第27話 助手

「アミ、わしが治療したテリだが、もしや皮膚が硬くなっていたら、再手術を頼んでもいいか?わしは、美を意識せずに、再生魔法で治しただけだ。男なら、それでも、構わないだろうが、年頃の女の子だ。治せるなら、元通りに治してやってほしい」


「分かりましたわ、お父様」



 朝食の時、お祖父様が、アミの顔の状態を気にして、母に再手術を頼んでいた。


 確かに、アミの手術は皮膚を再生しただけだった。鏡の術も使ってなかったので、今までの顔とは違っていてもおかしくはない。


 顔の半分を火傷していたテリの気持ちを考えると、やはり気の毒だ。



「アミ、フラウムを助手に連れて行きなさい。フラウムにとって、いい勉強になる」


「勉強になるけれど、彼女たちの気持ちを考えると、連れて行っていいものか?」


「アミの術式をフラウムに教える機会ではないか?」


「それもそうね。フラウム、助手になりますか?」


「是非、お願いします。いろんな術式を学べるなら、学びたいです」



 ということで、テリとナターシャの治療について行けることになった。


 食事を終えると、学校が始まる前に、テリとナターシャの家を訪ねる。


 まずはナターシャの家を訪ねると、ナターシャは眠らされていた。傍らに、モナルコスが付き添っていた。



「夜中に目覚めて、錯乱したので、眠らせました」


「そう、お疲れ様でした」


 本人に対しての術は、術者が起きていないと効果が持続しない。


 フラウムが家にかけていた魔術は、水晶魔術ではなかったので、眠っていても持続できた。

 

 水晶魔術は強力なものが多いが、魔術を呪文で唱える魔術は、どちらかというと地味だ。しかし、持続するので、使用方法を正しくすれば、かなり使える魔術だ。



「診察しますね」


「お願いします」



 メーロスが付き添いで部屋の中に入ってきた。父親らしき人も心配げに見ている。


 母はナターシャを起こさないように、包帯を外す。外した包帯は、フラウムに渡す。フラウムは、持ってきた鞄の中に片付けた。


 皮膚は思った以上に、引き攣っていた。


 母はブレスレットの水晶に触れて、魔力を貯めると、両手を使って、ナターシャの皮膚を柔らかにしていく。手は触れずに、かざしているだけだ。それでも、フラウムには母の魔力が視えていた。


 包帯を外した直後より、皮膚が柔らかくなっていくのが分かる。



「モナルコス、魔法を解いてくださいますか?」


「では、起こします」



 モナルコスがナターシャの肩に触れると、ナターシャは目を見開いて、「いやー」と叫んだ。



「ナターシャ、診察に来ましたよ」


「アミ先生?……どうしてフラウムがいるの?」


「わたくしの助手よ」


「嫌よ。助手なんて」


「ナターシャ、指は見えるかしら?」



 母はなんともない目を隠して、目の前に指を立てた。



「はい、見えます」


「フラウム、足下に立って」


「はい」


 フラウムは、ベッドの足下に立って、指を一本立てた。


「見えますか?」



 できるだけ元気に聞く。




「見えます」


「何本ですか?」


「一本」


「正解です」


 母が微笑んだので、フラウムも一緒に微笑んだ。



「よかったわ。昨日よりよくなっています。毎日、皮膚を柔らかくしていきますから、顔には触れてはいけません。いいですね?」


「はい」



 ナターシャは不安げに返事をした。



「フラウム、包帯を」



「はい」



 フラウムは、新しい包帯を巻いていく。


 まだ顔は見ない方がいい。


 母が言うように、昨日より皮膚が柔らかくなっている。


 続ければ、綺麗になっていくはずだ。



「アミ、ありがとう。思ったより綺麗で安心しました」



 母は微笑んだ。



「アミ、ありがとう」


「兄様、続ければ、もっと綺麗になっていくわ」


「頼む」



 フラウムはお辞儀をした。



「兄様、娘のフラウムよ。フラウム、兄のビステイスよ」


「よろしくお願いします」


「アミによく似ている」 



 フラウムは母に似ていると言われて、嬉しかった。



「では、次に行くわ」



 母は二人にお辞儀をすると、テリの家に向かった。


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