37 クラムジーソーツ
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渾身の一撃、彼の振り下ろすその拳は再び彼女に襲いかかろうとするがその拳は受け止めるのではなく弾き飛ばすように彼女の拳で跳ね除けられる。
「嘘だろ?・・・お前・・・」
「完全復活」
彼女の体にはセラムから受けた痛々しいアザや傷は嘘のように消え去り完治し、戦う以前の状態まで傷は癒えている。
彼女にかけた白魔法が想像以上の効果で機能し、私自身も驚きを隠せなかった。
「逃げんなよ」
狼狽え一瞬の油断を見せたセラム。低姿勢から繰り出された強烈な回し蹴り、近接戦に慣れてしまった彼の反射的なガードは結果として戦いに決定的なダメージを負うこととなった。
彼女の繰り出すその一撃の重さは先程までに見たどの攻撃よりも重く、早い。
致命的な傷を持つとはいえ、頑強で太く鍛え上げられた彼の腕。その腕を盾にするもあっけなく折れ曲がり骨が砕き折れる音が鈍く響き渡る。
その攻撃を皮切りに彼女の猛攻撃は誰も止める事は出来なかった。
「20じゃ足りないな!?あと50か200は食らわないとまだ動くよなお前!?」
「ぐ・・・うぅ・・・」
止まることを知らぬ彼女の攻撃は以前より切れもさる事ながらその攻撃1つ1つの重みは彼に与える打撃の鈍い音で伝わる。もう彼にはその攻撃を止める余力すらも危うく、かわす事に重点を置いた動きはあからさま。
彼女の攻撃をまともに受けている箇所を庇いながら回避する行動は完全に彼女に読まれている。
こうなるともうほぼ一方的な展開、彼にもう勝ち目など無かった、消耗戦は続く一方私はこれ以上戦う必要も無いと判断した時、彼女は既に攻撃を止めていた。
「終わりだ」
「リフレシア・・・」
もう彼は息を整える事に必死なあまり声すらまともに出せず息切れを起こし、裂かれた片手を庇いフラフラと倒れるまで消耗していた。
あれだけの戦闘で寧ろ今の今まであんなに乱れの少ない戦いをこなし、ようやく今になって限界まで来ているだなんて・・・正直、凄いの一言に尽きる。
「どうする?こいつ殺すか?」
「殺さないけど、少しでも休んだらまた調子を戻して襲いかかってくると思うから、気持ち程度の拘束はさせて貰う」
「なんだそれ、バケモンかよ。これだけ痛めつけても戦うのかこのおっさん」
「うん、けどもういい。しばらくは動けないに違いないんだから」
「お前ホントに甘いな、殺そうとしてきたんだぞ?殺されても文句は無いよな?なあオイ?」
彼女は乱暴に倒れているセラムを何度も蹴りを入れるが止めはしなかった。正直命を狙われたのは確かに彼女の行動には一理ある。それに戦い続けたのは彼女がいてくれたお陰でもある。
気が済むまで彼女はセラムを軽く痛めながら持ち物を物色しては食べ物を盗み食い、好き放題し飽きたのちに私に引き渡す様に彼の髪を引っ張り上げ私の元まで近づけてきた。
「ほら、お前も一発殴れ」
「やだよ・・・」
「つまんね。こいつどうすんだ?」
「・・・あんまり意味は無いと思うけど、”
「随分無茶な事させようとしたんだなお前・・・と言いたい所だが俺は強いからな。そんな事せずとも勝てたんだ、感謝しろ」
布やロープといった丁度いい拘束道具も今は無い、まああった所で彼ならその程度今直ぐにでも力で解けてしまう、"
けど彼に於いては彼の行動を一時的に封じられるだけで正直心許ない。気持ち程度ではあるものの無いよりはマシ、と言ったところに違いない。
「さて、これでゆっくりとここから出られるな。だがな俺はこいつに聞きたい事があるんだ」
「サニアさんと"
「いいや、こいつは何をして何に加担したのか、誰を相手に喧嘩をしたのか。よーく理解する為に何度も復唱させる。
「もう良いでしょ、そんな事すれば今度こそ死んじゃう・・・」
せめてもの慈悲、私自身愚かだと思いながら最小に抑え持っていた手荷物から少しだけ魔力を回復させられる薬酒の開けて飲み干し、彼の裂かれた腕を白魔法で回復した。私のその行動にリフレシアは何も言わず、じっと見守りながら彼の腕は完治までには至らない迄も形を残すくらいには回復させる事が出来た。
「止めないの?」
なんとなくそんな風に彼女に尋ねると、すぐさまセラムの顔に何度も強く蹴り入れながら言う。
「これでまあ五分五分か」
「なんで回復したのにわざわざまた蹴りなんか入れるの!」
「このまま放置なら腕使えなくなるだろ?だったらお釣りがくるんだ、その分きっちり痛めつけるだろ普通」
「どこの世界の普通?」
「一々お前に意見されたくない、手下のくせに・・・俺がルールだ」
「分かったからとにかくここから離れるよ」
「いや、こいつから色々」
「私が話すから」
