27 リヴェルサス



33



「リフレシア、あった?」

「様をつけろ・・・・もういい。無いな」


”マグ・メル”の捜索を始めてから数時間。以前の戦いでの傷や気候による体力の消耗でそろそろバテてきた。

彼女も同様にしばらくはまともな食事を取っていない事もあり少し疲れて見える。

ローライ君は無事近くの街へ辿り着いただろうか。私はこの先どうなるのだろうか、彼女をどうするのか。

そればかりが繰り返し頭の中でモヤのように漂い悩みは続く。


いくつか疑問は残る中、”マグ・メル”の創作は日が暮れるまで続いた。日が落ち始める時、リフレシアは言った。


「やはり見つからないか・・・、仕方ない今日はもうやめだ。飽きた」

「ねえリフレシア、あなたは”サニア”さんみたいに何か感じ取れたりしないの?」

「無理だな、俺にはそういう類は出来ん。封印の一件でもしかすればなど考えたが無理なものは無理だった。第一それが出来れば苦労するか」

「それもそうか・・・」


落胆しその場に座り込むと彼女は近寄ってくるや否や私の前に立ち不意に言う。


「お前あんまり喋らないんだな」

「え?」


その言葉に一瞬どう言う意図があるのか考えてしまったが、なんて言う事はない。彼女は私とサニアさんを重ねてそう言ったのだとすぐに気が付いた。


「そうだね、私はあんまりお喋りじゃないかも」

「煩くなくて助かるよ」

「・・・一つ聞きたいこたがあるんだけど、質問して良い」

「なんだ?話せる事なら話しただろう」

「”リオラ”さん以外にサニアさんの部屋に入ったって言うのがあなたの解釈だよね?それが本当だとしてなんでもう一人の第三者がサニアさんの部屋へと入ったと思う?」


ずっと気になっていた、話を聞いた時から。気掛かりなのは彼女もそうだと思う、だからこそ彼女の意見も聞いておきたい。


「そうだな、サニアがあの部屋にいると思って入ったがいなかったから退散した。その後に再び入って父親を殺したって所だろう」

「じゃあ、サニアさんの殺害が優先順位が高かったと言う事になるね」

「俺がくる以前に父親の方を始末しなかった理由が気になるがまあ、取っ捕まえて話を聞いた方が話が早そうだな」

「その事なんだけど、リオラさんの協力者が”マグ・メル”を持っているって考えられない」


少し悩んだ末に彼女は答えた。きっと彼女も既に考えてはいたであろう疑問、しかしその様子から理由までは分からないといったようなそんな雰囲気だった。


「だとしてそいつを探すにしても、もうここからを離れているだろう」

「離れられないよ」

「どういうことだ?」

「”マグ・メル”は国同士が禁止している魔道具。つまり人の目には触れられない、そして封印する手立てもなければその能力を作動した状態で出歩くのは甚大な被害を齎す、物が分からないまでも大衆の前に出す事はそれだけは避けたいはず、だからここから動けない」

「だとしてあれが動いてから二週間と経つんだろ?今の今まで隠れて逃げている理由はないだろ」

「仲間を待ってるとか・・・回収してくれる誰かがいる?もしくは自身も”マグ・メル”の餌食になっているとか・・・」

「考えていてもらちがあかん・・・何はともあれだ、この土地にまだ”マグ・メル”があるという話は少し納得がいく。その線で探すのも良いが結局は人を探すのも物を探すのも変わりない。手詰まりには変わらんな」


彼女の言う事は最もだ。ここで考察を広げた所で解決しない、しかし未だこの場に留まるとして一体どこにいるのか。

相手も生き物なのであれば食料や水などといった物を手に入れ生き延びなければならないはず。町には人気は無かった、するとこの広大な砂漠の中に息を潜めているに違いない。


「あ・・・」

「なんだ?」

「もしかしてだけど、リフレシア。私もう一度町へ戻るから待っていてくれない?」


駆け足で去ろうとする私の肩を掴み彼女は静止する。驚く様子で彼女の方を見ると彼女の方こそ驚いていた。


「まてまて、何すんなり逃げようとしてんだお前!!」

「え・・あ。もしかしたら私見つけられるかも!だけどあなたがいると逃げられるかもしれない」

「逃げようとしているのはお前だろ!ていうかおまえあのリオラってやつの荷物はいいのか?!お前が逃げたら燃やすぞ!」

「待って待って!落ち着いて!ちょっと静かにして耳貸して」


周囲を慎重に確認しながら彼女の耳元で囁き話すとゾワゾワと体を震わせる彼女は私を突き飛ばし私は勢いよく尻餅をついた。痛いというより驚きの方が大きく、キョトンとしているとリフレシアは私の首根っこ持ち上げ私は体を起こされるどころか自分の身長以上の高さ上げられた。


