43 描いて
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ここ数日の事を少しだけ脚色を入れて話を始めた。
掻い摘んだ話ではあったにしろ、彼は落ち着いた様子で終始話を聞き入れてくれていた。
話の途中、納得がいかない点も足を組み直したり頬を撫でる等の要所要所の動作で読み取れはしたものの、
それでも何も言わずただ受け入れる。
セラムの事、"
"
それでも彼は「大変だったな」とそれだけを言い話を終わらせた。
話終え、玄関扉で聞き耳を立てながら隠れるローライを彼は呼び出し、ローライはやっと部屋の中へと戻る事が出来た。
しかしその表情は彼に言われた言葉が相当刺さったのかとても苦々しい表情での登場となり、その顔をみた
リフレシアだけがニヤニヤと彼を見つめている。
「それでお前達はこれからどうするんだ?」
「私達はこの"マグ・メル"をナインズに渡して彼女の自由を保証してもらう。
あとはこの一件に対する彼女とセラムの功績を国営機関本部含め部隊である"sEkEErE"で称えて貰う」
「成程、それで秘密裏に今後動けない様には出来るな。少なくともあいつのいた部隊としての功績はデカいし注目を受ける分、少なからず国やその管轄に近い部隊やギルドには見られる。
今後裏での暗躍もしにくいだろう・・・。
ただ筋書き通りに行けば確かに良い考えではあるが、あいつはそういかない・・・
お前も内心そうは思ってるんだろ?」
「うん、上手くいくとは思ってない。通って精々6割の確率だと思うけど。規模が大きければ大きい要望程、大きく見積もっていてれば必ずどこか大きく当たりやすい。
最初から小さい規格での交渉なら通り安いかも知れないけど、それじゃきっと意味は無い。これくらいが丁度いいと思う」
彼はそれに対し「だな」と短い返事で私の背中を軽く叩く。勇気の一押し、これがどれだけ不安があっても彼の私に対する考えの後押しが、私の不安を和らげてくれる。魔法の様な、彼の優しさだ。
「お嬢さんはどうだ?」
彼は優雅に座るリフレシアに急に話を振るもんなので彼女は構えていなかったのか少し驚いた様子を見せるも、直ぐにいつもの平常心を瞬時に見せ答えた。
「俺は世間様や他国の情勢は分からん。だからまあカペラが言うならまあ大丈夫なんだろ。
その点も気になる所はあらかた話したしな」
「そうか。にしても君凄いな!"マグ・メル"を封印出来るなんて!」
「まあな、気安く話すがお前はカペラのなんなんだ?」
この時ばかりは血の気がとんでもなく引いた。
何故なら彼女には私の事は話していても、まさか彼が"支配の龍"を倒した本人であり、私達を引き連れたパーティの主であるとは言っていないからだ。
何より彼は嘘をつくことをどの場面でもやたらにしない為、毎回自己紹介が"支配の龍倒した人"と自慢げで無く、それなら話が通り安いという理由だけで敵味方関係なく言ってしまうほどの人物。
この場でそれを言えば彼女が興味を持ってしまう・・・、どう転んでも面倒になる。
頭をとにかくフル回転させながら私は彼女の前へと立ち説明しようとしたが言葉を考え過ぎ、何も出てこない。そんな私を見て呆れた様子で彼は言う。
「養子だ。こいつが幼い頃に親友が拾った孤児を俺が引き取ったから、まあつまりはこいつの義父だよ、ちなみにローライもそうだ」
「ほぉ・・・暇だなお前」
まさかの彼の答えに私は驚いてしまった。
嘘ではない、けれど今までそんな風に自己紹介をしたことは一度も無い。戸惑いながらも私は彼の言葉に続き、話を合わせる事にした。
「そうなの、ラックは私の義父なんだ」
「本当の父母は?」
「物心付き始めに亡くなっちゃって・・・」
「そうか、だが魔獣を拾って育てるとはお前のその親友もお前も変なやつだな」
「良く言われる。あいつも俺もちょっと変わってる」
彼は苦笑いしそう答えた。何故なのか、そんな顔をしていた私に彼は目配せをする。何か勘づいているその様子に私は少し焦ってしまった、出来れば彼には話したくない。
