28 フィアー・スター
34
「あの子供はなんだ?現地の人間には見えなかったが」
ローライの事を言っているのかリフレシアの事を言っているのか最初は分からなかったが恐らく殺害対象である、彼女”サニア”を知らない訳が無い。全開でない以上相手の力量もわから無い中戦う事は避けたい、下手に嘘をつくより素直に答えた方がいい。
「ローライ君は私の依頼に同行して貰った一時的に契約したパーティだよ」
「ふーん・・・成程な。で?どこにいる」
「今はいない。ここに人が全く居ない事が気になって、避難しているのかここを出て近くの街に確認して貰ってる」
「そういうことか、それでお前は何故ここに残っている?」
「質問が多い。私からも聞きたいことはある」
一切手を、油断を緩める事は無くいつでも攻撃出来るよう体制を崩さない一方、男は既に戦う体制には立たずヘラヘラとしながら銃をクルクルと回し余裕を見せる。そんな私の表情を見てか男は突き出す杖の先を指でなぞり言う。
「とりあえずその杖を下ろしてくれよ、俺は下ろした。お前だけそんな怖い顔されてちゃ建設的な話は出来ない、そうだろ?」
黙ったまま胸に下げているペンダントを見せると男は「わかったわかった」と肩の腕章を見せてくる、
見たことのないギルドのマーク。他国の物か偽物か疑い深い私にそれを見越した様に付け加えるように男は言った。
「見たことないだろ?まがいなりにも英雄様だ。教えてやるよ、秘密部隊”
「名前は?」
「あ?言ったろ?”
「違うあなたの名前」
「面白いな、名前の方に興味あんのか?やっぱお前変なやつだよ。”エリミネーター”、コードネームだ。本名は契約上開かせねぇ。まああんまり人の前に立つ仕事じゃねえから良いんだがな」
「色々と聞きたい事があるんだけど」
「その前に」と言いながら男は私の持つ杖を蹴り上げ遠くへと弾き飛ばされる。一瞬油断した、ブレた体をその隙を見逃さないこの男、かなりの手練れ。無名な訳もないその男は蹴り飛ばしたのちに私の頭に銃口を向けると、「交代」と言い余裕の表情。
やり返しと言わんばかりに咄嗟に向けられた銃口を蹴り上げ男の持つ銃は遠く廃墟の屋上へと蹴り飛ばす事が出来た。互いに武器は無い、はず。
「やるな・・・」
「わざとでしょ」
男に隙など微塵も感じなかった。そんな中あの一瞬をついたこの男が見せる訳がない、わざと武器をはじかせた。
案の定男は揶揄っている様に笑い手を叩く。
「お見事。まあでも流石にビビった。おまえ容赦ないな、・・・だがこれでちゃんと話は出来そうだ」
この余裕、まだ武器を隠し持ってる。けどどうやらノーガードで何か話がしたかったのは確かだと思う。
ここは相手を逆撫でする様な行動はしない事が鉄則。
「こんなことまでして何が聞きたいの?」
「お前達の目的はこの土地にある誰かさんの死体の遺品を取りにきたんだろ?目星はついてんのか?」
「分からない、けれど人に聞くにもあなた以外に誰も会ってないから分からない」
「ご苦労なこったな、態々英雄様が[スターキャリアー]なんか誰もやりたがら無い下っ端仕事やってんだからもっと楽に見つかって欲しいもんだね」
静かに男を睨みつけるが男は臆さず続けて言う。
「お前もこんな趣味の悪い仕事続けられるなんてイカれてるぜ。俺なら無理だね」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
「悪く受け取るなよ、俺は高く評価してんだぜ?[スターキャリアー]なんざ普通の奴なら一年と持たねえ仕事長く続けられてるんだ。物好きか相当狂ってねえと出来ねえ・・・さすが”死神”と呼ばれるだけあるよ。俺もお前に出会うまで、まさかあの英雄のパーティにいた白魔道士の魔獣だとは思わなかったよ」
嘲る様な言い振りは挑発のつもりだろうか、自身の呼ばれは自分が一番知っている。相手のペースには乗ら無い。
聞き流しながら私は再び質問を返す。
「秘密部隊なんて呼ばれる様な組織があるのは噂程度には聞いていたけど、そんな隠密を生業としてる部隊がわざわざこんな所に何の様?」
「その話ならお前が言った通りだよ、ここの人間いなくなってるだろ?それの調査だ」
「調査機関を差し置いた上にわざわざ秘密部隊が?それにこの町はどこの国の管轄にも無い。他国の人間が干渉するなんてかなり珍しいよね?」
「お前何か知ってるよな?」
口調が変わった、さっきとは全くと言っていいほどに強い語気。高圧的なその態度から読み取れた今回の事態。
全貌は兎も角としてどうする?どうすればいい・・・。他の機関の人間を巻き込み脅す様な連中、何か悟られでもしたらそれこそ殺されてしまう。上手く誤魔化すにはまずは考える時間を減らし返答する事、空を少し見上げ深呼吸した。
風の音に砂煙、バサバサと音を立てる民家に吊るされたままの洗濯ものだっただろうボロボロの大きな布切れ。
影が私達を包み視界はさらに曇る。一触即発の会話、そして決意する。
「何か知ってるっていうのはあなたの仕事のこと?私があなたの仕事なんて知るはずもない」
「まあそう言うよな」
「それとも何か知られて困る様な事がこの土地で起きていて、あなたがその原因という事?」
「勘繰るねぇ〜、俺はただこの土地の調査に来ただけだってのに・・・」
「この土地で人が見当たら無い中に一件民家から遺体を見つけた」
