第32話 自習

 母が祖父に内臓の治療の授業の話をしてくれた。


 そうしたら、魔力検査を受けてからだと言われた。


 フラウムは授業に出ても、全てできてしまう。なので、自習になった。


 古代魔法の本を開いて、本を読みながら、召喚魔術をノートに書いて、唱えてみる。


 目の前に姿を現したのは、猫の顔に棘のようなギザギザな尻尾を持つ雷獣だ。

 

 出てきた雷獣は、何も話さないけれど、その雷獣を見ていると、名前が浮かんでくる。



「あなたは、レースね、お祖母様と同じ名前ね」



 名前を呼ぶと、雷獣は話し出す。



「おまえはなんというのだ?」


「初めまして、わたくしはフラウムよ。よろしくね」


「名前を読めたと言うことは、魔力は980以上あるな?」


「レースは魔力980以上ないと出てこられないの?」


「そうだ、雷獣は平均して980以上だ」


「わたくしは、980以上あるのね」


「もっとありそうだがな」


「ねえ、レース、わたくしの好きなお方にプレゼントを贈りたいの。ちょうど、魔力が980なんですって、召喚できるかしら?」


「980ならできるだろう」


「魔力980で召喚できる魔獣は他にいるかしら?」


「小さなネズミなら、魔力600くらいでできるぞ」


「まだ、本に出てきてないわ。その子は何ができるのかしら?」


「伝書ネズミだ」


「お遣いができるのね」


「オレ様とどっちが強いか分かってるのか?」


「レースは転移ができて電撃が落とせるのね」


「護衛に連れて行かれたぞ。体も大きくできる。馬の代わりになるぞ」


「まあ、そんなに強いの?」


「一億ボルト落とすぞ」


「一億ボルトが分からないわ」


「雷一発が、約一億ボルトだ。それをオレは連発できるぞ」


「それはすごいわね。でも、わたくしも雷なら落とせるわ」


「オレ様を要らないと言うのか?」


「要らないとは言ってないわ。ただ、言葉も伝えてくれたら便利だと思ったのよ」


「グヌヌ、できぬ事はない。ネズミの真似などしたくないが、頼まれればするぞ」


「そう、気に入ったわ。彼に召喚獣をプレゼントしたかったの」


「名前を読めなければ、契約できないぞ」


「魔力980って、聞いているの。できなければ、ネズミも用意しておくわ」


「なんと不抜けたオトコだ」


「不抜けてなんていないわ。だって、この国の皇太子よ。足りない魔力はわたくしが払うわ。とびっきり強い子をお願いね。彼、命を狙われているの」


「それなら*の印を付けておけ。オレ様が話を付けておく」


「レース、素晴らしいわ」


「煽てても、何もしないぞ」


「わたくし、召喚魔法の練習をしているの。よかったら、ここに一緒にいる?」


「いてやってもいいぞ」


 フラウムは、机の上の端にブランケットを畳んで置くと、レースを抱き上げてそのブランケットの上に置いた。


「そこで、勉強を見ていてね」


「いいぞ」



 レースは毛繕いを始めた。


 フラウムは、便箋に召喚魔術を書いて、先端に*マークを付けた。


 追伸で、「名前を呼んで」と書いておいた。


 普通に売っている物は、シュワルツは何でも持っている。この本を読み出して、ちょうどいい加減の大きさで使える召喚獣を探していた。


 ただの馬より強そうだ。


 もう危険な目に遭わないだろう。


 本のページを捲ったら、伝書ネズミだった。


 ノートに伝書ネズミと書き、呪文を書いていく。それから、呪文を唱える。


 出てきたのは、白いネズミだ。名前が浮かんでいる。


「エタ、よろしくね」


「あなたの名前はなんですか?」


「フラウムよ」


「フラウム様、よろしくお願いします」



 可愛いので、手に載せて撫でているとレースが、フラウムを睨んでいる。



「そいつがいいのか?」


「この子も可愛いわ」



 レースの横に置くと、エタは怯えている。


 可哀想なので、エタは、膝の上に置いた。


 スカートの上で丸くなっている。


 本のページを捲って、次々にその作業を続ける。


 部屋中が召喚獣で溢れていく。


