26 マグ・メル
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「最初お前らが目の前に現れた時、”リオラ”だったかの仲間だと思っていた。まあ図らずも合っていたといえばあっていた事になるのか?」
彼女はその場に座り込み一息つき、話を聞き終えた私も力が抜けた様に座り込んでしまった。
それは自身にも関わりのある話と言う事もあり緊張状態で臨んで聞いてしまっていたからというのもあるのだろう。
どこからどこまで信じ、それを聞いた上でどうすれば良いのか頭の中でしばらく考えた。
彼女の話の中でいくつか気になる事があった。しかしそれを知った所で状況は変わらない、自身の今後の行動やどうするかも。
ふと彼女の顔を見ると退屈そうにしていた。まるで何事も無かったかの様な、今話した事で自分の役目を終え一息ついている。そんな風にも見えた。
「あなたはこれを私に話した上でどうするの?」
そう訊ねると不思議そうに首を傾げ言う。
「話した上で?知らん。最初にも言ったがお前の質問がウザイから全部話せばこの件で質問をしないんだろ?」
「その”旗”はまだ封印出来てないんだよね?」
「そうだな。まああれだけ探して見つからんし、砂の現象もまあまあ落ち着いたんだ、本体を探すのも諦めてこれ位で止めて俺はこの先世界を見て巡ろうか。それはそもそもの俺の目的でありサニアの願いだ。後はお前が適当こいて報告して私の存在を有耶無耶にしてくれればそれで済む」
「それが"俺の存在を消してくれ"、って事?この一件を適当な報告して見て見ぬふりして欲しいってこと?」
「そうだ、まあ遠回しな言い方だが”俺の事を話すな”といったところでもある。正確にいえばお前の手で”サニア”の死亡を通達してくれればいい、ただそれだけだ。俺の存在はどちらにせよ脅威には違いないからそうなるとゆっくりと世界を旅出来んだろ?」
「私は国の管轄にあたる場所で働いているんだよ?」
「だからこそだろ?黙らせる手段なら幾らでもある中で、わざわざ”黙って見過ごせ”だけで良いんだぞ?俺にとっては骨が折れる様な効率の悪い事はしたく無いんだ。一番簡単で一番被害の少ないこの上ない提案に俺は思うがな?」
冷たく、遇らう様にそう言った。少し腑に落ちない、そんな気持ちが強かった。
何にせよリオラが亡くなった事、町の異変と町の人の行方について、あくまで荷物の回収とはいえ何も知らなかったは通らない、きっとどこかで詰められる。嘘を通すには風通しが悪い。そして何より一番気になる事がある。
「ねぇ、リフレシア」
「様を付けろ愚か者」
「結局その怪しい旗の道具って、あなたが言っていた"忘れ物"だよね?」
「あぁそうだ、さっきお前の探していたその男の荷物の中に入っていただろ?一応はそいつの魔力を大方封印したって所だな」
2つの箱。話に出てきた偽物と本物の箱、偽物として売り払った彼女が入っていた箱。そして本物はその道具の魔力がサニア、いやリフレシアにより封印された箱。
「なんでわざわざ置いてきたこれを取りに戻ろうと思ったの?」
彼女は露骨に嫌な顔をした、それは何故か分からなかったがしばらくして気付いた、なんて事も無い。それは質問をしたからだと思う。
「お前本当に鈍いな、お前みたいな甘い考えだからつけ込んだんだよ」
「どういう・・・・・。えっと、この危険な状況に忘れ物一緒に取りに行くって言うのを見計らって言ったの?」
「そうだ、もっともらしい理由なんかいくつでも考えつくが、考えた中でもっともバカバカしい理由でお前をここまで連れ込んだんだよ、バカ」
初対面でここまでバカバカと言われたのはいつぶりだろう。
「私を仲間に引き込む為だよね?」
「次質問したら口を縫うか、重ねて契約魔法で黙らせるからな。・・・・はぁ、そうだ。あと正確には手下だ」
「じゃあ別にここにそんな物が実際にない所に連れても良かったでしょ、でっちあげれば良かったのに」
「まあな、俺もわざわざこいつを見せつけようなんて思わなかったが、手下にする以上そいつの持つ情報はフルに活用したいからな。未だにこいつが何なのかは少し気にはなっていたのも事実だ。お前に見せて何か分かればラッキー位だ」
「成程・・・、でも見せた所でどこかで口外するかも知れないよ?」
