39 線香花火
45
そびえ立つ大きな建物の様に巨大な龍のその姿は大きさも然る事乍ら、凶暴で禍々しい化け物を象る"砂上の夢"を次々に投げ倒し、得意の魔法を駆使し無力化する程の力を持つ。
彼女の言う様に”サニアの姿”では戦いに限界があるらしく、元の姿である龍での闘い方は手荒で凶暴性をより際立たせ、私が作り出した"砂上の夢"より強く大きいはずの物ですら簡単に圧倒して見せる。
しかし数は一向に減らない、それでも彼女は戦い続けている。"人の姿"ではなせなかった動きや戦い方は以前に増して戦い慣れた戦闘能力をも見せているが相手は無限近い魔力を持つ砂の塊。いくら彼女がどれだけ強かろうと、敵が減らなければただただ不利な消耗線が続くだけ。
彼女は数日間に渡り"砂上の夢"と戦い続け封印し、徐々に"マグ・メル"の力を封じやっとの思いで無力化した。
しこの状況では封印すらままならないとなると永遠に戦い続け無ければならない。
彼女の戦う姿を横目に持てる全ての力を使い、エリミネーターの元へと走る。
彼女に"マグ・メル"の力が一斉に攻撃している今しかない。
早々に私がエリミネーターの元へと向かっている事がバレるのも時間の問題、早かれ遅かれ対峙するのだから。
今決める他ない。
「お前!!まだくたばってなかったのか!!」
「もうあなたは許さない」
"砂上の夢"を操っているエリミネーターは今、彼女が戦っている間は"砂上の夢"を使いこちらに攻撃を向ける事は出来ない。
それ程までに彼女が"マグ・メル"の全力に相当する力があり、"砂上の夢"を少しでもこちらに力が分散出来ない位に彼女と"砂上の夢"との戦いは接戦なのはエリミネーターも良く分かっている。
「死に損ないが!!」
「その死に損ないすら倒せないよ!」
砂で作られた義手を使い銃の引き金を引くエリミネーターだが今更そんな攻撃何一つ怖くなんか無かった。
ここで死んでもいい、彼らをリフレシアの期待に答える為。決死の突撃、エリミネーターの放つ何発もの弾丸の弾道は振れ、1つとして当たる事は無かった。銃というのは非常に繊細な武器ということを私はよく知っている。
感覚が少しでも違えば当てる事も難しくなる、今のエリミネーターは砂で出来た腕を操っている訳で本物の腕ではない。
「くそ・・・照準が・・」
「あああぁぁぁ!!!」
力も体力も底を尽き今にも倒れそうになる。
声を張り、勢いと威勢だけの気合いの一撃。
携えた杖を居合切りの如く抜き出し岩を砕く勢いと思いで油断したエリミネーターの横腹にぶつけた。
「う・・・ぐぅう・・・」
苦しみに歪む表情、骨が折れる感触、この一撃はとても重いと確信した。杖をぶつけた勢いで強く地面に打ちひしがれ転がるエリミネーター。全力を尽くし倒れてしまうもそれも彼を無力化出来るのであればどうということはない、もう身体は自由は効かずとも。
彼もリフレシアとの戦闘でもう疲弊しているはず、これで"
そう思っていた。
必死に身体を動かそうと痛みを我慢し顔を上げると、未だに"砂上の夢"と戦う龍の姿と"
あれだけの一撃、明らかに近距離での戦闘を得意としない動きに防御の甘さは完全にダメージをかばい切れていないはずなのに、まさか思ってた程力が入っていなかったのか。想定外の事に困惑してしまう。
「嘘・・・」
「ゲホ・・・ェホ・・・、くそ・・・痛ぇ・・・良くもやったな・・・死にかけの魔獣が・・・」
彼の破けた服の下には薄く纏われた砂の鎧。
"砂上の夢"を使い自身の身を砂で守っていた。
自分がそれをした様に彼も自身で考えつかない訳が無い、迂闊だった。
「残念だったな、お前達と違って人間様は頭が回るんだよ」
「・・・うぅ・・・」
徐々に近付いてくるエリミネーター、その手に構えられた銃口は動かぬ相手なら外す事はもう有り得無い。
頭無しに突っ込んだ一撃は無意味に散る。けれどこれで良い、例え私が死んでも私が隠し持っている"
"
響き渡る彼女と"砂上の夢"との激しい戦い。
突如遠くから飛来する大きな砂の塊はエリミネーターに直撃し、煙に巻く様に視界が砂塵で覆われ視界は奪われる中大きな手が乱暴に私をすくい上げ、気がつけば視界には青々とした空にいつしか地面から遠く離れた場所に私は飛んでいた。
