42 ファインド ユー



48



トリル・サンダラを抜けてから近くにある街。

"エンリット・サンダラ"

砂の地での旅に疲れた旅人を癒す宿街でその街の多くは飲食店や宿になっている。


一足先に街へ足を運ぶ彼女は店で徽章を見せびらかし危うく捕まりそうになってしまったトラブルはあったものの、ようやく一息付き体を休める宿屋へと辿り着き、1つ部屋の中各々休息を取っていた。



「あー疲れた・・・」

「ありがとうローライ君お疲れ様」

「だらしないぞクソガキ」

「てめぇ荷物持ってただけだろ」

「砂に埋めてやれば良かった」



もう口喧嘩を止める気力も無い、けれどお腹は減るもので眠れもしない、動けない・・・。


首が痛くなる程の大きな空間の大部屋で、

部屋の中にお風呂や備え付けのお菓子といったサービスまである。完全にお金持ちの観光客向けに作られた部屋。



引け散らかしているような、気取っているような気がして部屋を借りる時とにかく凄い罪悪感に見舞われた。

正直こんな大袈裟な部屋では無く、体を休められれば何でも良かったけど、ここまでになるなら小部屋2つが良かった。少し落ち着かない。



「落ち着かない・・・」


「良い部屋じゃないか?俺こんな部屋入った事ないから楽しいけど」


「俺もだ・・・俺のいた城より全然小さいから落ち着かんな」


「人の姿でその感性なのかお前?」

「今から他の部屋に出来ない・・・って、今更迷惑か・・・」


「もっと大きい部屋はないか言いに行くか?」

「さっきからあなただけずれてるよ?」

「それより腹が減ったな、どこか食べ物買ってこい」

「あ・・・俺かよ!!」

「お前一番働いてないだろ」



彼女の一言に何も言い返せないローライ、少しかわいそうになので私も間に入りなんとか場を納める様働きかけるが結局彼は一人買い出しへと向かう。

私とリフレシアの二匹、私が彼女に掛けられた契約魔法のことを思い出し、服を脱ぎ二の腕についた紋章を見せる。


突然それを見せられた彼女は机に置かれているお菓子を食べながら言う。



「なんだ?・・・ああ、かっこいいだろ?俺オリジナルの式に紋章だぞ」


「そうじゃなくて、これは結局何なの?」

「契約魔法」


「それは見れば分かるんだけど・・・あなたに投げ飛ばされた時この紋章が急に輝き始めて、あなたの魔力が使えたんだけど・・・これってどういう仕組みなの?」


「え・・・?いやそこまで知らん」


「怖いからせめて自分がかけた魔法くらい覚えておいてよ」


「だが、契約魔法なのは間違いない。勿論お前の動きも拘束できる、元の式は変えていないからな」




魔法の式を専門家でも無ければ、ましてやどう言う効果なのかも良く理解分していないのに勝手に組み替えて誰かに使うなんて事御法度に近く、普通はあり得ないしもう二度とやって欲しくない。


実際問題これに助けられた事実もあるのであまり強く言えず、喉元まで言葉が出かかるがここは我慢して反論を言わずに押し黙りとりあえずそう言う事なのだと自分の中で完結させる。




「解けるの?」

「解くつもりは毛頭無いがそれは出来るぞ、昔試した事があるからな。それ以外の効力は全く知らん。まあでも俺のおかげで助かったろ?感謝しろ」

「・・・ハイ」



ぐうの音も出ない、本当の事以上に本人にそう諭されるもあの危険下で空高くから投げ飛ばされた挙句、魔力のそれが計画性の無い判断だった事にどう突っ込めば良いかわからなくなる。

どちらにせよ今回の一件は彼女無しでは解決しなかったのも事実。この関係がしばらく続きそうな事がとにかく億劫ではある。



「それよりもまあ、俺の姿を見たやつももうお前達以外いない事だ。お前の言ってた交渉みたいなのも要らないんじゃないか?」


「それは必要、だからこそ”マグ・メル”の魔力と本体の二つに分けた意味がある」


「分けた理由はわかったが何故まだ渡す理由がある」


「あなたが”サニア”である以上、狙われ続けるから」

「それはあれだろう?俺がこの”マグ・メル”を持っていたらの話だろ?」



「ううん、どうやら”サニア”さんはあの”sEEkErシーカー”個人が保有する別の”マグ・メル”の場所を突き止めてしまったんだって、彼らからすれば秘密裡にそんなものを持っていることがバレれば問題になる。


それにまだ隠し持っているのならまたバレると思ってあなたを殺しにくる可能性すらある」


「どういうことだ?」


「あのね・・・実は・・・」


私はセラムと話した内容を彼女に伝えた。終始何か問いかけにはすぐ答えを返す彼女だったが、この時ばかりは少し整理を要したのか話を最後まで聞き入れていた。



「成程な。まあそうとなれば俺にまだ安全を保証できる理由が別に必要になるな」

「だから”マグ・メル”を引き渡す、そしてあなたは私と同じ仕事を務めて貰う」

「・・・・ハァ?やだよ、何故そうなる?」



「”マグ・メル”の封印に、引き渡しは最大の世界貢献になる、それに”封印”と言う点に関しては”破棄”に次ぐもっとも貴重な”マグ・メル”を止められる唯一の手段なの。



そしてあなたが正式に私と同じ国営機関である[スターキャリアー]に入ればこれで相手も手を出しにくい。この二つがあればあなたは認知される。そんな相手を殺せばそれこそ世界的なバッシングは絶えない、的にされる可能性さえある。



