「学ぼうとする姿勢は、欲深いとは言わない」
「そう?」
天上は温かく、綺麗な花が咲き、緑が豊かだ。
確かに時間がゆったり流れているような気がする。
「お腹は空いていないか?」
「さっき、お肉をいただいたわ」
「そうか、茶でも出してやろうと思ったが」
「お茶くらいならいただくわ」
ユラナスは、立派な建物の中に入っていった。
門番もいない。
白いお城のようだ。
白い人が、お辞儀をした。
フラウムもお辞儀をした。
「茶を持ってきてくれ」
白い人は何も言わずに、去って行った。
「お話ができないの?」
「わしとは口がきけぬ」
「どうして?」
「この世界の皇子だからだ」
「わたくしとは口を利いてくれるのね?」
「契約をしているからな」
「失礼しました」
フラウムは正式なお辞儀をした。
「そうではない。わしと其方は同等だ。分かったか?」
「恐れ多いわ」
「まあ、いい。座れ」
パッと目の前にテーブルと椅子が現れた。
ガゼボのようだ。
庭園に花が咲き乱れている。
テーブルの上に、お茶が乗っていた。
茶菓子はシュワルツが温室で食べさせてくれたプチケーキのようだ。
ケーキを口にすると、同じ味がした。
不思議に思ってユラナスを見ると、ユラナスは微笑んだ。
「記憶の味と違いはないな?」
「同じ味がするわ。美味しい」
「そんなにその男が好きなのか?」
「わたくしが助けたの。一緒に過ごすうちに好きになったの」
ユラナスの顔がシュワルツの顔になった。
「どうして、ユラナスはわたくしを惑わすの?これは、試験ね?」
「なかなか鋭いな」
ユラナスはシュワルツの顔で、お茶を飲む。
「心が弱くては、神聖魔法は習得できないからな」
「酷い」
フラウムはお茶を飲んで、丁寧にカップを置いた。
「時間がないわ。すぐに学ばせて」
「人は気が短い」
「シュワルツの顔で言わないで」
「この方が寂しくないだろう?」
「気が散るわ」
フラウムは魔眼を放った。その瞬間、シュワルツの姿が消えて、ユラナスの顔に戻った。魔眼は手で受け止めたようだ。
さすがドラゴンだ。
「では、行くぞ」
ユラナスは、フラウムの手を取ると、また視界が変わった。
今度は神殿だ。
その中に入ると、ひんやりとした空気が体を纏う。
「この中で、三日過ごしなさい。三日後に迎えに来る」
「何をするの?」
「何をしてもいい。自分で考えなさい」
そう言うと、ユラナスは姿を消した。
フラウムは、神殿の中を歩く。
時々、白い人がいる。
「神聖魔法を学びたいの」
白い人は一礼すると、歩いて行く。その後ろをついて行った。白い人が頭を下げた先を見ると、神殿の中央は円が何重にも重なった装飾がされていた。その中央に突き出た丸机があり、本が置かれていた。
フラウムは本の前まで歩くと、本を手に取った。
それを読んでいく。
フラウムは気づいていないが、フラウムの体が、白く輝いていた。
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