「バカお前!急になんだ!」

「急に押さないでよ!!」

「というかお前それ、さっきの話確実にそういえるか?」

「確証は無いけど・・・試す価値はあると思う、成功するか分からないけど」

「お前、それで俺の事を話すか逃げるかしたらどうなるかわかっているだろうな?」

「分かってる。だけど今闇雲に探すよりよっぽど価値はあると思う。あなたがその姿で私と共に行動していると私は怪しまれる。大丈夫逃げも隠れもしない」


必死の抵抗と説得は彼女に通じ、リフレシアは手を離し呆れたように「勝手にしろと」一言背を向けどこかへと去る。私はすぐさま立ち上り再び町のある方角へと歩みを進める事にした。

既に日は暮れ始めていたが寧ろ好都合でむしろこの時間帯、朝でも昼でも無いこの時間帯のタイミングは気温も上昇せず何より見つかりにくい。

早く町へと戻らなければならなかったが、怪我人には違いなく走ることがままならない中必死に歩みを進める。辛うじて日中の気温とは違いまだ動き易い事が功を奏し、足を休めず歩み続けていると辺りは暗くなり、程なくして町へと着く事が叶う。息も整える暇もなく、以前ローライが建てたテントのある民家へと急いだ。


家とも言えぬほど崩れた廃墟は以前より崩れてはいたもののテントは無事だった。続いて売店のあった場所へと訪れると少しばかり食料は以前より私達が来る前より減っていた。

やはり来ていた。なんせまともに食料が整えられる場所はここかこの土地を離れた場所にある遠くの街しか無い。

何故私がリフレシアの分の荷物を調達する際に気が付かなかったのか、不覚だった。

以前ローライと共に訪れた際には気が付かなかった事、それは民家であった廃墟を1件1件見て回ると不自然の程にどこの家にも綺麗な円や四角といった形で砂埃がかかっていない箇所がある。まるでそこに元は何かが置かれていたように。

恐らく食料の類、ここまでして人にバレないように慎重に痕跡を残さないように立ち回っているのに、露骨にバレ易い後始末の悪さ、わざとにしてはあまりにも矛盾した行動。そしてそのような行動をする理由は”警戒”。

つまり私達の存在に気がついている。どこまでだろう?一番マズイのは今現在”サニア”さんの姿の”リフレシア”と共に行動していた事が見られている事。そして”リフレシア”の姿。


これは賭け、私はこの町のテントでしばらくその人が現れるのを待つ。襲われ殺されるかもしれない、しかし相手は国の機関の人間であるならば話せばなんとかなる・・・可能性は非常に低い。


国の管轄である組織や機関の人間が”マグ・メル”の破棄のためにしている行動とは到底思えない。

希少である”マグ・メル”を”破棄”する為に動くのなら考えられはするけれど、封印出来る唯一と言っても過言では無い希少な能力を持つ少女を消す事等まずあり得ない。そしてその少女の父が残したもう一つの記録。

なんにせよそんな危険な国一つ滅ぼす事が出来る魔道具をどこの誰かも分からない組織の人間が保有する危険性は脅威になる。

そんな相手がまともに取り合ってくれる可能性など望むだけ無駄かもしれない。しかし私には同じくして国の管轄にある[スターキャリア]の印であるペンダントがある。

どこまで通用するかは分からない、危険な賭け。


私は一通町を見回り終えるとテントのある廃墟の方へと帰っていく、その道中のことだった。

一瞬人の気配を感じ、素早く近くの廃墟の壁に隠れるがほとんど意味はない、一種の条件反射。


「誰?」


声は大きく発さずとも静かなその町には十分と言える程に声は通る。

しばらく動きはない、気配を消し返事はない、相手も慣れているそんな緊張状態。私は隠れたまま言った。


「国営機関カラット本部所属の[スターキャリアー]、カペラ。あなたは逃げ遅れた住民の方ですか?」


ザリ、ザリと足が砂を踏み擦る音。近付いてきている、音はジリジリと近くなる。

答えず近づいてくる、少しずつ少しずつ。


ピタリと音は止み、運悪く月の光は壁越しから私の影は伸びその姿はにじり寄る相手に露わとなってしまった。


「魔獣?」


幸か不幸かその影の形を見た相手の漏れ出たその声を聞き逃さなかった。位置はかなり近い、武器を構え瞬時に飛び出し杖を構え声の方へ伸ばすと目の前には黒く分厚い装備、そして短髪の髭面のガタイが良い男が一人、見るからに現地の人間ではないその風貌に30cm程の長い銃をこちらに向け立っていた。その姿に服装は明らかに現地の物ではない支給されたであろう装備。間違いないこの男こそ協力者。


相対する戦闘体制、一瞬でも気が抜けない緊張状態の中果敢にも男は銃を下ろし言った。


「スターキャリアー・・・、カペラ・・・。成程、まさかあの”死神”が魔獣で英雄様の手下か」

「・・・こんばんわ」

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