一瞬の出来事に私は驚きはしたもののそれが直ぐリフレシアによるものだと気がつく。
「あ、・・・ありがとう。助か・・・」
「この馬鹿!!!何勝手な事やってんだ!!!」
私は彼女に掛ける一言を口にしようとした瞬間、龍の巨体から発せられるその言葉の迫力と声量に吹き飛ばされそうになり必死に彼女の腕に捕まる。
本当に落っこちそうだった。
上空から見られるエリミネーターは地面に伏せ倒れてはいるもののこちらをしっかりと睨み付けるように捉えており、再び彼女に向かって無数の"砂上の夢"が襲いかかる。
私は彼女の手に収まりしっかりと掴まると、敵の攻撃を縦横無尽に飛び回り回避して見せる彼女、それはどこか余裕のある様にも見えるが実際にはただ逃げ回るだけで一向に戦いは有利にはなっていない。
彼女もあまり距離を取るとセラムとローライのいる所を標的にされると理解しているのか一定以上の距離を取ろうとしない動きは少なくとも"砂上の夢"の攻撃を完全には避け切れられず傷が少しづつ増える一方だった。
「お前、せっかく俺が直々に時間を作ってやっているのが分からないのか!?俺があいつに砂を投げつけなければ死んでいたぞ」
「ごめん、リフレシアが戦ってくれてる間にあの男を止めようとしたかったんだけど」
「どう考えても無理だろ、たく・・・。お前魔力も無いだろ?」
バレていた、セラムとの一戦に彼女に施した白魔法の効力は彼女自身も感じ取れたであろうその効力の大きさ。
連日の戦いに疲弊していることを彼女は知っている、その中、極限にも近い段階で繰り出したあの白魔法は最後の力と思われても無理がない。
「・・・"グリマー・パルス"っていう白魔法をあなたにかけたんだけど、あれを使うとしばらくはもう魔力が元通りにならないの、だからあなたを今はもう回復することが出来ない」
先程のセラムとの戦いよりは強い相手ではない。
けれど相手は数もあれば以前より凶悪な"砂上の夢"を相手にしている。いくら元の姿での戦闘が慣れていて戦えたとしても彼女も永遠に戦える訳でもなければ、あれとの戦いで怪我もしている。
それに"グリマー・パルス"のデメリットは彼女自身にも作用しているはず。
「あの急に元気になったやつか・・・。じゃあ余計何しに来たんだよお前!!」
「ごめんなさい・・・あとねリフレシア、言いづらいんだけど・・・私がかけた白魔法"グリマー・パルス"は回復した当人の魔力もかなり消費するの、その分回復はするんだけど・・・・」
「通りでなんか魔力が足らねぇと思った・・・戦い辛いったらありゃしねぇ」
「本当にごめん・・・」
「まあいい、どの道この戦いも長続きはしないだろう。一気に決めるなければならんと思っていた所だ。さて、後は・・・」
彼女はそう言葉を残し空高くから私を放り投げた刹那、私の僅か数センチ掠める程の距離を彼女より一回り大きな龍の姿に造られた”砂上の夢”が凄まじい速度でドス黒く輝く目から残光の残し通り過ぎ、砂で出来た龍は彼女を押さえつける様に噛みつき空中から地面へと叩きつけられる。
一瞬、目で捉えたその”砂上の夢”が形。精巧に造られたその姿を私は良く知っている。
”厄災の龍”の一匹。 ”
ラック率いる私達が倒した龍の一匹。
投げ出され空中に取り残された私は受け身を取れたとしてもこのまま地面に叩きつけられてしまえばただでは済まない。せめて魔力さえあれば防御魔法で多少の衝撃は何とか出来るのに。
悔やみながら杖を握り締め、無意味と分かっているも強く願う様に自身に魔法を唱え、間も無く地面に叩きつけられる寸前の時、ローライが颯爽と現れ落ちてくる私を受け止め自らの身を挺して下敷きとなり上空から落ちてきた私を助けてだしてくれたのだ。
「ローライ君!」
「いっってえ・・・大丈夫か・・・・」
かなりの高さからの衝撃、下敷きとなり自らを犠牲にした彼はただでは済まないはずと彼を心配していると、すんなりと彼は立ち上がり咳を交えながら笑った。
「防御魔法・・・、げほ・・・成功だ」
「え?ローライ君使えたの?」