「その為に契約したんだろ」
強かというか、計算高いというか。どこが傍若無人な作法もろくに知らず力の限りを見せ支配するといった。勝手な龍のイメージとは違う彼女は少し龍と言うには未だに疑う程に人の様な立ち振る舞いが垣間見える。緻密に考え行動をしていたのだと思うとどこか意外に感じた。話し方や姿からは想像があまり出来ない。
「それでその箱の中は砂が入ってるの?」
「いや、砂についていた魔力だ。その旗の力が入っている、一から説明すると面倒だが簡潔に言うと俺はそれしか封印出来なかった」
「え?それってどういう・・・」
聞き返そうとすると今にも殺す勢いで睨まれた、まともに会話も出来なければこちらとしては極力情報が欲しい所。
押し黙って聞かぬままなのもどうかと言うところで話題を変えながら聞き出す事が先決と判断。
「開けられるの?話を聞いた感じだとあなたじゃ無理じゃないの?」
「そうだな、といっても開けた所で魔力が解放されるだけだ、何かを感じられても何か見えるわけじゃ無い。正確性に欠けるがそれでも開けろと言うなら開けてもいいぞ」
「お願い」
彼女は私の持つ箱を1つ手に取り何重にも重なった魔法陣を浮かべながら箱が開く。
箱はゆっくりと開き、箱から溢れ出る魔力は怖いほどに清らかで何者でも無い人とも魔獣とも違うその魔力の独特の感触と力強さを体現した。
”砂上の夢”の微量の魔力では感じられなかった凝縮したその魔力、その力と独特の色味という他無い感触を目の前にし確信を持つ。
彼女の言うその”旗”の正体。間違いなく"マグ・メル"。
パタリと再び閉じられた箱のはもういいだろうと言わんばかりに彼女の手によって封され、彼女は言う。
「で?お前何か知ってるよな?」
彼女は私の反応を見て何かを察したのか不意のその言葉に少し戸惑ってしまう。
何故なら明らかな初見の反応でない事、そしてその力に億さず目の前に現れて尚驚く事をしなかった事。
普通ならこんな物目の前に突然現れれば体は自然と強ばる。それ程までに力強く、測れないほどに膨大な魔力。
これが何かを彼女に伝えるべきでは無いと思う。
しかし上手く表情を隠せなかったのが失敗だった。
「何か知ってる反応だったな魔獣、良ければ俺にも教えろ、なあ?」
グイグイと近寄る彼女に少し引いてしまう、けれど彼女に勘づかれた今話さざる得ない。
最低限でも良い、嘘でも良い。けれどここにこれが存在している事についての考察を立てる上で彼女の情報を引き出すのも必須。
「"マグ・メル"」
「なんだそれは」
「凄く簡単に言うと、この世界が、国が使用禁止にした魔導具」
「"魔導具"・・・ね」
"魔導具"、使用者による魔法を動力とし発現、又は発動する特殊な道具。
一般的には剣や杖等といった武器にも用いれられる技術を応用し作られた物。そしてその逆に人の技術や自然燃料で発現、発動する道具を"機動具"と呼ぶ。
そしてそれらどれにも属さずその道具自身の力による魔力自身で動き。動かす事が出来るのが"魔導具"、それが"マグ・メル"。
「魔導具だよ。・・・、"魔導具"なのは違いないんだけど・・・えっと魔道具っていうのは、」
「魔導具は魔力で動かして、機動具は水とか火とか燃料で動く物の事だろう?それくらい龍でも分かる」
「龍といっても魔獣の王がよく人間界の物の事を知ってるね」
「まあな略奪した物や本をよく見ていたからな、それに母が・・・。まあどうでもいい、だがあれを起動させた時俺は一切魔力を使っていないぞ?それでは起動も発動も出来ないだろう?その”マグ・メル”というのはどういう理屈で動いているんだ」
「”マグ・メル”・・・」
話してもいいのか?彼女の話が嘘である可能性も考えた。けれどもし本物であるならば、私達ではどうしようもない事は私が一番知っている。そして彼女の封印の力も本物である事も、協力を得られるので話さない理由はない程に
彼女程の力を持った人物がいればこんなに心強い味方もいない。”厄災の龍、ピリオド”の娘で無ければ。
少し迷った結果、言葉を濁し損ねた私の耳を引っ張る彼女は「早く言え」と答えを仰ぎ私は仕方無く答える。
「”マグ・メル”は魔力を使用しなくても発動する。それ相応の条件はいるけど、だけど動力は魔力だよ」