「なあ・・・」
ボロボロの彼が小さな声で、聞こえるか聞こえないかのその声量に私は彼の方を向くと項垂れたまま首を動かしていた。
「え?」
「なんだ?まだ元気があるのかお前?」
「・・・・なんで俺の手を直した?何故殺さない?」
「黙っていれば何を・・・」
再び蹴りを入れようとする彼女の間に割り、私は彼にこう告げた。
「私達は誰かを殺す為にやっているんじゃない、私は亡くなった人の残した物をその人を大切に思っていた人に届ける為、彼女は自分自身の為に誰にも邪魔をされず旅をする為、それにはこの"
「・・・それで俺達がその女をもう殺さないと?」
「多分、もう彼女に手をかけないはず。そこまであの人は考え無しじゃ無い。それにまだ策はある。
その前にあなた達に殺される様なら意味が無いから乱暴な事しちゃったけど許してね」
「・・・俺はまたお前達を直ぐに追うぞ」
「それでもあなたを殺せない」
「仲間だった・・・からなんて言わねぇよな・・・?」
「そうだね、それもあるけどまだ私もあなたもきっと、今度はもっと違う事であの時の夢を叶えられると思うから、そう思って生きていきたいから、あなたにもそうして欲しい」
「・・・分からないだろうなお前には」
「うん、あなたが以前と同じなら分かったかも知れないけど今のあなたがどうしたいかなんて分からない」
「なぁオイ、もうお前のあれこれどうでも良いから早く説明しろよ」
退屈そうに言う彼女、それにセラムは素直にゆっくりと息を整えつつ答えた。
"sEEkEr"の事、"マグ・メル"の事やサニアの生い立ちと国や戦争の事、大凡は私が聞いた事と同じ内容。
彼女は静かに聞いてはいるものの、何処か呆れた様なそんな風に見える態度で終始顔色変えず不貞腐れた顔で聞いていた。
「・・・・。お前は本当にサニアなのか?・・・カペラは"リフレシア"と何度も呼んでいる・・・」
「・・・反抗期で親離れなんだ。元の名前もダサいからこいつにはその名前で呼ぶよう指示した、かっこいいだろ?」
「そうか」
話し終え一段落、というタイミングに急に何を思ったか彼女は手加減の無い拳を深傷のセラムの顔にまた叩きつける。
もう何をどうしてその展開になるのか、何故そうなったのか分からず、私は「ちょっと!!」と声を荒らげ彼女を怒鳴っていた。
「申し訳ございませんでした。だろバカが、死ね」
「今?!」
「何が「そうか。」だ。オイ、カペラ早くここから出るぞ」
「え・・・と・・・、そうだよね・・・まだ道のりもあるし・・・でも最後に彼に聞きたいことがある」
「勝手にしろ、俺は先行くぞ」
本当に先に行くリフレシア、ただ気を遣ってかマイペースに歩いてそのままその場を後にし、私とセラム。
二人きりとなる。
「なんだ?」
「私、皆んなに愛されたかった。色んな人に魔獣を認めて貰って差別を無くしたかった。けどあなたが知る様にそうとはいかなかった」
「急になんだと思えば何の戯言だ、だからどうした?・・・魔獣なんか信用に値する価値もない・・・現に今お前は禁忌を犯した。結局そこら辺のならず者と変わらないんだな」
「思ったより元気そうでよかった。セラム、あなたは?」
「・・・なんの話だ」
「あなたはどうしたかったの?」
「・・・いつか話したよな、俺達がパーティを結成した時、”誓いと契り”で話したあの時と何も変わらない。
俺は力で名誉も地位も手に入れその力で群衆を従え、民から慕われ、手本にされたかった」
そう答える彼の顔はどこか柔らかく強ばった顔が少し解けて見えた。その様子はまるで懐かしむ様な、どこか哀愁を感じた。
「今も?」
「・・・・なんでお前みたいな奴に・・・」
「私ね、あなたがなんで私を殺せたあのタイミングで”
彼は鼻で笑う、「なんでお前なんかに」等とは口にはしていたものの、その口ぶりについ笑ってしまった。どうやら間違っていないと確信を持つ。一つそこで意地悪をする事にした。
「あなた、本当の事を隠す時、否定しないよね?『お前なんかに』とは言うけど、違えば違うと言うでしょ?」
「・・・知った様な口で・・・・」
「ラックに教えて貰った。あの人、私達の事よく見てるから間違いないんだよね」
「・・・あのバカ」
「私はこれからも[スターキャリアー]を続ける。今はまだ何も変わらないけど、私の手で誰かの心が救われるならそうしたい」
「お前はそんな雑魚同然のなんにもならん仕事を続ければ、魔獣が認められると思っているのか?良い様に使える使い捨ての道具程度にしか思われんだろうな・・・所詮その程度なんだよ、魔獣っていう存在は・・」
「そうかも知れないね。同じ事をやっているだけかも知れない。けど今は違う、リフレシアがいる。彼女と共に仕事していたら何か変わるとそう思える」
