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冷たく突き刺す様なその言葉。動揺してはいけない、彼との会話で一つとして油断はしていない。先日の命のやり取りがあったあの戦いと同じくらいに気を張り今まで以上に緊張感を持ってここまで来た。

ここで何か察しが突かれれば全てがダメになる。



「いいえ」

「嘘はいけない」

「嘘では無いです」

「では忘れているのかな?」

「何の事ですか」

「しらを切るなら私から答えようか?」



彼は一枚の用紙を机から取り出し私に見せる。そこに書いていたのは私が受けた依頼書の内容。

何一つ変わった点はない。



「同伴者を一人希望しているよね?その話には登場人物が一人欠けている。


そう、"トリル・サンダラ"の近くの街に救助要請を出した彼、街へ共に帰ってきた少年だよね?」



意図して言わずに隠し通したかった彼の存在、やはりバレていた。

出来れば巻き込まず済ませれば話は楽ではあったのに。詰めが甘かった。



「彼は今回の遺品の捜索の為に同伴させた子です。今回の件に関して彼は大きく重要な点に関わっていない上に事情を知りません」



「成程、ではわざわざあの場まで連れて帰らせた理由は?」

「"トリル・サンダラ"の町についた頃に人が一人もいない事態に気がつき直ぐに彼一人退散させ救援を呼ぶ様指示を出しました」


「君は何故残ったのかな?」



「私の仕事は”リオラ”の遺品を見つける事です。

こういった状況や現場に対応は遥かに経験値がある為に捜索を続行したまでです。

それに結果論ではありますが、その街を探索したのちにサニアと出会い彼の荷物を見つけてくれました。


彼女の貢献は”マグ・メル”の封印だけでなく我々[スターキャリアー]の業務にも大きく貢献をしました」



「成程、後半の発言に対しては少し話が逸れるね」


「では何故この説明を今したのか、簡潔に申し上げます」


「いいや、大丈夫だ。掻い摘んで言えば、私がこの一件における事実を知る人間その他を消そうとしているから、って所だろう?」


「はい」


嘘臭い笑い声を上げ彼は「まさか」と笑みを浮かべながら私に諭す様に言う。



「少し深読みしすぎだね。私は君が何故彼の存在をあえて出さなかったのか気になっただけさ。君の事だからきっとそう考えて伏せたんだよね?それに一連の話をされた所で私には真意が分からない、君が嘘をついているのか・・・本当の事を言っているのか・・・」



つまりは真剣に話を進める私の事をただ揶揄っただけということ、何から何まで作為的に話をしている様に感じてしまう彼の言葉に潜ませられたイタズラは揚げ足を取られた様な気がして非常に不愉快だった。



「ただ、君は彼を庇うという事は彼もまた何かに関わっていると見られても仕方がないよね?」



引き合いに出された人質は彼もいるという事、ここで動揺を見せる様ならまた足元をすくわれかねない。

考える隙さえない、なんでもいい即答しなければ嘘を嘘です。といっているようなものになってしまう。私は彼の問いかけに対し直ぐ返答を返す。



「そこまで私の言葉尻をとってあなたは私にどうして欲しいの?」


「私は正しく、君の情報を聞きたいだけなんだ。嘘をつかれては君や[スターキャリアー]に対する信用が出来ないというお話だよ、カペラ」



「彼についてはこの一件をお話しする上で不要な情報です、余計な情報は話をこじらせます、精査し重要な部分だけを述べお伝えしたまでです」



「気を使わせて申し訳ない。忙しい身ではあるが、

何も簡略化して話さずとも君となら何時間でも話せるよ、私なら。君の美しい声ならいつまでも聞いていられる」



「私はあなたと1秒でも長く話をしたくなんかない」

「そうなのかい?非常に残念だよ・・・」



あからさまに嫌がる私の態度は恐らく第三者が見れば場は一瞬で静まり凍りつく。

しかし彼はそれもなんとも思っていない、お構いなしと言った表情のまま話を続ける。

感が悪いのでは無い、ただただ無関心なだけ。



「じゃあせっかくだが私もこれ以上嫌われたくない。まず私の方から君に伝える事がある。

それは君が知らなくとも知っていても問題は無い事だ。


まずこの国で秘密裏に”マグ・メル”を製造していた機関、並びにそれに関与したこの街の上層の人間を正当に私が一人残らず排除し私は今国王から直属の宰相という地位を頂いた」



「そんな事私に話して大丈夫なんですか?」



「ええ、今回の一件に関わってしまったあなただからお話ししました。何より今後の為、これはあなたと私の信用問題に関わる。この場はひとつ”協力”という形で収めたい。


その為に聞いて欲しい。

この国の内情を正す為に私達が動き、私が進んで宰相という大変な重役と責務を負う運びとなったのです。



そして内情を知った私はその対策の為”sEEkErシーカー”でも”マグ・メル”を保有していました。勿論保有禁止の協定を結んだこの街で”保有”、”使用”は厳罰に値します。