男の表情は一変した。先ほどまでのヘラヘラとした態度からは考えられ無いほどにその顔はシンとした無表情のものだった。食料の消費や私達がこの町へ訪れ人がいない事は確認済み、遺体が見られ無い訳がない、そして態々その遺体を隠さなかった理由。
「その遺体だけが日誌から二週間も経ってるのにどこにも隠されず置かれたままの理由って、誰かに自分がまだこの土地にいる事を示す為の印に利用してる。けれど現地の人間に見つかれば騒ぎになる。だからこの町の人間を消した」
男は黙ったまま聞き、先程と同じ様に余裕のある表情を再び見せ笑って見せる。
「おいおいおい、消したってこの町の人間を?どうやって?この町には何百人いて全員一人残らずか?無理に決まってんだろ?そんなの殺した所ですぐにバレる。それにそんな事をして何になるんだよ、変だよな?」
「誰も殺したなんて言って無いよ。私は避難したかもしれ無いって言ったよね?確かに住民全員を避難なんて到底時間も労力もかかる行為出来無い」
「・・・だから殺した方が早かったと?憶測でここまで語るのも馬鹿馬鹿しいな。俺一人で何でそこまでやらなきゃなんねーんだよ」
「誰も”あなたが”なんて一言も言って無い、あの死体はそういう意味があるって事。それにそんなこと考え、殺してまでする何かがあればいとも容易くやってのけれてしまう・・・、あの人しかいない・・・。あなたの部隊のリーダーは大凡分かった」
男は話を割る様にため息をつき服の内側に手をやる。
「なんだよ・・・その口ぶりじゃ随分知った口だな・・・。けどまあお前みたいな奴”英雄様”だろうが死んでも誰も悲しまねぇ・・・。『魔獣が一匹死にました』で終わりだが、俺からは”砂上の夢”に巻き込まれて死んだってことで国に知らせといてやるよ」
やはり仕込んでいた。いや持っていた、男が取り出したそれは魔力で出来た一枚の大布にそれを支える一本の禍々しい模様をした杖。まるでそれが”旗”の様に見える、まさにリフレシアの語っていた”奇妙な旗”。
間近にし分かる、”マグ・メル”。
「”マグ・メル”・・・」
「流石あいつと共に行動しただけあってよく分かるな。最後に教えてやるよ、こいつの名前は”フィアー・スター”、大賢者数人の右足と脳で作ったって云われる趣味の悪い魔道具」
「ほんとにね・・・」
振り下ろされた旗はまるで何かの号令の様に、私の方に向けられた。
「砂共!!あの魔獣を襲え!!」
家々から地面から、あらゆる場所から砂が集まり次々に小さな槍、魚、剣。あらゆる形に模した砂の塊は私を目掛け襲いかかってくる。身動きは取れる、けれど限界はある。日中の探索にこの町へ来るために急いできたこと、すでにもう体力は尽きかけている中、身のこなしは完璧ではないけどギリギリ交わしながら民家や壁を利用し逃げ惑う。
長期戦は絶対に不利、自身の怪我だけでも回復を魔法で補い急ぎながら逃げ回る。しかし男の動きも早く直様追いつかれる、それの繰り返しだった。
いつしか避けることもまともに出来ず”砂上の夢”は容赦なく私を襲いその攻撃はまともに当たらずとも。
掠めるだけでも伝わるその重みと速度はじわじわとダメージを蓄積させる。回復しては怪我を負う、イタチごっこの末には魔力も尽きかけていく。思っていた以上に自身に追っているダメージは深かったと痛感した。
「いくら逃げようと無駄だぜ、お前の敵はこの土地そのものなんだからな。見失おうとお前がこの土地へいる限り死ぬまで”砂上の夢”はお前を襲う」
逃げ回り、鉛の様に重い足、ズキズキと痛む体に早まる鼓動。まともな呼吸が取れ無い、耳も遠く目も霞み出す。
けれど意識だけはハッキリとしていた。蹴り飛ばされ遠くへといった杖の方へと歩みはしっかりとしている。
「あった」
視界に現れた遠くへ刺さっている杖は目の前までにたどり着く事が出来た。しかし杖のある場所には既に男は銃を構え立っている。予想通りといえば予想通り、最悪の展開には違いない。
「さてどうしますかね?」
余裕の表情に息一つ乱れぬ立ち回りに素早さ、男は意地悪い笑顔で旗を振い、杖”トランジエント”は砂に飲まれバキバキと音を立て、粉々に砕かれてゆく。男は笑いながら手に持った”フィアー・スター”をゆっくりと私に向けてくる。月明かりを隠す影はゆっくりと下がり辺りは明るく照らされてゆき、”フィアー・スター”の放つ魔力と杖に浮かぶ模様は月の光により一際不気味に怪しく輝く。
「最後に何か言い残す事はないか?・・・なんて一度言ってみたかったんだよな」
「・・・しっかりそれ、持っといた方がいいよ」
「ああ、お前を殺して。ゆっくり仲間が来るまでな」
「やっぱり、仲間が来るんだ・・・成程」
「今更知った所で死人に何も出来無いがな」
天から音もなく、それは現れた。まるで雷が落ちた様に鋭く真っ直ぐ落ちる光、閃光の如く落ちる天からの一閃は男の片手を切り落とした。
「死ね!!魔獣!!」
男の声と勢いとは裏腹に、ドサリと落ちる左腕にその手に持っていた”フィアー・スター”。”砂上の夢”はサラサラと崩れ、男は旗が落ちるその時まで自身の腕が落ちたことすら気がついていない。
そして男の隣には、人間の姿をしながらもその両腕はまるで龍そのもの、鋭く輝きを放つ龍の爪は血すら弾き、土煙をたて膝を折り座る彼女。
リフレシアだ。
「死ね、人間」
「はあ?」
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