「バカバカしいな・・・俺達はそうやってラックについて行ったんだ・・・。あいつになんかと最初から旅なんかしなけりゃ・・・」
「寂しい事言うね。けど、私はそうとは思わないよ。私にとってあの旅は大事な思い出だから、それがどんな結果でも私はあなた達に会えた事を後悔なんてしてない。それにまた間違えたのならその時また違う事で頑張れば良い。
だからセラムさんも・・・一緒に行こう、今すぐ”
「・・・、もう・・。俺は無理だ」
差し伸べた手を彼は苦しい笑い声を出しながら首を横に振り答える。
「・・・一緒だ。辞めようが辞めまいが・・・もう良い・・・俺はあの時から・・・。あの野郎の作戦で指揮を務め仲間を皆殺しにし、逃げ帰った時から・・・。もう・・・俺には償うには、夢を求めるにはデカすぎる負債を抱え込んだんだ・・・・。もうその価値すら無いのになぁ?何を夢見たのか、またあの野郎に唆されて無様に小娘一人と雑魚の魔獣にやられちまった・・・。いっそ殺してくれた方が楽だったぜ・・・・。
惨いことするなよ・・・カペラ・・・」
今にも泣きそうな震える彼の声、いつも強気に息巻く姿しか見ていない私は初めてこんな形で彼の一面を見るとは思いもせず、そんな彼の姿を見て胸が苦しくなった。
彼は私に似ている。戦い方も境遇も性格も種族も違う、けれど目指す物は色濃く違えどそれは似た物には違いない。
私もきっと彼の様な判断をしていたかも知れない、そう思うと彼を責められない。
何が正しくて何が間違いなのかはそれぞれ違う。
でも今、彼の行っている事はきっと間違っている。
あの人の考えている事は分からない、だけど決して良い方向には向かない。それは私達が良く知っている。
それなのに彼は・・・。
「救われないね・・・私達」
「結局、俺はまたあいつの良い様に使われただけか・・・今になって腹が立つ・・・どうかしてた・・・」
「・・・、あの時・・・。私達があなたを・・・」
つい口に出てしまった後悔の言葉。私はそれ以上言葉を続けるのを自然と拒み息が詰まる。思い出したくも無い、口にもしたくもない。
それは彼も同じだった様で、彼さえその言葉の続きをまるで分かっているかのように強く目を閉じ眉間に皺を寄せる。何を思ったのか彼は震えた声で自暴自棄に自らを語ろうとし始める。
「・・・・・・。俺の部隊は・・・、」
「言わなくていいよ」
「・・・お前に何が分かるんだ?俺は・・・逃げ出してなんかいなかった・・・」
「知ってる。だからもう良い」
「何が"
「・・・ごめんなさい。・・・私もう行かなくちゃ・・・」
かける言葉も無い。私はその場を逃げる様に後にする他に彼を慰める選択肢が思いつかない。
あの作戦に参加した誰もが思い出したくも無い部隊と作戦。現在もまた”
『結果に伴う犠牲』彼が度々口にするそれを鮮明に思い出してしまった。
弱く疲れた手で”
彼一人取り残したまま、私とリフレシアはこの砂漠を抜け、目的地の近くの街へと身を潜める為、再び無限にも思えるほどの広大な砂地を走る事となった。リフレシアは先程の戦いが無かったかの様に調子は良さそうではあったものの、自分はと言うと魔力も無ければ身体中が未だ痛みペースは落ちる一方。彼女もその事に気付いてかたまに足を止める場面があると何も言わず彼女も止まってくれる。
「早くしろ、お前あのエリミネーターとか言う奴が応援を呼ぶかもしれんだろ」
「うん、ご・・・ごめん・・・」
「なぁお前、あいつと話したんだろ?なんの話だ?」
「え?」
「聞きたい事は聞けたのか?」
「・・・・分からない」
「そうか」
彼女に話せば何か、何か答えが得られるのだろうか?事情もなにも知らぬ彼女に全てを話してどうにかなるなんて思っていない、過去は変えられない。けど今の彼を助けられる、私には思いつかない何か答えがわかるのかも知れない。
私は今まで一人で抱え一人で悩み、答えを出してきた。無理矢理に答えを作りそれがあたかも答えの様に取り繕ってきた。
淡い期待を持ちながら私は彼女に話しかけようと走る彼女の手に触れようとしたその時、彼女は私の進行を妨げる様に大きく片腕を横に伸ばし静止した。
状況の飲み込めない私は、遠く先を見る彼女の視線を追い、遠くを見つめるとそこには近付いてくる二つの人型の揺らめく陽炎だけが見える。
「リフレシア?どうしたの?」
「やられたな」
「どう言う事?」
問い掛けながらも再び目の前を確認すると目に映るのは手を挙げ無防備になっているローライの姿とそんな彼の頭に銃を突きつけるエリミネーターの姿。私が彼を追わず見逃したことにより人質を取られてしまっていた。
「ローライ君・・・!!」
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