 最後のページはドラゴンだった。


 念のために窓を開けた。


 小さなドラゴンかもしれないけれど、大きなドラゴンかもしれない。


 ノートにドラゴンと書き、召喚魔法を書くと、その呪文を唱える。


 綺麗な白いドラゴンが現れた。


 白いドラゴンは、窓の外に浮かんでいる。



「おぬしか、わしを呼び出したのは?」


「ユラナス、わたくしはフラウムよ。よろしくお願いします」


「最上位のわしを呼び出したのは、何万年ぶりだ?」


「あら、そんなに長く、本の中にいたの?」


「わしは、天上で暮らしておる。よかろう、フラウム、何か用がある時は、名を呼ぶといい」


「ありがとうございます」


 ドラゴンの名前をしっかり書いておく。


 本を一冊読み終えて、ノートは最後まで書き終えた。


 そろそろ母が帰ってくるだろう。


 本とノートを机に置いて、窓を閉める。


 召喚獣は、ドラゴンが現れた瞬間に、全て消えてしまった。


 皆、恐れたのだろう。


 フラウムは、着替えを持つと、お風呂に向かった。


 ドラゴンを呼び出せる魔力は、どれくらいだろう?


 フラウムは、この作業を始めて、自分の魔力が高いことに気づいていた。


 正直に言えば、調べて欲しくはない。


 騒がれるのは、好きではない。


 できるだけ、静かに暮らしたいのだ。


 お風呂から出てくると、以前、シュワルツがしてくれたように、髪を乾かす。


 風魔法と火魔法の混合だ。加減を間違えると、燃えるが、予め、確かめてみて、ちょうどいい加減になるように調節済みだ。


 食事を終えると、母に本を見せようとした。



「お母様、古代魔法の本ですわ。お待たせしました」



 母はきょとんとしている。


 本自体が見えないようだ。



「本など、どこにあるのですか?」


「わたくしが持っております」



 母が、じっとフラウムを見ている。けれど、本とは違う場所を見ている。


 母の手を取り、本に触れさせると、指先に触れる感覚で、本だと分かったようだ。



「もしかしたら、本が見えないのですか?」


「見えないわ」


「この本は、地下室にありました。表紙に古代魔法と書かれていて、作者など書かれていませんでした。内容は召喚獣についてです。全て、呼び出して契約を済ませました」


「最後のページまで読めたのですか?」


「はい。最後のページはドラゴンでした」


「その本は、フラウムが持っていなさい」


「でも、この本は学校の本です」


「誰も、その本は見えないでしょう。わたくしの魔力は1万です。フラウムは、それ以上なのでしょう」


「そうかもしれません」


「本を片付けていらっしゃい」


「はい」



 フラウムは、自室に戻ると、引き出しに本とノートを片付けた。


 指先で、シュワルツにもらった髪留めに触れる。


 今夜、彼は来てくれる。


 ダイニングに戻ると、母が祖父と話していた。



「フラウム、明日は魔力の検査をしよう。本の事は聞いた。召喚獣と契約をした者は、今までいなかった」


「ドラゴンの話では、何万年ぶりだとか言っておりました」


「この血を緋色の一族に残したい。皇太子との結婚はなしだ」


「お祖父様、わたくしはシュワルツを愛しているのです」


「愛など、まやかしだ。その証拠に、アミは結婚してから、すぐに不倫をされておったようではないか。愛は冷める。契約は永遠だ」


「今夜は、シュワルツが来るわ」


「使いの者を出そう。とりあえず、魔力測定が終わるまで、会うことは禁止だ」



 フラウムは、落胆して、その夜、部屋で泣いた。


 レースを呼んで、シュワルツに事情を話してもらうことにした。


 便箋に、更に追伸と書いて、誕生日祝いのつもりだったけれど、これで連絡が取れると、書き添えた。


「レース、召喚の方法を教えてあげてね」


「急だな」


「急に状況が変わったの。だから、お願いね」


「わかったぞ」


 レースは手紙を持って、姿を消した。


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