09 震撼

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オアシスのあった場所へと急いで戻ると見渡す限り前日とは地形が少し変わっていた。

それは砂達がそれぞれに付着した魔力が集まり姿形を変え、魚や植物、木々や動物の形を模しては動き出し、移動し元の砂へと戻る。それが"砂上の夢"と呼ばれる現象。

多少の地形が変わるのも良くあるが、少しの間、海辺から戻って来る間に前日に見ていた風景や地形が簡単に変わる程活発に起こる現象では無い。


砂達は異常なまでに魔力を有し、それを消費する為に起こす。

つまり、このトリル・サンダラは今魔力が強い状況にある。

近くの小さな岩陰に隠れ休むローライを見つけ近寄ると少し疲れた様子を見せていた。


朝の探索の疲れが見られるが、悠長に休息を挟む訳にも行かない状況になってしまったので気遣う事しか出来なかった。


「ここから昨日歩いた所を少し戻って西の方へと少しそれた所に町があるから、ここからでもそこまで遠くないはず」

「随分と急いでるな・・・、疲れてんだぞ俺も流石に」

「ごめん、でも何が来るか分からないから出来るだけ町へ行きたい、理想はトリル・サンダラを出たいんだ」

「大丈夫だよ、なんか来たらお前がエサになれば俺も逃げれるからな」

「時間は稼いでみる」

「なんか腹立つな、食われるまで近くで見といてやろうかな」


ローライは大きく息を吸い込み、力いっぱい立ち上がりオアシスの周りを軽く見渡した。


「焚き火の跡。お前消さなかったのか?いくら魔獣やら盗賊やら見かけないっつっても不用心過ぎないか?お前何年旅してるんだよ」


その言葉を聞き、焚き火のあった位置に目をやると、焚き火の跡である焼けた木や炭が剥き出しになっていた。


「なんで?」


思わず言葉が漏れてしまった。その声に彼は「はぁ?」と一言言い首を傾げ町のある方へと我先に歩き始めた。


鼓動が早くなり、緊張感が体を走り全身の感覚が一気に研ぎ澄まされる。

誰かいる、誰かが掘り返している。近くに誰かがいると考える他なかった。

現地の人間や魔物じゃない、そんな気がしてならず焦る気持ちは更に早まる。


「俺も疲れてんだよ、道戻るだけなら探索も要らないだろ・・・」


まるで彼の言葉を聞いた瞬間を狙ったかのように、大きな影が上空から私達を覆い、見上げる隙もなく轟音と砂埃を大きくたて、何かが勢い良く落ちて来た事だけが理解出来た。


「なんなんだよ!!」


視界は舞った砂で妨げられローライの声だけが聞こえた瞬間、大きく舞った砂と風を切る音と共にかなり鈍い音が聞こえた。

蹴散らされ舞う砂は視界を開き、彼のいた方向を向くと彼は離れた所まで吹き飛ばされていた。


「ローライくん!!」


蹲る彼を横目に、何かが落ちて来た所から声が聞こえてきた。


「余裕だな」


咄嗟の判断だった。声を聞いた瞬間、背に差した杖を攻撃を防ぐ様に構えたと同時に重く、力強い太いムチのような何かが横殴りに襲いかかり、あまりの重さに杖と共に数メートル転がる様に飛ばされていた。

ぐらぐらと揺れる脳、ビリビリと腕はあまりの力に受け止められず痺れ、痛む。


大きく何かがはためく音が響く、舞う砂は風に散らされ視界は完全に開けた。

顔を上げ、唖然とした。視界の先に現れたのは「龍」だった。

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