44 きっと変わらない色
50
「早く起きろー!」
ローライの声は朝早くに部屋中に鳴り響き、私達は目覚める。
長テーブルに人数分用意された朝食、ちゃっかりリフレシアの分は多めでラックと彼だけは別メニューという好みの配慮までされた徹底ぶりに手間の掛け方。凄く小まめだなと感心した。
朝食を済ませてからは私達は宿を後にし街を出て”カラット”へと帰還する為歩きだした。
度々襲いかかってくる魔獣も以前の様に二人ではどうにもならなかった敵も流石にリフレシアやラックがいれば簡単に追い払ってくれる。
なんならラックは私を含めリフレシアやローライに対し戦い方の手解きも交えながらという余裕まだ見せ戦う。
やはり未だに彼は強く道中の強敵は難無く倒して見せる。
「俺に戦いの何とを説くとは不愉快だな」と不機嫌になっているリフレシア、それとは対照的に聞き入るローライの姿、まるでいつかの彼が率いた時のパーティの会話を聞いているかの様で微笑ましくもあった。
「何笑ってんだカペラ、お前も戦わなきゃいけない状況だって出てくるんだからお前もしっかり聞いとけ」
彼の飛び火は遂には私にまでくる始末。
「え・・・私も?」
「今回の件でお前正面から戦うことが多かったんだろ?だったら聞いとけ」
「それはそうだけど、だってラック昔言ったことと同じじゃ無い」
「頭に叩き込んどけ、それよりあれだ・・・最近の魔獣なんか昔より手強いな」
「今は結構適応したり、戦争下で巻き込まれてそれに対応する為に強くなったりしてるからね。・・・あとはまあラックがちょっと弱くなったんじゃ無い?」
「な・・・なんだと!」
少し揶揄ってみるとその言葉に一番最初に食いついたのは当人ではなく怒りの表情に顕に怒るローライで、私はいつもの調子で話していたものだったから
まさか彼の方がそこまで怒るとは思わず引き気味に驚き、彼のあまりの腱膜に流石のラックも止めに入ってくる。
「ご・・ごめんなさい、ローライ君」
「冗談だ!冗談!ローライ待てって」
「でもこいつ師匠の事を雑魚呼ばわりに!!」
「してないだろ!!誰が雑魚だ!結構強いだろ!」
「本当にごめん!ローライ君!!」
「せめて俺に謝れよカペラも!」
「おい、雑魚三匹早く行くぞ」
彼女の一言でピタリと喧嘩は止まり、ローライは次の標的に彼女を睨むも「もういい」とラックも呆れた様に彼の襟を持ち上げ止める。結果的に彼女が一番冷静で大人だったというオチとなった。
「それよりお前、ローライ”君”って呼んでんのか?」
「え?変?」
「いや別に、けどなんかここ数日で打ち解けてないんだなって思って」
「・・・そうかも」
私のその返事に対しローライは驚いた様子で私を見るので「違う?」というと少し悲しそうな、恥ずかしそうな、何とも言えぬ表情が印象的で、
「いや・・・まあ・・・なんだ」と言葉を濁す。
勿論からかっている訳で、期待通りのその反応にクスクスと笑うと彼は少し怒った様子で前へ前へとを一人早足しで先を急いで行き、私とラックは苦笑いでその様子を見ていた。
「ごめん!私達友達だよね!ローライ!」
聞こえる様に大きな声で遠く先へ行く彼へ伝えると、それが聞こえてからはそれからは一定の距離を保ちつつも私達から離れた距離でそのまま歩き続け、輪に混じろうとしないその様子にラックは「恥ずかしいんだろ」と彼に聞こえない様に私に呟いた。
実の所少し照れくさいのは私もだったけど、それ以上に彼の反応に嬉しさが勝っていた。
調子に乗って私は近くに暇そうに歩く彼女にも尋ねてみる。
「私達もだよね?」
「え?ああ・・・何が?」
「その・・・友達というか仲間というか」
「いや、俺の手下だろ」
即答だった、というか聞いてすらいなかった。さっきまでの得も言われぬ様な感動を返して欲しい。
少しがっかりしていると彼女は続けてこう言う。
「まあ、お前は大事な手下だ。簡単に死んでくれるなよ」
「リフレシア・・・」
「俺が自由になるまでは」
「リフレシア・・・」
もう何か彼女に期待して聞くのは止めよう。
行きとは違い帰りはとても賑やかで、それでいて頼れる仲間たちのおかげで気をあまり張らず来た道をゆっくりと帰る事が出来た。早朝から歩き続けては休みを入れ再び歩き続けその日は終えた。
事前に"エンリット・サンダラ"で買った荷物でその日は野宿をし過ごし、再び早朝に起き街を目指す。
まるで旅とは思えない程、あの争いが無かったと思ってしまうほどに穏やかで楽しい帰路、いつしか時間も日々も過ぎて行き。
