第6話 テールの都へ 第二章

 朝食を終えると、家の周りにかけていた魔法を全て解除した。


 そうしなければ、迎えが来ないことは分かっていた。


 食器を洗い、布巾で包むと、いつでも帰ってきて、住めるように部屋の中を整えていった。


 ベッドの上にもシーツを掛けた。


 その徹底ぶりを見て、シュワルツは「ここに戻るつもりなのか?」と訊いた。



「分かりません」



 早朝の村に行って、薬の販売を辞めることを告げた。



「割合か?5割はもらいすぎだったかもしれぬ。2割でもいい、薬は置いて欲しい」


「ここを離れることになりました。今ある薬は置いておきます。また戻ることがあれば、またよろしくお願いします」


「出て行くのか?」


「都まで旅に出ます」


「そうかい。気をつけていくんだよ」


「はい」



 フラウムは、売り上げをもらい、新しい薬を置いて店を出た。


 またここに住む日が来たときに、善くしてもらえばいい。


 自宅に戻ると、家の近くに立派な馬車が止まっていた。


 帝国騎士団の制服を着た男性が6人ほどいた。


 皇太子の護衛には、少ないように感じたが、皆、背が高く、帯剣していた。


 家に帰るのが怖くなる。


 馬車の手前で、動けなくなっていると、美しく正装を着たシュワルツが、フラウムを迎えに来た。



「どうした?我が家に入るのも不安になったか?」


「ええ、なんだか怖くて……シュワルツ皇子殿下、別人のようですわ」



 シュワルツは眉を顰めた。



「私に敬称は必要ない。今まで通り、あなたでも、シュワルツとでも呼んでくれ」


「……けれど。不敬で処罰されますよ」



 またシュワルツは眉を顰めた。



「フラウムに何か物申す者があれば、すぐに言うがいい。フラウムは私の命の恩人だ。それに、私の愛する者だ。誰が文句を言うか」



 シュワルツはフラウムを家の中に連れて行った。


 フラウムは旅行鞄に賃金を片付ける。今日は手数料を2割で計算してくれた。


 今日入荷分は、ここに戻ってくるか分からないので、何も言わなかった。


 暖炉の火は消されていた。


 シュワルツが消してくれたのだろう。


 水瓶の水は、転移魔法で小川に流した。シーツで埃が入らないように片付ける。



「荷物は二つで構いませんか?」


「はい」



 騎士が荷物を運び出した。


 後は施錠するだけだ。


 外套を着ると、フラウムは最後に部屋を回って、きちんと施錠を確認して、最後に玄関の扉に鍵をかけた。



「フラウム様、よくご無事で。三年前に行方不明になり、皇妃様はたいそう心を痛めておいででした」


「皇妃様にお詫びをしなくては」


「お顔を見せられたら、皇妃様も喜ばれるでしょう」


「ありがとうございます」


「私どもは、皇太子殿下の従者、エスペル・ノアと申す。隣におるのが、同じく側人のケイネス・リザルドルフと申す」


「よろしくお願いします」



 フラウムは淑女の礼をした。


 平民のワンピース姿では、様にならないけれど……。



「では、馬車にどうぞ」


「フラウム、行くぞ」


 シュワルツはフラウムの手を握ると、馬車まで歩いて行く。


 少し足を引きずるフラウムを見て、村まで一人で行かせた事を悔やんで、華奢な体を抱き上げた。



「足が痛むのであろう」


「これくらいは平気よ。治癒魔法をかけるほどでもないわ」


「甘えればいい」



 頬に頬を寄せられ、フラウムは真っ赤になり硬直した。


 騎士達が拍手をしている。その間を抱きかかえられながら、馬車まで連れて行かれた。


 椅子に座ると、昔を思い出す。


 毎日、この馬車に乗せられ、お妃教育に向かっていたことを……。


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