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城塞都市"カラット"の上層部分にあたる部分、街の中に大きく張り巡らされた高い門と壁。



更には厳重な程の警備と審査さえ必要な程で、機関やその街の直轄する組織や部隊、招かれた他外国の人間に富裕層やそれら人物に支える役人といった特定の者しか入れず、一般の入出は困難とされている。


その更に中心地、つまりはこの街の真ん中に位置する場所に立てられた立派な城のような風格ある建物は更に厳重であり、この建物にいる人物はこの街の最重要とされる役職や機関に属する者、そこに呼び出された者のみが留まる事が許されない。



その地を"揺籃の城砦フィックス"



所長は今朝、話を通せたらしく最重要の言伝として処理されたらしく、早速と言うことによりすぐ様私達が休んでいた宿に中心地"揺籃の城砦フィックス"への呼び立ての通達が入り、午後にも満たない時間に私一匹で招かれる事となった。




「国ぐるみだ、罠にかけられる可能性はありえるぞ」とローライは心配そうにする一方、後の二人はなんとかなるだろうと言ったやんわりとした言葉で私は励まされる。ここからが私の戦いだ、この話し合いにすらならないかもしれない。けど交渉の余地はあるからこそ呼ばれている。

ここで私が頑張らなければ全ては水の泡、覚悟はとうに決まっている。



大きく深呼吸をし”マグ・メル”の入った箱を手に取り荷物にしまい、支度を済ませ宿場を後にしようとした。

もしかしたら最後かもしれないという気持ちが強まった時、私は扉の前で振り返り彼らの顔を目に焼き付け言った。



「じゃあ・・・・。行ってきます!」



「行ってこい!カペラ」

「気をつけろよ!」

「死ぬくらいなら噛みついてこいよ、魔獣らしくな」



彼らの言葉を受け止めながら"揺籃の城砦フィックス"のある中心地へと向かった。



いつも内周の門を守る門番は私の顔を見るや否や頭を下げ確認も必要とせず、丁寧過ぎるほどの待遇での案内を受けながらそのまますんなりと"揺籃の城砦"に足を踏み入れられる事となった。



「お召し物をご用意いたしましょうか?」

「お気遣いありがとうございます。すぐお暇しますのでお気になさらないでください」

「失礼致しました」



慣れない対応のされ方に戸惑いながらなんとか受け答えは出来たものの、こんな所に入って大丈夫か分からないほどに場違い感がする。

しかし、すごく真摯に対応される事より普段からこの様な待遇を受けるのかと思うと自分には息苦しくて無理だなとしみじみと思う。



「カペラ様、こちらが"揺籃の城砦フィックス"となります。足元にお気を付けくださいませ。」


「凄いですね・・・」


圧巻だった。遠目から見られるそれは近くで見るとその存在感はより一層に増す。

整備されたまるで芸術品の様な中庭を抜け、"揺籃の城砦フィックス"の扉は出迎えと共に開かれる。


聳え立つそれはまるで大きな山の中身をくり抜いた様な空とも思えてしまう程に高い天井に村一つはある大きな大広間。



いくつもの階段にいくつもの扉が壁のあちこちにあり、一見しただけでは迷いそうなまるで迷宮やダンジョンといった表現で例えても遜色が無いほどの広さだった。



案内をしてくれた一人の門番は先に歩き一つの扉を叩き私に入る様丁寧に促した。



「カペラ様、こちらの部屋になります」

「ご親切にありがとうございます・・・」


門番は一礼を済ませると直ぐその場から立ち去り、私はこの広く静かな広間で一人扉を叩く。


その音はこの建物中に響きわたると同時に「どうぞ」という声が部屋の中から聞こえる。その声を聞き私は扉を開く。




どこを取っても白く塗られた部屋の中、並べられた本屋棚や置物ですら真っ白なもので統一された大部屋の真ん中で彼が机越しに座っていた。


微笑む色白の肌に白髪みが不気味に揺れる長髪の男。彼こそが”ナインズ”その人だ。


sEEkErシーカー”のボスであり"龍殲滅作戦リペル・カラミティ"の主導・発案者。


とてもこんな高貴な場には相応しくない、装飾も勲章も衣装も何一つ着飾らないとてもシンプルな服装は、わざとそうしているのか、とらえどころのない彼を表していると言っても過言では無い。



「こんにちは、久しぶりだね」

「・・・どうも」

「いつぶりだったかな?」

「そんな話を私はしにここへ来たんじゃ無いです」



”いつぶり”だなんて彼が一番よく知っているはず、思いだしたくもない事を思い返させようとする。

早く話を済ませてここから離れたい。強くそう願うほどにこの人が苦手なんだと会話始まり早々に再確認させられる。




「君の活躍はあの時から変わらずだね。今でも[スターキャリアー]での勤めを立派にこなしているんだっけ?」


「ごめんなさい、世間話をしにここへ訪れたわけじゃないの」

「久しぶりの再会なんだ、ゆっくり君と話がしたいな・・・」




淡々と嘘か本当か分からないその口調は不気味にも程に感情が篭っていない。上部だけで話している。

私には分かる。彼の本質を知るものなら感じる違和感、その言葉も行動も何一つ響く事はない。


そう彼も分かっているはず、私があなたを苦手としている事を分かっているはずなのに、彼は私との対話を続けようとする。



彼にとってこの会話は談笑ではなく相手の心を揺するためだけの手段でしかない。自然と彼を見るその目は鋭いものになっていくのが分かる。逆撫でする様に彼は私に目を見て微笑みながら言った。