気がつけば何事も無く”ノコラズノ森”を過ぎ、目的地である”カラット”へと足を踏み入れていた。
時間を忘れ楽しく話しながらの道中、とはいえ時間は過ぎ気がつけば周りは暗がりに入り時刻は既に夜を迎えるには当然と言った時間に。
「さすがに疲れたな・・・」とラックは伸びをし体を解しながらさっそく街をキョロキョロと眺め宿を探し始め、ローライはというと疲れているのか少しウトウトとした状態、それに比べ彼女はというと。
「今日は休むのか?俺は元気だが」
せっかくの大きな街というのもあってなのか、彼女だけは有り余る元気を見せていた。
「さすがにこの時間だと何も出来ないし今日はもう休んだ方が良いかもね。なんだかんだ結構歩いたしさ」
私の提案に「賛成」と彼らは手を挙げ賛同するも一人リフレシアだけが不服そうにしていた。しかし私にはこの日まだやらなければならないことがある。
「とは言ったものの、私まだやらないといけない事あるから皆は休んでいて」
「なんだそれ?今じゃなきゃダメなのか?」とあからさまに面倒くさそうな表情のリフレシア、それに乗っかるようにローライも「明日でもいいんじゃないか?」と口々に引き留めようとするがそういう訳にもいかない。
「依頼自体は今日はもう夜だし、遺品をお渡しするのは明日で構わないんだけど、
今回の一件で色々準備と手続きが必要だから、早めに今出来る範囲で私が話をつけてくる」
「なら俺はもうお役御免だな?勝手に行ってこい俺は休んでるから」
そう言うとさっさと彼女は1人その場を去っていき。
それと同時にラックはローライを連れ「ユージーに宜しく!」と言い彼女を追いかけて彼らもその場を後にし、更けた夜に賑わう下町で私はまたこの街で1匹となった。
寂しさは無い、きっとまた彼らのいる所へ帰るのだから
「ここからが私の戦い・・・正念場」
彼女をラック達に預け、私は一人街の天辺近くにある街の中に作られた内周の門の手続を済ませ、所長のいる[スターキャリアー]の建物を外から覗くと、本部の部屋には明かりが灯り彼がいることが確認出来た。
早速私は建物の中へと入り部屋へと向かうと、まるで分かっていたかの様に部屋のドアは私が来ると同時に開けられ、所長は私の姿を見て安心した様な顔で部屋へと招き入れてくれる。
直ぐに話し始めるでもなく彼と私は対面の椅子に腰掛け、用意されていた二つのお茶を彼は手に取りそのうちの一つを私に手渡し彼はようやく口を開いた。
「無事で本当に良かった」
「ありがとうございます・・・」
大体の会話の開幕はいつもこの一言で始まる。
彼は私が依頼をこなし帰還するとそう言葉をかけてくれる。私の居場所でありこの場所へ来ると依頼から無事帰還出来たんだと緊張が解れる。
彼が私の体をジロジロと見ては巻かれた包帯や付けられた薬草の跡を見ては苦い顔をし心配する様子もいつも通り。
この時点で私は今回の一件に彼は何も知らないと判断が出来た。元々疑っていては無かったにしても、国の管轄にある組織の一つである[スターキャリアー]も少し警戒していた。
安心し話す事が出来ると踏んだ私は肩の力を抜き大きく息を吐き出す。不思議そうにその様子を見守る彼は重ねて「お疲れ様」と声をかけてくれた。
「所長、今から大事な話をします。内密にお願いできますか?」
急な真剣な口ぶりに驚く彼は動揺をしながらも直ぐに私の目を見て聞き入れる姿勢で頷く。
「・・・まあいわく付きなのでは無いかと薄々感じてはいたんだけど・・・そうか、”リオラ”君がなにか良からぬことを・・・?」
「半分合ってます・・・」
彼は大きくため息をつき「そうか〜・・・」と残念そうな顔で頭をかかえるが私は構わず話を続ける。
「実はその事と連なって、お願いがあります」
「珍しいね、君からのお願いだなんて・・・。いいでしょう、他でも無い君の為だ尽力しよう」
「え・・・まだ何も・・・」
「何を水臭い、君はライラック、そしてムジーク、二人の大切にしていた娘だ。友人として、そして君の上司として。君の活躍は私達[スターキャリアー]への貢献を考えれば私に出来る事ならどんな要求でも答えるよ」
私はペンダントを強く握りしめ心から思った。この仕事を続けていて良かったと。
「それで・・・どういった話なんだい?」
彼は前のめりに聞く姿勢を見せ、私はそれに答える様にラックにも話した内容を同じ様に彼にも話した。