ローライを巻き込んでしまったことへの罪悪感がある。リフレシアの事、それは少なくとも私達だけに留めておきたい事実でありこれ以上巻き込みたくない。
きっと彼は何かを察してああ言ったのだろう。
「ていうかなんで誰もカペラの服に突っ込まないんだ?」
とローライは手を上げいう。そうだった、彼女につけられた紋章を見せてから上半身裸だった。
けれど、彼以外を除く私達は何とも思っていない、口を揃え彼に答える。
「「「魔獣だから」」」
「そんな事より早く飯だな」
「ラックも食べていく?」
「おお、良いのか?」
「俺が間違ってるのか・・・?」
長い1日、束の間の休息は本当にあっという間に過ぎた。何を話し何をしたのかももう覚えていない。
数日間かけなかった記録も日記も今日こそここ数日間を覚えている内に書きとめようと思っていたのにお腹は満たされ、疲れは一段と体を気だるくさせ休ませようとし瞼は重く抗えず、いつの間にか眠りについてしまう。
ふと目を覚したと思えば窓の外は未だに月明かりが照らし賑わう街の声が目を覚まさせる。
大きく作られたベランダに置かれた椅子に腰掛け、荷物の中にある小さな手帳に日記を書き留めていると。
少し遅れたタイミングでラックがベランダの方へとやって来ては書き留めていた日記を横から見にやって来る。
「まだ続けてたんだな」
「うん」
「もう体は大丈夫か?」
「少しは動けるから明日は歩いて帰る。救助隊にも帰還連絡入れないとだから明日は早起きしないとね。ラックはどうするの?」
「俺も一緒に行くよ、カラットまで。あいつがこの依頼をやり遂げる所見てやらないと」
「そっか。・・・そうだあの持たせてくれた箱ありがとうね」
「役に立ったろ?」
「せめて何かくらい説明しといてよ、お弁当かと思ってたから関係無い所で開けそうになるじゃ無い!」
「悪い悪い、いつも何か危険な目にあったらって、ローライのやつに持たせてたから言い忘れてた」
「なんでリフレシアにあなた義父だって言ったの?」と恐る恐る尋ねてみると彼は笑いながら答える。
「なんでだよ、たまには良いだろ?父親ズラしても。それにそんな変だったか?」
「ううん、今までそんな自己紹介しなかったじゃ無い」
「あの子『カペラのなんなんだ』って言ったからそのまま答えただけだぞ」
「そっか・・・。そうだよね」
確かに変では無いし本当の事ではある。変に探りを入れてしまったと反省していると彼は笑顔で言う。
「なんかよく分かんないけどさ、お前はお前なりに考えてんだろ?抱え込むのも別に悪いとは言わねぇけど本当に悩んでる時は相談しろよ」
「ありがとう、大丈夫だよ。もし本当に迷った時、ラックを頼るから」
「あぁ、お前は仲間だし娘なんだからな。親でも仲間でも良いから頼ってくれよ」
「おやすみ」と一言残しその場から去ろうとする彼、私はセラムの"徽章"を思い出し、寝室へ戻る彼を呼び止めポケットに入っていた"徽章"を手渡した。
手渡す時、私は何も言葉が思いつかなかった。
黙ったまま手渡されたそれを彼は何も言わず手に取り、寂しそうな顔で再び私に背を向け寝室の方へと向かう。
彼の「頼ってくれ」というその言葉。
本当にそう思っているんだなと心の底から感じられた。気取らないいつもの軽口での言葉だったけど、私には分かる。
自分の知らない所で亡くなった仲間を、セラムが悩んでいた事、それは彼ラックが自身の不安に思っていた旅での道連れにしまった罪悪感のそのものが表れ出た事だと感じているんだろう。
これ以上仲間を失いたくない気持ちは私以上に彼が強いのだとその背中の寂しさが強く私にそう思わせた。
私がかけられる言葉。眠りにつこうと横になる彼に私は近付き静かに言う。
「大丈夫、僕は死なないから」
顔は見えないが彼は横に寝転んだまま、返事はフッと息を吐き出す笑いだった。
「おやすみ、ラック」
星を眺めながら私は日記の続きを書く。
こんなに穏やかな気持ちで何かを書き留めたのは凄く久しぶりだと感じてしまう程。
長く、思えば短い私達の数日間の旅は、その日全てを書き留めるのは難しかった。
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