11 ソードレイ

13


龍は羽ばたき空へ舞う。翼膜には刺青とは違う紋章が浮き上がった。一目で分かる程の情報量と魔力を有した上位魔法の図形、魔法陣。


「嘘でしょ・・・龍が魔法を使うなんて聞いた事ない・・・」


どういった魔法かはわからないにしろ、避けることも防ぐことも困難な事だけは理解出来た。

ローライのいる所まで全速力で走った。間に合わない可能性は今は考えない、倒れている彼を拾い担ぎ上げ走りその場から離れる事を優先した。


「バカ!!逃げるな!!戦うぞ!!」


ローライの声は耳元で大声に響くが今は反応する程余裕は無かった。

担ぎ上げ逃げる最中、彼の回復を行うがより一層元気になり騒ぐ彼は暴れ出す始末。その様子を龍が高らかに笑う声は聞こえた。


「ローライ君、最後のお願い。ここで私はあの龍を食い止める、だから逃げて」

「ふざけんな!!戦うんだ!!」

「勝てない、あれは”厄災の龍”に違いない」


それを聞いた彼は暴れるのを止めた。


「私はもうこれ以上体力も魔力も無い、けれどあなたはもう大丈夫。少ししたらまた痛みが出てくるかもしれないけどその時にはもう逃げ切れてるって信じてる。だから今は逃げて」


走るのを止め、ローライをその場で下ろし再び龍のいる方へと向き直した。


「お前・・・杖」

「さっき逃げる時置いてきちゃった」

「防御魔法は・・・?」

「早く逃げて」

「おい返事しろよ!」

「逃げて!!」


怒鳴ってしまった、しかしこうでもしない限り伝わらないと思った。

遠くなっていく彼の足音を聞き少し安心し、はるか上空で滞空する龍を目の前にどう時間を稼ぐか精一杯考えた。

しかし息も上がり頭も回らない、まともな判断は出来ず頼りには出来ない。ふと足元に目をやると、ローライの荷物が逃げてきた所から散らばっていくつも落ちていた。

足元には出発前にラックが私にも手渡してくれた物と同じ四角の大きな包みが落ちていた。


「お前は半殺しにして目の前であのガキをなぶり殺しにしてやるよ」


龍は急降下し地面スレスレを滑空、炎を纏い私のいる方へととてつもないスピードで向かってきていた。

避ける事が出来ない、そう悟った。絶望の中、落ちていたラックが彼に渡した包みを開くと一つの箱が出てきた。


「お弁当かな?早く食べとけばよかったな、ごめんねラック」


徐に箱を開いた時、今まさに魔法を纏い、飛びかからんとする龍の元へ無数の斬撃と衝撃波の嵐が放たれ、襲いかかり、龍はその攻撃に耐えかね一瞬の内に撃ち落とされた。

凄まじい爆音と風と共に乱れ撃ちに放たれた斬撃は撃ち落とされても尚、龍を標的に襲い掛かる。

怯む間も無く龍の身体中に斬撃が刻まれる様子を目の前にし、突然の光景に見惚れてしまう程に龍は成す術のない攻撃を身体中に受けていた。


「貴様何をした!!!」


轟音の中、龍は叫ぶ。

しかしそれでも無数の斬撃の嵐は止む事を知らず。瞬く間に龍の体は傷だらけになり身体中には切り傷、そして鱗はひしゃげそこら中に飛び散っていた。


「ソードレイ・・・ラックの技・・・」


斬撃は止み、地に伏せ倒れる龍。

鋭い眼差しは殺意を宿し私を睨んだ。あれだけの攻撃を受けても尚立ちあがろうとする龍は、先程とは比べ物にならない程の禍々しい魔力に迫力を見せた。


「許さないぞ、貴様・・・だが本気で貴様を潰したくなった・・・」


ヨロヨロと立ち上がる龍、あの攻撃を受けて尚まだ戦う意思と力が残っている。そして何よりあの力、もう成す術のない私はその目に怯み座り込んでしまっていた。

普通では無い、やはり”厄災の龍”なのか?ラックの秘技すら耐え得る力、そしてあの目に宿る禍々しく鋭い目。紋章の刺青、姿形。

どれもいつか見たあの”支配の龍”と重なって見えた。


「・・・貴様、この俺をよくもここまで・・・」


鼓動は激しくなる、バクバクと体を揺らす程に心臓は動き出し、呼吸は荒くなってゆく。

ゆっくりとユラユラ近づいてくる龍を見上げていると空に大きな影が同時に見えた。


「ハァハァハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」


ゆっくりと息を整え、最後の力を振り絞り。足に力一杯の力を込め立ち上がり走った。

南へ、とにかく走る。南に向かって!!

もうこれ以上も無い程に力いっぱい走った。何も考えず、ただ只管に龍から距離を離す。


「逃げるな!!!」


龍の叫び声が響くがまともな呼吸をしていない為、自身の呼吸する音しかその時は聞こえていなかった。

振り向かずとにかく走った。


「逃す訳無いだろうがぁぁぁぁ!!!!」


ある程度の距離は取れたと思うタイミングで走る最中チラリと後ろを見ると、立ち上がっていた龍のはるか上空には龍の何倍もの大きさをした”砂上の夢”が形を成した”オペラ”が、龍の真上へ落ちようとしていた。


「アアァアァァァ!!!!」


一山にも及ぶ砂の塊は勢い良く、龍に直撃した。

叫び声は虚しく、龍は砂に埋もれていき、まるで何もなかったかのように砂の山が一つ。

私の背のはるか後ろに現れたのだった。しかし、走る事は止め無かった。多少弱らせる事が出来たとしても、いつまたあの龍が”砂上の夢”により押し潰された山から抜け出し襲い掛かってくるか分からない。

今はとにかく、街へ向かい走るしか無い。


肩に背負っている荷物の入った鞄を投げ捨て、身軽にし全速力で逃げた。その時ペンダントは捨てられなかった、意識が朦朧とし、本能で体を動かしていた中。それだけは手放せなかった。

途中何度も転ぶ程にもう足は限界。


ローライ君さえ無事ならそれでいい、町に着けば誰かが助けてくれる。

私に龍のヘイトが向いている今、時間をとにかく稼がなければならない。


彼だけでも無事でなら。誰かがきっと助けてくれる。


ラック、ありがとう。またあなたに救われたね。

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死神の白魔法 世見人 白図 @Shirazu_Yomihito

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