「そんな睨まないで欲しいな」

「私はこれ以上あなたと無駄話をしたくない、建設的な話が出来ないのであれば宰相と話がしたいから繋げて欲しい」

「成程、では話しが早い。私こそがこの街を実質的統治する宰相でもあるのですから」



驚きはしたがそれも彼の思惑通りなのだろう、私のその表情を楽しそうに見ている。

完全に話のペースは彼にある。最初から交渉は一筋縄ではいかないと思ってはいたけれど、ここで少しでも引く様な動きを見せれば言いくるめられる。覚悟を決め私は話を進めた。




「分かりました。ではここからは宰相であり”sEkEEr”のボスとして話を聞いて頂きたい」

「そうだね、状況はどうやら察している様だよね?」

「状況?」

「とぼけても無駄だよ、”sEkEEr”という組織名を知っていると言う事は大凡状況を理解していると言う事だよね?この街の内情も君たちの始末を彼に一任したのも分かってるんだろ?」




内状の事を話していることまで想定済み・・・。引っ掛けようとしている?だとしても、もし知らなかった場合わざわざそんな意味深長な言葉を言うデメリットの方が大きい・・・。とことん彼の考えがわからない。



「まさか、私達の極秘の依頼を請け負ったのがリオラという[スターキャリアー]の精鋭だったとは知らなかったよ

。君や所長であるユウジには悪い事をした、あれは全部エリミネーターの独断による行動だ。それでも上である私の責任は大きい、陳謝するよ」



「結構です」



彼のタチが悪い所、それは絶対に彼自身手を汚さず部下や、はたまた友人と彼を慕う人間や魔獣までをも使い、行動を誘導し自責の念に追わせ追い詰めるまで徹底的に使い倒す。

今回の一件も彼の誘導は勿論あったに違いないにしても、エリミネーター自身の独断行動が多かったのも恐らく事実に違いない。掘り下げるだけ意味がない。


思い通りに操る話術と心理学を用いた洗脳に近いやり口はどんな者よりも長けている。まるで魔法の様に。



「しかしながら僕は未だ帰らぬエリミネーターやセラムはどういった事か帰ってこない。そして君はサニアとラック、そして少年一人を連れ街へと帰ってきた。何か知っているんだよね?」



「そこまで知っているのに知らないことがあるの?話す必要がある?」


「私は全能ではないんだ、私が知り得る事実はそれ位とでも言っておこうか。嘘をついてくれても構わない」




あからさまな脅し。”sEEkErシーカー”の部隊を使い私達が街へ戻ってきた事は報告を受けたに違いない。


あくまでそれは彼が私達の行動を監視しているという布石の為に一手、恐らく街へ入ってから。

帰路ではラックがいた、実力者である彼がそれに気が付かない訳も無い。きっと知らない事実の方が多いはず。



この話を始める際に彼は彼女”サニア”の名を口にした。これは人質を意味し彼は引き合いとして彼女を含めた彼らの名前を呼んだ。

しかし彼は彼女の正体を知らない。彼の知る事と知らない事の両方を精査し話さなければ、もし私の嘘がバレれば最悪殺されかねない。



彼の知っている事、セラムもエリミネーターも死んでいる事は恐らく大凡分かっているはず。


彼は言った、”この街の内情・・・・・・も君たちの始末を彼に一任したのも”。それは彼らの内誰かが私達に話さない限り知り得ない情報。そしてそんな事をしそうな人物はセラム、彼一人。



私達があの場所に踏み入れると知り、彼が選ばれ私に街の事を話す前提でコマとして使った。




こんな短いやり取りの中ぐるぐると頭を働かせながら話すのは彼くらいで、やはり話し合いであってはどうしても私の方が不利にある。早く交渉に持ち込みたいけど焦ればアラは出てしまう、私は慎重に言葉を頭の中で復唱しながら事の顛末を予定通り話す。




「まず私は今回、依頼によりリオラの遺品を取りに”トリル・サンダラ”の地へ出向き、サニアと出会いました。


そこから町の異変やあの地独特の自然現状である”砂上の夢”の激変に彼女の父である”アルター・アット”の書き記しるした本、そして何より彼女の話によって現状を理解し事情を知ってしまった私とサニアをその事実の隠し通す為に動く”sEEkErシーカー”に襲われました。



しかしながら私が来る以前に、この地に眠っていた”マグ・メル”を手にし何も知らない彼女から彼らは奪い取り、

”マグ・メル”を使い、この事を知る私達を口封じの為殺そうとしました。



しかし”マグ・メル”の自由は効かず暴走し、使用者であったエリミネーターは死に、セラムと共に一時的共闘の末”マグ・メル”を止め、彼女の持っていた潜在的な力により封印したのですが、セラムは暴走した”マグ・メル”との激闘の末、戦死しました」



簡略的に要点だけを話すとナインズはゆったりと拍手をしばらくし、私に向かい言う。



「セラムの事は非常に残念だ・・・しかし驚いた、君達の活躍に彼女が持つ”マグ・メル”を封じるこの世界で数少ない手立て・・・非常に素晴らしいものだ・・・・。

だが一つ、嘘・・・いや。言っていないことがあるね?」




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