「お前一度俺に・・・かけただろ?その時見てたんだけどさ、とっさの思いつきで真似てやったら上手くいった・・・エホ・・・吐きそう・・・」
一度見ただけで覚え、自身の危険を顧みず実践に用いた彼の実行力に驚いていた。気がつけばローライやセラムの近くの方へと投げ飛ばされていた、それは彼女が正確にあの一瞬で判断した事。
「それよりお前、魔力戻ったのか?」
「え?」
「お前も防御魔法の・・・なんだ、それ使ったんだよな?魔力探知であの女の位置を把握して逃げてたら、遠くからお前が投げ飛ばされた時に強い魔力で反応したからお前の位置を正確に受け止められたんだぞ」
「どういう・・・」
ふと腕を捲り見ると彼女と無理やり交わされた契約の紋章は赤く輝きを放ち、彼女と同じ魔力を放っている。
彼女の魔力がいつの間にか私に付与されている。彼女から生み出された力強く燃える様に熱い魔力、不思議と強くなった様に勘違いしてしまう、それほど迄にも勇気を与えるそんな力の籠った魔力。
「今なら・・・。セラムさんを・・・」
「・・・助けられるのか?」
とっさに「大丈夫」とは言えず言葉に詰まる私を見て彼は察した様子で俯く。
助かる保証もないそれ程までに彼はボロボロで、どんなに偉大で万能な白魔法が使えたとしても命を繋げられない。抉られた肉、流した血。内臓や体に刻まれた痛みは消す事は出来ない、何より傷は”治す”事は出来ても、血肉は”作り出す”事は出来ない。彼の損傷は何かで補填出来る程の状態ではもうない。
いつ切れてもおかしくない細糸を無理矢理に繋いでいる様な生殺しの状態、今直ぐにでも街へ連れて行き適切な処置を受けようときっと彼は助からない。
いっそ楽にさせてあげるべき判断は私にはどうしても出来ない、したくない。
私の中での葛藤は、瀕死のセラムが振り絞った声に弱々しい力で私の足を掴み放った言葉により直ぐに決断できた。
「・・・カペラ。
・・・戦い・・た・・・い」
彼のその言葉と覚悟に私達は言葉を失う。無粋だった、自身が一番よく分かっている事を私達で彼の最後を決めようとしていたのだから。
「うん、一緒に戦おう」
私のその言葉にローライは何も言わず首を縦に振り、彼の外傷に手当てを始め私は彼女が託してくれた魔力を使い持てる力を白魔法にあてた。
「セラムさん、今からかける白魔法は・・・」
「・・・いい。」
「分かった」
どうか、今だけでいい。彼に今だけ背中を押せる力を・・・・。
「”モックス・ファイヤーワーク”」
どれだけ怪我をし、どれだけの大病を患おうと一時的に体を動かす事が出来る白魔法。損傷が大きければ大きいほど効力を発揮する。一時的即効性のある擬似完全復活が可能な魔法。
その代償は、効力が大きければ大きい程地獄の様な苦痛と苦しみを魔法が解けるまで味わう事となり、それに耐え生き得たとしても魔法が解ければ傷や病気といった物は再び元に戻ってしまう。
仮止めの対症療法といった所だろう。
発動した瞬間、身体中の傷は魔力による縫い合わせの様で魔力による光で防がれ、彼は魔法痛みに顔を歪ませながらゆっくりと立ち上がり、苦しそうに私に言う。
「ありがとう・・・」
想像もつかぬ程の苦痛は彼のその顔を見ただけでどれだけのものか分かる。本当はこんな魔法使いたくなんかない。
けれど今ここで彼の願いを叶える事が出来る私がそれを無下には出来ない。
私は彼の言葉を素直に受け止め頷くと彼はポケットから赤く煌めく宝石が埋め込まれた勲章、彼の持つ”光輝の印”を取り出し私に託し言う。
「これを、ら・・・ックに・・・」
「うん・・・。じゃあ私も」
私の持つ”光輝の印”を取り出しローライの方を振り向こうとすると、その手は彼に止められた。
「お前は・・・生きろ。その・・・為に託した・・・」
「・・・・。ごめん、そうだよね。それが私の仕事だった」
凶暴そのもの、その姿形だけで無く攻撃はまるでドレッドノートそのものの姿で現れた”砂上の夢”。
リフレシアが必死に戦っている。ローライを残し私達は”砂上の夢”を止めるべく彼女から託された魔力を胸に二人最後の戦いへ。
「行くぞ・・・」
「うん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます