第33話 フラウムからの手紙

 今日はフラウムとダンスレッスンが行われる。早めに夕食を取り、お風呂に入ると、いつも以上にお洒落をした。


 お洒落と言っても化粧をするわけではない。


 綺麗にひげを剃り、髪を梳かし、お洒落な服を着るくらいだ。


 そろそろ出発しようとした時に、プラネット侯爵家から使いの者がやってきて、今夜は都合が悪く、ダンスレッスンは中止する事が書かれていた。


 フラウムは眠ったと書かれているのは、来るなという意味だろう。



「何があった?」



 洋服を寝間着に着替えて、布団に入ろうとした時に、窓を叩くモノがいた。



「猫か?」


「フラウムからだ」



 猫はしゃべった。


 窓を開けて、猫を部屋に入れた。猫にしては奇怪な尻尾をしている。ギザギザな尻尾はこの世界で見たことがない。顔は猫の顔をしている。



「オレ様は魔獣。雷獣のレースだ。フラウムの使い魔になった。フラウムから手紙を預かったぞ」



 レースはどこからか、手紙を取り出した。


 まだのり付けしたばかりのようで、すぐに封筒は開いた。


 便箋が一枚入っていた。



 最初に、『お誕生日おめでとうございます』と書かれている。



 続いて、『この呪文がプレゼントです』と書かれていた。呪文の前に*印が付けられている。




 呪文には振り仮名が書かれていた。



『呪文を唱えてください』と書かれている。



 シュワルツは、呪文を唱える。


 目の前に、黒い猫が現れた。



『名前を呼んで』と書かれている。



 猫をじっと見ると、猫の上に確かに名前が浮かんでいる。



「スクレ」


「私の名前はスクレ、あなたの名前を教えてくださいませ」


「シュワルツ・シュベルノバ第三皇子、この国の皇太子だ」


「シュワルツ、今日から私はあなたの召喚獣です。レースからフラウム様の事は聞いています。フラウム様は、魔力が高い事で、結婚はなしだと言われたそうです。それで、ダンスのレッスンも中止になったのです」


「スクレ、それは、本当の事なのか?」


「オレ様はレース。それは本当だぞ。フラウムは泣いて、その手紙を書いたのだ。契約の時に、伝書を頼まれた。スクレを側に置き、何かあれば、スクレがフラウムに連絡をする。フラウムが、相手が皇太子だと言うから、スクレは我が一族の王女だ。魔力は2万以上からだが、フラウムからもらうことにして、位の高い者を選んだ。力も強い。それが、フラウムとの契約だ。我が一族は電撃を使う。馬にもなる。側に置けば、守ってくれる。そのつもりでフラウムは、とびっきり強い召喚獣を選んだ」



 シュワルツは、考える。


 召喚獣は誕生日祝いだった。


 けれど、会うことを禁止されたので、前倒しに、この召喚獣を寄越した。


 魔力が高いから結婚の中止を命じられた。という事は、緋色の一族の中で、フラウムの結婚は進められてしまう。


 どうにかフラウムに会わなければ。


 パーティーまで2週間。


 それまでに、フラウムは結婚させられる可能性があるのか?



「フラウムに会いたいが、どうしたらいい?」


「今から行きますか?」


「行けるのか?」


「我が一族は、空を駆けます」


 スクレの躯が大きくなる。


「私に跨がってください」


「頼む」



 シュワルツは寝間着の上からガウンを着た。それから、スクレに跨がる。


 窓からスクレが飛び出した。本当に空を駆けている。あっという間にフラウムの部屋の前に着いた。


 レースが窓を叩いている。


 フラウムは窓を開いた。


 そこに、スクレとシュワルツが、するりと入る。



 +



「フラウム、魔力は幾つだったのだ?」


「まだ測定はしていないの。でも、この本が読めて、ドラゴンと契約した事を話したら、お母様もお祖父様も、一族から出したくはないとおっしゃって」


「どの本だ?」


 フラウムは、シュワルツの手を握って、本に触れさせるが、シュワルツは触れたことも分からないようだ。



「とにかく、古代魔法の本なのよ」



 フラウムはノートに書き出した物をシュワルツに見せる。



「全て、契約したのか?」


「そうよ」


「それは、またすごいではないか」


「シュワルツも魔力が高いから、結婚したくなったの?」


「フラウム、私とフラウムはキールの村で愛を育んできたのだろう?」


「そうよ」



 フラウムは、シュワルツにしがみつく。


 フラウムも寝間着にガウンを着ている。



「婚約者は決められたのか?」


「いいえ、まだシュワルツに会うなと言われただけよ」


「それなら、このまま宮廷に行くか?」


「それは駄目よ。今日、わたくしが執刀した患者がいるの。その術後の経過を見なければ、新しい術方を試したの」


「そんな事をしているのか?勉強をしているのではないのか?」


「火傷の患者をずっと診ているのよ。今日、自害しようとした女の子の再手術を行ったの。その結果を見なければ、火傷を負った二人を放っておけない」


「いつ頃治るのだ?」


「明日、患部を見て、良ければ、もう一人に再手術を勧めるわ」


「それは、フラウムしかできないのか?」


「母と二人でしたけれど、たぶん、わたくししかできないと思うわ」


「パーティーまで2週間だ。その2週間の間に、他の男と結婚させられるのか?」


「相手だって、決められていないわ」


「毎晩、逢いに来る。明日、また様子を知らせてくれ。途中で何かあれば、レースを送ってくれ。私も何かあれば、スクレを送る」


「シュワルツ、怖いわ。魔力の検査はどうするの?」


「水晶に手を翳すだけだ」


「たったそれだけ?」


「ああ、属性も全て分かる。宮廷にもある」


 フラウムは頷いて、シュワルツにもたれかかる。


「眠いのだろう?」


「眠いの。でも、眠ったら、すぐに明日になってしまうわ」


「今夜は休みなさい。私が窓から出たら、窓を閉めるんだよ」


「行ってしまうの?」


「ここに泊まるわけにはいかない」


「そうね」



 シュワルツはフラウムにキスをして、見つめ合った。



「明日も来る。約束だ」


「愛は冷めたりしないわよね?」


「冷めたりしない」



 フラウムは、何度も頷いて、「待っています」と答えた。



「スクレ、頼む」



 スクレの躯が大きくなる。シュワルツはそこに跨がると、窓が開いた。



「おやすみなさい」


「おやすみ。誕生日プレゼントありがとう」


 

 フラウムは、微笑んだ。


 シュワルツは帰って行った。


 フラウムは、魔術で窓を閉めると、レースにお礼を言った。



「レース、ありがとう」


「オレ様、役に立ったか?」


「とても役に立ったわ」



 フラウムはレースを抱くと、一緒にベッドに入った。



「レースは温かいわ」


「湯たんぽの契約はしてないぞ」


「オマケでつけておいて」



 フラウムは目を閉じると、すぐに眠った。


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