「こいつ自身が生き物みたいに自立してるっていうのか?何の動力も無しに?冗談キツイな」
「私もそう思う」
彼女は腑に落ちない面持ちで私を睨むと箱を横取りする様に取り上げまじまじと箱の中を見いる。
「まさか自立して動くだけでわざわざ国同士で禁止を約束させる程の物、という訳では無いよな?あまり回りくどい事は好きでは無いんでな。率直に答えて貰うがこれについての力は知っている。これ以上回りくどい事を言う様なら・・・お前を殺す」
威とも取れるその言葉の迫力は本物、ここまで話してこれ以上隠す道理もない。
「大丈夫、もうそんな事しないよ」
「ならまず何故禁止されているのかを答えろ、理屈は良い」
「これは生物を全滅させる事を目的として作られた兵器であり、製造、使用においても非人道的。その事から各国で固く使用禁止、所持に対する厳罰を下される。というのが紙面上での国同士が交わした大凡の内容」
「兵器ねえ・・・」
「"マグ・メル"を所持した場合その圧倒的な力で一国が簡単に滅ぼせる。それは誰が持っていても、それ程強大だからこそ誰が持っていても脅威になる。だから禁止にしたの」
「国同士、って言ったよな?」
「うん、今だに戦争する国はいくつもある。そんな国達はこぞって探しているのが"マグ・メル"。そしてその約束が実際に行われているのは一部の大きな財源を持つ加盟国だけ、実際にそんな約束も守られているかも怪しいんだけどね」
「その"マグ・メル"というのは何故今に至るまで破壊されないんだ?そんな約束させたり勝手に持ち出される様なものさっさと消せば良いだろう。そしてなんでこんな所にあるんだ?」
そう、そこが分からない。色々な国を散々探し回っていた私達ですら三つと見つけられなかった物。
「分からない・・・、実は"マグ・メル"の模造品みたいなのもあってあなたの話に出てきた物も模造品の一つだと思ったんだけど、実際に魔力を感じて分かったの。・・・本物で間違い無いと思う・・・」
「実物を見た訳でも無いのに何故分かる」
「独特の感触・・・って言えばいいのかな。特徴的な魔力を持ってるの、破棄されない理由に関しては、破壊出来ない事が大きい理由の1つで本来であれば壊したいけどそれが出来ないから禁止にしてるの」
「・・・破壊出来ないというのは?」
「簡単に言えば、壊す為の専用の武器や道具が必要なんだけど、それが今この世界に現存してない可能性が高い」
「新たに作れば良いじゃないか」
「作れる職人がいない、それを作る為の素材がもう無い可能性が高い。あとは作り方が分からない事が大きい。だからこそこんな所に大袈裟に封印していたのかもね」
「とんだ宝物引いたみたいだな・・・で?」
「で?」
彼女は見透かした様に私を睨むが特に隠していることはない。思いのままに話したつもりが何故か問い詰められる様な言い様で戸惑うと更に追い詰めたと言わんばかりに顔を近づける。
「お前”これは本物で間違い無いと思う”って言ったのはなんだ?まるで本物を見た様な言い方をするじゃないか?使い方を知っているのか?」
「そういう事か・・・」
あまりこれ以上彼女に"マグ・メル"の事を伝えたくは無い。それは再びこの武器を手に入れた彼女が世界を統べる”支配の龍”となる可能性が高いのだから。
しかし下手に嘘を入れると今度こそやられる。うまく言葉を選びながら話したつもりがここまで深掘りされるとも思っていなかった。無実の人をこの様にまた一人一人捕まえ情報を洗いざらい吐かせるかも知れない。
「隠していたつもりはないんだけど・・・"マグ・メル"はこの物の名前じゃなくて、総称なんだ」
「つまりあれみたいな物がまだいくつも現存するのか」
「うん、私もいくつか見るまでは都市伝説や、お伽話のものだとばかり思っていた。私が実際に見た"マグ・メル"はこれで三つ目。共通するのは”破壊が困難”、”魔力を使い動くが、魔力は武器自身が持つ半永久的な力で動く”そしてどれも”絶対的な力と魔力を有している”事」
「じゃあお前は最低限ながらもこいつの壊し方も、こいつみたいなのが動いている所も一度は見たことがあるんだな」
「うん、あるよ。ただあまり思い出したくは無いかな・・・」
「まあ今の状況に関係が無いのなら話す必要も無いな」