なので君が語る彼女の力が本当なら、彼女の力を借りたい」




内情を知り、”マグ・メル”を保有した。は嘘、もっと前から個人で持っていたに違いない。

きっとそれは国王に話した内容での言い訳や理由付け。


この言葉の1番重要な所を読み取り要約すると

『今現状の動きで宰相となってしまった以上、

隠し持っていた"マグ・メル"が抜身では都合が悪いからサニアの力を借りたい。その為なら見逃してやる』


といった所だろうか、都合が良い話ではあるけれど

こちらとしては元よりそれに近しい考えで交渉しようとしていたのだから、彼からその話が出るならば寧ろ好都合だった。



国王も恐らく"マグ・メル"の製造について知っていたか関わっているはず。


国王のみを見逃し”国の保安”という名目で上層の人間を一掃しつつ国王という絶大の権力も味方に付けられる。彼らしいやり方だ。

しかし”保有”に関する事実はどうあっても見過ごせない。


それはこの国が決めることではない、国同士が結んだ協定であり、他国は決して良い顔をしない。

それを理由に”保有”を正当化してしまうから。



しかしそれなら何故余計に私にその事を話したのかは分からない、気まぐれか何か裏があるのか・・・。


何か理由はあり引っかかる所ではあるものの、今私が注視する点はそこじゃない、だからこそ今その場ではその事について深く聞こうとはしなかった。



「それはあまりにも都合が良すぎませんか?」

「そうかな?彼女の封印する力が君の話通りならこれ以上無く貢献できると思うけど?」

「秘密裏に隠し持っていたあなたも罰せられるべきでは?」

「それもそうだね、では私にどうして欲しい?相応の還元は行動で示させてもらうよ」



さっきまでの問答が嘘と思う程にすんなりと私のその言葉を聞き受け入れられた。

何が狙いかは分からないが彼から提示した事、これ以上無い要求を述べられるチャンス。



「”sEEkErシーカー”及びそれに関連する部隊や人物は彼女に近付かないで欲しい、そして"マグ・メル"との戦闘に多大なる貢献をした”sEEkErシーカー”としてセラムへの追悼とその貢献を讃える報道と式典をあなた直々に行い開く事」




セラムへの最後の敬意。そしてそれは図らずも”sEEkErシーカー”という暗躍する組織を表舞台に引き出す為。

部隊はこれで動きずらくもなるが部隊をまとめる彼も宰相となりそう間もない所での実績、その貢献の大きさで得られる信用は吝かでも無いはず。



「それだけでいいのかい?随分と優しいな君は」


「まだです、あなたは"マグ・メル"を保有した事はどうあっても事実」

「では私が"マグ・メル"を保有していた事も口外しますか?」


「それをすれば忽ちこの街が"マグ・メル"を持っていた事が各国に広まって的にされてしまう。死者も大勢出るのでそれは出来ません」


「ではどういった罰がお望みですか?」


「簡単です。正当な手段に順次し”あなた自身が"マグ・メル"を保有していた事実と共に、"マグ・メル"の管理を行ってください”」



先程までほとんど動きもしなかった彼の顔は少しだけピクリと頬が動く。その一瞬の表情の乱れを見逃さなかった。

彼にとっての不利益は”マグ・メル”の剥奪ではない。地位でもない。自身の行動に制限をかけられる事。



「・・・それではさっき君が言った事との矛盾が生じてしまいますよ?」


「勿論、狙われるかもしれない。それは協定を結んでいない他外国からと言う事です。現状”封印”という手段はあってしても決して使えないわけではありません。なら私達が出来る事はそれを厳重に保管しなければなりません。


その役目をこの街を納め実質的権力者であるあなたが担うしかありませんよね?」



「しかしその事を協定を結んでいる各国は見逃してくれますか?」


「だからあなた自身が公表するんですよ。あなたが”マグ・メルそれ”を持ち、各国の信用に値する役人の派遣を頂き、監視下の元保管すれば問題はありませんよね?それであれば恐らく問題はないはず。


協定を結んでいない他外国から狙われる事は私達のみならず同盟を結んだ各国も同じ、協力は惜しまないでしょう。



この国では先日、”マグ・メル”の一件で国の上層を粛清したあなたであればきっと合意を得られやすいこれ以上無く適任です。あなたであればそれくらい言いくるめる事は出来ますよね?


その意向を示すのであれば私はあなたの目的であった”マグ・メル”もあなたの手中にお納めします」



彼は断れない、これを断れば叛逆に近い実刑に地位の剥奪を食らう、そうとなれば今以上に自由はない。



他国にも受け渡せない、そして破棄も出来ない、そして保管ともなると隠す場所もなければリフレシアがいる。

権力者であり威厳を持ちつつ平和維持への旗振りとして今回の騒動に対する責任を一部上層の人間に押し付け仮初めの英雄となった彼だからこそ、この役目に相応しい。


何より監視下に預けられればこれ以上彼の不審な動きを防ぐ為の布石にもなりえる。



ここから彼が口止めという強行に出なければの話だけど。


持ってきた荷物から一つ彼の目の前に箱を置いた。それは紛れもなく”マグ・メルフィアー・スター”の入った箱。

彼は疑う様子もなく置かれた箱を手に取り、動揺した様子も無く表情を変えぬまま「良い案だね」と一言で返事を済ませる。



言葉多い彼がその一言で同意する姿はまるで諦めた様なそんな風にも見えなくもなかった。



「その箱に収められている”マグ・メル”は本物です」

「だろうね、ここで嘘をつくほど君は馬鹿では無い」

「以上で宜しかったでしょうか?」

「異議は無いよ。理にかなってるとも思う、だけど私は本当に君のいう通り動くと思うのかな?揉み消すかもしれないよ?」


私は仕返しとばかりに彼に言ってやった。



「無理だと思うよ、一人で白魔法しか使えない一匹の魔獣すら始末出来ないあなた達の力じゃ」


それを聞いた彼は笑った。「それはそうかもしれないね」と言いながら。


私はその場から離れようと扉に手をかけようとすると背を向ける私に向け彼は続けてこう言った。



「カペラ、君は自分がどういう風に見えているか分からないけれど。君は思っている以上に強かな女性になっている・・・ 」



その言葉を最後に聞き受けつつも、私は返事をせず無言で部屋を出た。


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