41 キャリーオン
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心地よい暖かさとリズムで揺れている。いつまでもこのままでいたい、穏やかで静かで天国とはこう言う所なのかなと考えてしまう。
死んでしまったのだろうか、恐る恐る目を開くとそこは砂の世界はぼんやりと映るがやけに低い視線に驚き少し体を動かす、視線を少し下げると目と鼻の先に見えるのは見た事のある後ろ姿と髪の毛の色、振り返るその顔はローライだった。
「あ・・・あれ?ローライ君?」
「よお、起きたか」
私より身長の低い彼は私を背負い歩いていた、あれから何時間経ったのだろう。よく前を見るとかなり前の方には彼女の姿も見える。元の姿では無い人の姿である彼女はブンブンと乱暴に荷物を振り回しており、思っていたより元気そうでホッとした。
「ご・・・ごめんね、重いよね・・・降りるよ」
「いいよ別に、これくらい平気だ。毎日もっと重いもん持ってるしな。それにお前今下ろして自分で歩けんのか」
「・・・多分ダメかな」
「だろうな」
面白いくらいに体の力が入らず少し恥ずかしさはあるものの自分の力で歩ける訳も無く、彼を頼らざる負えかった。
ふと周りを見渡すも彼の姿はもうどこにも無い、私がキョロキョロと周りを見渡すのでローライは私が何を気にしているのかを察しているのだろう、私が彼に問いかけるその前に答える様に話し始める。
「あの人ならもう亡くなった、最後にあの人邪魔にならない様にって死んだらその場で埋めて欲しいって頼んだんだ」
「そっか・・・」
「最後まで治療したけど・・・。あの傷じゃもう・・・、無駄だからってあの人も止めようとして・・・」
「・・・ありがとう、ローライ君。でも無駄じゃ無かったと思うよ、あなたの気持ちと治そうとした分彼は痛みを和らげて亡くなったはずだから」
「ありがとう、カペラ。やって良かったよな」
「うん」
「あとあの人から伝言」
「私に?」
「本当にありがとう。だって」
その言葉がどれほど重くどれだけの想いなのか、私にはよく分かる。
涙が出そうになった。これ以上ローライを困らせるわけにもいかず、涙を堪え私は冗談混じりに言った。
「いままで、『ありがとう』なんかちゃんと私に言わなかった癖に。ずるいなー、しっかり聞きたかった」
心の底からのお礼。いつもの軽口ですら中々言わなかった彼が全てを終え最後の時に掛けた私への言葉。
自分の弱さと不甲斐なさにずっと我慢していた涙がボロボロと溢れてきてしまった。
彼女に私という一匹の存在を問われてから、私は少し感情的で涙脆くなってしまったのかな。
気付かない振りをローライは私が静かに泣き終えるまでずっと我慢してくれた。
いつしか砂の大地"トリル・サンダラ"から遠去かり、草木の生える見慣れた大地に足を踏み入れる。夕方頃になるとそこからは街が見えてきた。
近くの木陰で先に進んでいたリフレシアは立ち止まり後から歩みを進めていた彼とおぶられている私はそこで合流を果たした。よく見ると彼女は彼女で私達の荷物や”リオラ”の遺品を持っていた事に私は少し嬉しかった。
「お前ら遅いぞ」
「うるせえ」
「ごめん・・・ローライ君が私をずっと背負ってくれてて・・・」
「それよりこのまま街に入っていいのか?」
「そうだ・・・ローライ君結局助けは呼べたの?」
「一応緊急伝達はして待機してたんだけど・・・それでも時間がかかるって話だったからさ、そんな待ってられなくて俺がお前の所に戻ろうとした道中であいつにあったもんでそこからは・・・」
「情けなく捕まって足手纏いになったんだよな?あれがなけりゃな〜」
彼女は意地悪く言うと彼は罰が悪そうに顔を伏せ黙り込み、にやにやと笑う彼女を私は睨む。
「済んだ事はいいとしてリフレシア、”
彼女はリュックの一つから二つの箱を取り出し私に見せ脅かす様に蓋を開けて見せるもその中身は空だった。
「え?」
「言っただろう、特殊な封印で普通に開けても中身はない。封印を解けば取り出せる、試しに出すか?」
「いや・・・止めて・・・」
「お前が倒れて直ぐに分けて封印した。分かった事があってな、元の姿では探索能力も封印も出来なかった」
「そうなの?」
「サニアの姿に戻った時にはすんなり使えたが・・・。まあまあ不便な力だ」
「彼女があなたに忘れて欲しく無くて、もしかしたら彼女の姿でしか使えない様にしたのかもね」