意外な返答に少し呆気に取られた。無理にでも話させる様な流れでの会話の中で見せた心ばかりの労りが少し嬉しく思えた。
彼女の真意が分からない事これ程怖い事も無いが、どこか彼女がそんなに悪い風には感じ無かった。
「良いの?」
「何がだ?」
「話さなくて」
「話したいのか?」
「確かに思い出したくは無いけど・・・」
「なら別に話さなくてもいい、それにお前あれの正体の事は知らないんだろ?」
「え?」
「お前がどこからどこまで隠しているのかは知らんが、"マグ・メル"というのについての話には断言している部分があったが”旗”自体については答えてないよな?」
どこまでも勘繰るその姿勢はあたかも信用していない様な素振り、仕方がないと言えば仕方がない。事実こちらとしてもかつての魔を総ていた龍の娘となると警戒は解けない。
でもそれ以上に"マグ・メル"を封じる手を持つ彼女の力は世界的にも希少であるには違いない、元々"マグ・メル"の創作兼破壊する部隊にいた身としてはこれ程無い人材。
気になるのはそんな彼女と同じ力を持つ”サニア”という少女の殺害が何者かによって企まれ、[スターキャリアー]の人間が巻き込まれた事。通常依頼に置いて”人を殺す”という内容の依頼はあり得ないと言っていい程無い。
そんな事が可能な場所や機関・・・とても嫌な予感がする。
「そうだね、言った通り私にも分からないものは多くて中には出鱈目みたいな情報もあったりするから、勿論扱い方も違えば破棄方法も製造方法も違う、だから私も良く分からないの」
「肝心なあの”旗”については分からずか、成程」
「でも、少なくとも破棄は出来ないけど”封印”は出来る。能力も十分理解がある、もし封印が出来れば世界的にも栄誉ある称号と多額のお金が貰える」
「金はともかく、龍の俺が人程度の生物から栄誉ある称号ね、侮辱の他ならないな」
笑いながら彼女はそう言った、しかしこのまま彼女を協力させる何かがないときっと彼女はここを離れこの土地のどこかにある"マグ・メル"を放置し再び何か災害を及ぼす可能性すらある。
”リオラ”という人の遺品を見つけた今、私の仕事はこれを届ければ完遂する。しかしこの件をカラットへと帰り報告し対策部署にあたる機関に任せる事で解決するのか?この違和感に嫌な予感、傷を追って尚引き続きこの件に関与するデメリット、私はどうすればいいのだろうと深く悩む。
「おい、魔獣」
その一言に私は深く考えている最中数分と黙ったまま彼女の言葉に耳を傾けていなかった事に気がつきすぐに返事を返した。
「お前が何をどう考えているかは知らんが、お前はあくまで俺の手下である状況という事は理解しているだろうな?」
「え・・・あぁそうだったね・・・」
「お前がどう悩みどうしようかなどお前にとって関係ない、今から俺と共に行動する。それだけだ」
そう、微弱な拘束力だけれど一応契約魔法が彼女の手によって私の腕に組み込まれている。それもどうしたものか。
「お願いがある」
「言うならタダだ」
「せめて、せめて私の今請け負っているこの依頼を完遂させて欲しい」
怪我を負いまともに戦えない状況、そしてこの契約魔法も解除が困難。もう私には交渉のほか余地のある選択肢はなかった。こんなに弱いばかりに私は何度この龍に願いを唱えただろう。かつての英雄と呼ばれたパーティの一人が情けない、聞いて呆れる。
「まあいいだろう、どうせ俺も世界を回るつもりだし。寄り道に付き合ってやる」
「ありがとう、助かる・・・。それとリフレシア・・・さん?その”旗”の本体はどうする?」
「んん?お前金はいくら持ってる?」
「えっとなんで?」
「いや旅に出るなら金はいるだろ。あっても困らんし」
「厄災の龍とは思えない程に庶民的な考えだね」
「うるさい、人になってしばらく回るんだ。その辺の人間殺して奪って生きら得ても良いんだぞ」
「共犯者は勘弁かな・・・けど私お金そんな持ってないよ」
「なら”マグ・メル”、探して取りに行くか。金は貰えるんだろ?」
まさかの展開、最悪最低の厄災を引き起こした龍の末裔が人類が作り出した最悪最低の人工兵器をお金の為に手にいれる。結果オーライという所で良いのだろうか?
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