第28話 テリの治療

 テリも侯爵家のお嬢様だった。


 兄妹は三男三女の末っ子で、家に到着すると、兄達が外に出ていた。



「おはようございます」


「おはようございます。テリの先生ですか?」


「テリ嬢の治療を任されました。アミと言います。助手は娘のフラウムです」



 フラウムは頭を下げた。



「昨夜はテリさんの具合は如何でしたか?」


「錯乱状態で、順番に眠らせておりました。今は父が見ております」


「診察をさせていただきます」


「お願いします」



 上品な大きな屋敷に入ると、使用人達も疲弊していた。



「母様、テリの診察をしてくださるアミ先生がいらっしゃいました」



 長男だろうか?物腰が柔らかな男性が、母親に声をかけた。


 暖炉の部屋でぐったりとソファーに凭れていた女性が、目を開けた。



「立ち会います」


「アミと申します」


「あのアミさん?」


「きっと、そのアミですわ」



 母はお辞儀をした。



「今は主人が見ています。あの子、顔が痛むのか、魔術で寝かせていても、起きて、傷に触ろうとするのです」


「そうですか?一番、酷い傷だと言われておりました。引き継ぎを受けておりますので、診察させていただきます」


「お願いします」



 テリの母に案内されて、テリが眠る部屋に行くと、テリは起きて泣いていた。



「痛いよ。痛いよ……」


「テリ、先生がお見えですよ」


「テリは顔を上げて、フラウムの顔を見て、いきなり枕を投げつけてきた。


(停止)


 枕は、浮かんだまま止まった。


 その枕を掴んで、ベッドの足下に置いた。


「痛いのね?」


「痛いわ」


「目は見えますか?」


「見えるわ」


「分かりました。フラウム、眠らせて」


「はい、睡眠」


 フラウムは、呪文を唱えて、深く眠らせた。


 倒れる体を素早く支えて、ベッドに横にさせると、包帯を外していく。


 ご両親が息をのむ。


 なるほど、これは痛いかもしれないと思った。


 新たな皮膚が炎症を起こしている。



「再手術を致します。お部屋から出て行かれた方が精神的に楽かもしれません」


「見届けます」



 夫婦二人は、そう言うとベッドの足下に立った。



「フラウム、睡眠の管理を頼みます」


「はい」



 母は、暫く、水晶に指先で触れていた。



「始めます」と言うと、炎症を起こしている皮膚を豪快に切除していった。



(すごく早い)



 炎症は骨まで達して、そこで、洗浄をした。


 まだ硫酸が残っていたのか、移植した皮膚が壊死していた。それを取り除き、再度、洗浄をして、そこで、魔力を送り続ける。抉れた骨が再生して、変色していた色も元に戻っていく。今度は、慎重に皮膚移植を始めた。少しずつ成長させて、また伸ばす。それを繰り返して、鏡の術で左右、同じ顔立ちに整えていく。


 瞼の形も整えていく。魔力を注ぎ込んで皮膚に弾力を与えると、表面の皮膚に傷口を塞ぐように、綺麗に整えていく。



「すごいわ」


「素晴らしい」



 悲観していた、両親がやっとホッとしたように口にした。



「包帯をしてください」


「はい」



 フラウムは、テリの顔に包帯を巻いた。



「どれくらい、眠らせましょうか?」



 フラウムは、母に聞いた。


 家族はずいぶん、疲れているように見える。


「ご家族は、皆さん、休まれていないのですね?」


 フラウムは聞いた。



「はい、テリが暴れるので、押さえつけるのに必死で」


「痛むようで、暴れたのですわ」



 父と母は、そう言うと、疲れたようにため息をついた。



「もう痛くはないと思います。ただ、まだ移植した皮膚が定着していないので、触らないように見ていて欲しいのです。眠らせる術は使えますか?」



 母が丁寧に確認した。



「息子達は魔法学校に通っていたので使えますが、昨夜は全く利かなかったのです」


「炎症を起こしていたので、痛んだと思います」


「お母様、お小水等、転移させておきます」


「そうね、お願い」


「夕方まで、眠るようにしておきます。午後6時に目覚めます。それまで、皆さん、お休みください。もし、眠らせることが難しかったら、わたくしをお呼びください。午後6時なら授業も終わっています」


「フラウム、そんな事いつ覚えたの?」


「シュワルツを助けたときにですわ。だって、買い物に出掛けるときに、危険ですもの」



 母は、呆れている。



「分かったわ。この子の言うとおりにしてください。わたくしは学校の教師、アミ・プラネット侯爵ですわ。この子はわたくしの娘、フラウムですわ。何かあれば、学校でも家でも訪ねてきてください。直ぐに対処致します」


「ありがとうございます」



 フラウムは、全て片付けて、ベッド周りを綺麗に整えた。


 それから、テリにクリーン魔法をかけた。


 これでさっぱりしたはずだ。



「それでは、失礼いたします」



 母の声に合わせて、フラウムは頭を下げた。


 母と一緒に学校に向かう。



「フラウム、あなた、知らぬ間に、いろんな魔法を覚えたのね?」


「お母様の本が先生でしたわ。今度、シュワルツに会ったら、本を返していただかなくては」


「呪文魔法を覚えたのね?」


「はい、本に書いてある魔法は全部覚えました。他にもあるなら、教えてください」


「わたくしは全部は覚えていないわ。図書館に古代魔法があるそうよ。誰も見つけることができなかったようよ。わたくしも見たことはないわね。探してみるのも楽しいかもしれないわね」


「古代魔法ですね。今度、探してみます」


 学校に到着して、母と別れた。


 フラウムは、テリの壊死した皮膚や切除した物を冷蔵庫に片付けて、包帯も新しい物と交換して置いた。


 教室に行くと授業が始まっていた。ノックをして、「遅れました」と言って、席に座る。


 先生は、特に何も言わなかった。


 その代わり、テスト用紙を置かれた。



「今日は、君だけテストだ」


「はい」



 フラウムは名前を書いてから、テストを始めた。


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