もしカラットの様に秘密裡に保有や所持をしていても表面上は所持をしないよう声明を出し協定を組んでいる国の一つ、否定はできない」



「もっともらしくいってるけどよ、お前そのお偉いなんとかで同じ様な所から狙われたんだろ?効力一切ねえじゃねえかよ」



「今回に関してはね、だからあなたが”マグ・メル”の”封印”という事実を元に貢献すると言うことを公言し示さなければならない、その為に国営機関に入れば信用は最低限得られる」



「それで手渡すのか・・・なんかまあ気になる点はいくつかあるが今できる最善がそれなのか?俺には世界の情勢も世間様の動きも組織も良く分からんがそう簡単に行くか?」



「正直分からないって言うのが本音ではあるし具体性には欠けた点はあるかも知れないけど、私が今思いつく中では一番まだ言い訳としては通ると思う」



「確率は」

「相手が相手だから6割」

「なんだそれ」



「二つに分けた理由は本体のみでは”マグ・メル”として発動させない為の対策でもある。もし開けられても動きはしない。そこは大丈夫なはずだから」


「いや。それより俺の身の安全だろ」

「自分勝手なんだから・・・まあそんな感じ」



話疲れた。ただでさえその事を知ったのも朝の事、それに何より彼の背の中で眠りについたとはいえ未だ疲れは取れず、むしろ今の今まで元気な彼女の方がおかしい・・・。



「にしてもあいつ遅いな」

「買い出し行って貰ってるんだから文句言わない」


「襲われてたりしてな。流石の俺はもう魔力もからっきしだし、疲れたから戦いたくないぞ」


「物騒なこと言わないでよ・・・」


「お前そう言えばあのちゃっちい装飾品持ってお前も行けば飯もタダで良かったろ」


「ちゃっちいって・・・・・。まあそれはそうかもだけどなんかお金払わないと悪い気がして・・・」


「変なやつ」

「今のうちに世間の感性に慣れた方が良いよ」




ガチャと部屋の扉が開く音。その音に彼が帰ってきたと私達は思っていた。しかし扉が開かれ現れた人物、それは彼と違い背が高く全く違うシルエット。


リフレシアは直様戦闘態勢へと入るが私は体を動かす事も出来ず息を呑み、その人物が部屋に顔を出す所をじっと見つめる。顔を覗かせるのは男性、それは私が良く知る人物、ラックその人だった。


今にも飛び掛かろうと体制を立てる彼女に私は咄嗟に叫び止める。



「待って!リフレシア」

「お、ここか合ってた。よおカペラ・・・と・・・?」



リフレシアは直ぐに私と彼の顔を見てから少し様子を伺っては「なんだ・・・」とため息をつき、

体を崩し近くの椅子に大きく音を立てながら豪快に座り直す。その様子に呆気に取られたのか笑顔のまま固まるラック。



「あ・・・えっと、ラックはなんでここに?」

「え?・・・あぁ、ローライから来て欲しいって連絡貰ったもんだからさ」

「え?」



救助部隊を呼んだはずの彼が何故ラックを呼んだのか答えは簡単だった。

カラットや付近の街の救援の要請は対処や連絡までと準備時間がかかる、それに部隊の強さを考慮しても遅いと判断し、より早くにまだトリル・サンダラに近い方ではある実力者のラックにも速達の連絡を入れた。



という所だろう、実際に今現在までに要請したこの街から更に遠くに設置されている救助隊は未だ来ていない。


それはそうとして彼が連絡を送りこちらに着くまでがあまりにも早過ぎる気もするが、彼の軽装は見るからに旅をする用意とはかけ離れた最低限の装備、状況の伝達が詳しく出来ていないんだと読み取れた。



「で?なんかもう俺必要無さそうなんだってな?」

「あれ?何でそこまで知ってるの?」


「さっき街に入る時に買い出ししてるローライにあってさ、

『旅に同行してお前連絡入れるなり、やってる事家と同じじゃねぇか』って言ったら普通にへこんでさ」



それを聞き私は頭を抱え、彼女はケタケタと笑う。

彼一人が不思議そうな顔をし状況を察すること無く一人「違うのか?」と私に言う。



「彼もちゃんとやってくれたよ・・・お陰で何度も助けられたんだし」

「いや、どっちもあいつのせいで死にかけたろお前」

「なんであなたそうやって茶々入れるの!!」

「え?本当か、カペラ?」

「いや、違う違う!第一最初はあなたでしょ!!」


「言っとくが俺あのガキに薬盛られたのまだ根に持ってるからな」


「毒!?あいつ、毒盛ったのか!どういう事だよ!」

「お願いだから!黙っててよ!!」



状況はとんでもなく話が飛び交い着地点を見失ったまま、部屋の扉の隙間から覗かせるいつの間にか帰ってきていた彼の目を私だけが気が付く。



とても悲しそうで、見るに耐えず私は目を逸らしてしまう。



話があらぬ方向に進む為、私は彼に今回の一件を一部端折りながら大体の流れを話す。


勿論、リフレシアについてはある程度伏せて。


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