それを聞いたリフレシアは鼻で笑いながら言う。
「かもな、めんどくさい女だ」
「可愛いじゃない」
「どこがだ」
ひとしきり会話をし、私は彼女のことを詳しく彼、ローライに話していないことを思い出し思わず口を両手で隠す仕草をしてしまうと彼はため息混じりに「知ってる」と言う。
どうやら私が気を失っている間に事の顛末や経緯から彼女の事すら既にリフレシアから聞いていたらしい。
「じゃあ・・・彼女が」
「”支配の龍”の娘なんだろ?」
「そこまで話したんだ・・・」
「龍の姿見られたからな、お前みたいに何度も質問してくるもんで全部話したんだよ」
「まあ・・・そうなっちゃうか」
仮にも彼は”
街へつけば告発をする可能性なんか当たり前のようにある、そんなことを考えていたのちに私は胸騒ぎがした。
まさか彼にも同じ事をしたのでは?直ぐに彼女に確認をとると、慌てた様子の私に彼女は不思議そうな顔をしていた。
「まさかあなた・・・彼にも契約を」
「するかこんなバカ、いらんわ」
「けどそれじゃ・・・」
「話したら殺すとは言った。この事を知るのはお前かこいつかだろ、バレたら殺しに行けばいい」
「しゃれになってないね」
「そりゃ冗談じゃないからな」
「それよりどうしようかな・・・お金もあまり持ち合わせてないし街に着いたって滞在出来ないよね・・・野宿も出来ないし・・・」
「荷物なんかほぼほぼ持たずあの町からここまで来たからな。腹減ったしなぁ・・・やっぱこのガキバラして食うか?」
「や・・・止めろ・・・よ」
明らかに初対面の時とは違う彼の彼女に対する態度。相手が本物の龍と分かっただけでも驚きだろうにまさか喧嘩腰で相手をしていた女の子の正体が龍であり、なんなら”支配の龍”の娘だと言うのだから逆らえるはずもなく。
彼女は彼女でその事を存分と楽しんでいる。
「なあ、カペラ。徽章、”光輝の印”を出せば宿も飯もタダだろ?」
「なんだよお前そんないいもん持ってたのか?」
「そっか・・・でも・・・」
私は”光輝の印”を手に取ろうと閉まっていたポケットに手を入れる、すると二つの徽章が私の手に。
それは私の物とセラムの物の二つ。
「二つ?カペラお前それ・・・」
「うん、彼の持ってた物」
「なんだ?二つあるとまずいのか?」
「そうじゃないんだけど・・・」
"厄災の龍"、並びに"支配の龍"を倒し、世界に平和をもたらした者達に贈られる特別な徽章。
私はこれが嫌いだった。何でも貰え、どこへでも行け、何にでも使えてしまうこの勲章が。
私にとってあの旅の意味が、得られた事が私を苦しめていた。その形として残ったこの徽章はまさに呪物その物だった。けど今は違う。
「・・・・、あの冒険があったから今がある、出会えた人達がいる」
「なんだって?それよりそいつ使って飯と宿だ!」
彼女は私の持つ徽章を奪い一人街へと駆け足に向かっていき、呆れる私達もゆっくりと後を追う。
「なあ、お前にとってあれって何なんだ?」
「急にどうしたの?」
「いや、そう言えば師匠の仲間だった人にあって話聞いた事無くてさ」
「ラックはなんて答えてた?」
「師匠は『かけがえない出会いと忘れられない時間と記憶を思い出させてくれる宝物』だって少し照れくさそうに言ってたな。
変だよな、誰も成し遂げられなかった強大な"支配の龍"を倒して世界を救ったのに、自慢げにせずそんなこと言うんだから・・・、けどさお前とあの人を見てたらきっと師匠の旅はお前たちに会えた事がどんな事よりも意味があったんだろうなって今なら分かるよ」
『何でも使える便利アイテム』照れ臭かったんだなと思うと私はついあの時の彼が口にし私に見せた表情を思い出し笑いが込み上げてしまう。
「それで、お前は?」
「ん?ん〜、そうだなー・・・、”何でも使える便利アイテム”かな?」
「なんだそれ、師匠が聞いたら悲しむぞ」
「大丈夫、ラックなら笑ってくれるよ」
彼の持っていた赤く燃え上がる様な闘志を感じさせる真っ赤な宝石の埋め込まれた徽章。
ラックになんて言って渡そうかずっと悩んでいた。
けどきっと彼ならこう言っても許してくれるだろう。いや実際に言ってたかな。
”何でも使える便利アイテム”。私達だけの都合の良い言葉。
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