ラックとは違い彼には立場もある、彼もまたラック同様に私の話を黙ったまま全て聞き入れては少し頭を悩ませながら考えていた。
静かな沈黙が続く部屋、彼は直ぐに答えを出せなかった。本題である彼への頼みはまだ話せていない。
およそ10分程だろうか、彼は閉ざした口をようやく開けた。
「成程・・・とても信じ難い話ではあるが・・・君が嘘をつくとは到底思えない・・・、しかし彼が行った行為は許されない・・・」
「その件に関しては、現在行動を共にしている被害にあった”サニア”さん自身は許しています」
「しかし町の住人の件は・・・」
「所長がお気になさるのも無理はありませんが今回の一件は彼一人でなく裏で暗躍していた”
「・・・そうかもしれないが」
「それより所長、ここからが重要です」
「まだあるの!?」と、咄嗟に出てしまったであろう彼の許容を超えた事態にこれ以上受け入れたく無いといった表情とその言葉は、彼が私に口走った表明上その言葉を発してしまったことへの気まずい反応を見せたあと小さな声で「ハイ・・・」と囁き、少し気まずい空気が流れてしまった。
私もまたその事への罪悪感はあるので苦笑いでその場を収め一言謝罪を述べてから話を続けなければならない。
「ごめんなさい・・・、本当はあまり巻き込みたく無い気持ちは強く私一人で解決出来るのなら解決したかったんですが・・・」
「な・・・何を言ってるんだ!君のせいじゃ無いんだ、気負うのは良く無い。・・・しかし話を聞く限りでは私が出来る事が何かあるのかい?」
「あります。これはあなたにしか頼れない・・・」
「何か策があるんだね?」
続いて話したのは同じくラックやリフレシアにも話した内容のもの。
この街の状況や仕組みを理解している彼はその話を直ぐに理解出来たのか話している間の相槌は早く私の伝えたかった内容はおおよそ理解を示してくれた。
「成程・・・それなら君達の身の危険も限りなく薄まる・・・それに君たちが巻き込まれたこの話も丸く収めるしかなくなるね」
「・・・実際の所、所長はどう思います?」
「状況が状況だからね、費用対効果で考えれば君達が消された方が街としては都合が良いだろう。
実際この街も一つの国として動こうとしているのは事実だが出鼻を挫かれた形となる今、現状の事態と内情を知る人物が多いと分かれば、この街が出来る事は上手い具合に君達が辻褄を合わせ平和維持に努めると誓い、この街がその広告を縦に平和の礎と繁栄の象徴として一気に方向転換するかだね・・・」
「私はそれが望ましいと思ってます」
「同感だよ。そうと決まれば早速君が言った通り、この[スターキャリアー]にサニア君を迎え入れよう。しかしこんな危険な仕事・・・表面上だけの本格的に生業としなくても良いとだけは君に伝えておくよ」
「それなら大丈夫です。私もいますし、彼女結構強いんです」
「そうなのかい?まあ・・・話を聞く限りではそんな状況を乗り越えているんだからそれもそうかもしれないね。しかし無茶だけはしないようにね」
「はい、ありがとうございます」
「あとはナインズだ。彼と話の場を設ける様、私からギルドに通しておく。では後日彼女をここへ呼んで来ておくれ、契約の話もしなきゃだしね」
「何から何までありがとうございます」
私は軽く一礼をし立ち上がり部屋を出ようとすると、彼は一言「待った」と呼び止められ何事かと振り返るとさっきまでの険しい表情とは打って変わりにこやかに言う。
「ライラックも来てるんだよね?」
「ラックですか?下町の宿で休んでます」
「結構疲れていた?」
「呼びましょうか?」
「悪いね、頼むよ。久しぶりに話がしたくて」
「分かりました」
夜もいつの間にか更け、私は彼の頼みもあり足早に本部を後にし彼らがいる場所へと戻る。
彼らが休んでいる街の宿を探し回っていると、宿街から離れた一軒の屋台から私を呼ぶ声が聞こえる。
「おーいカペラ」
「え?」
声のするその屋台ののれんから彼らが顔を覗かせ手招きをし私を呼んでいた。
「なんで屋台?」
「お前も来いよ!ここ美味いぞ!」というラックの声に続き、次々に彼らは顔を出し
「まあまあだがいけるぞ」「用事は済んだのか?」と楽しげに食べたり飲んだりする彼らの姿がそこにあった。
楽しそうに食事をする彼らの姿を見て私は急ぎ足で彼らの方へと向かう。
こんな日々がずっと続けば良いのにと、そう願いながら。
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