08 漣
10
「おやすみ」と一言ローライに声をかけるが、無言のまま自身のテントへと入っていった。
仕方が無い、自分のしでかした事だから。
ローライの住んでいた村、それはラックの故郷でもある村は"支配の龍"の手先により滅ぼされた。
ローライやラックにとって、そんな敵に同情の余地等あっていい訳は無いはずなのに、私は少し躊躇ってしまった。
敵である魔族や魔獣、それは龍も同様に各々の考えや生き方の違いで善悪の判断をしてしまう事に対し少し疑問に感じる部分がある。結局誰とも寄り添えない、何者にもなれない中途半端な存在になってしまっていると改めて自覚させられた。
こんな寄り添った考えが出来ず、至らない自分自身に対して嫌気がさす。
魔獣だから、という理由では無く1人、1匹の存在として好かれるはずもない。
悩めば悩む程夜が長く眠りにつけない、しかし翌日の事も備えなければ。
目を閉じ眠りにつくまでの時間が途方もなく感じた。
翌朝、少し遅い時間に目を覚まし、テントの外を見渡すとローライの寝床であるテントは片付けられ彼自身の姿も見当たらなかった。
呆れられ帰ってしまったのか不安になったが、それは勘違いだとすぐ気がついた。
前日の焚き火に新たに木が組まれ少し前に火が着けられていた痕跡と温かさがあったからだ。それに彼のテントから続く足跡は北東の砂山へと続いていた。
どうやら1人で海の方へと向かったのだろう、それ程までに"大きな足跡"の痕跡が気になっていたという事。
実際、探知で空から見下げた足跡はどの位の物なのかは彼にしか分からない。
急いで身支度とテントの片付けを済ませ、焚き火の跡は砂で埋めた。魔獣や追い剥ぎは前日から見られないので追跡対策に焚き火の跡を消すという事にあまり意味は無いけど、旅路の癖でしてしまう。
彼が進んだであろう足跡を辿りながら北東の方へと進んでいくとだんだんと潮の匂いは強くなり、海が近い事を感じる。
しばらく緩い傾斜を上がり砂山の頂上へと辿り着くと潮風が強く吹き、さっきまでの一面の砂とはうってかわり見渡す限りは青い海だった。
砂山を下っていくと、大きく目立つ足跡とローライの姿があった。
「・・・この足跡」
遠くからも分かるほどに足跡は大きく、更に深い穴にもなっていた。自分程の身長ある大きさ、150程はある。
近くで見ているローライに近付くとこちらを睨んだまま無言で足跡の方へと向き直った。
「この大きさに形・・・」
「見覚えあるのか」
言うべきか言うまいか、悩んだ。
これは"龍"の足跡だと思う。少し間を開けてしまったが頷く素振りを見せると、彼は「なんだ?」と続けて聞く。
不安にさせる訳にもいかない、しかし本当にこれが龍の足跡なら直ちにここから離れるべき。そう判断するのが妥当だった。
「・・・ローライ君、今すぐ"トリル・サンダラ"から離れよう」
そう言うと彼はゆっくりと私の顔を見て黙ったまま動かなかった。反発のつもりなのか疑問なのかはさておき、焦った様子は声色で伝わってしまったと思う。
「まあ何にせよこの大きさの足跡だからヤバいのには間違いないだろうな」
「・・・うん」
「・・・、その様子だと今度こそ倒すってのは無理って感じだな。ここら辺の探索はしたけど荷物は無かった、だからどっちみちここはもう用済みだ」
「あ・・・、そうなんだありがとう」
「お前がぐっすり寝てる間にな」
「ごめんなさい・・・」
「で?目的の荷物も無いのにここから出るのか?」
「うん」
「"トリル・サンダラ"の町で様子見てからまた戻って探索じゃダメなのか?」
この事を町が知っているのか?"リオラ"の依頼はもしかしてこれに関わっていた?どちらにせよここを一刻も早く離れたい気持ちと、この事を伝えるにしろ何かしらの情報が"トリル・サンダラ"の町にあるという事が濃厚になってきたが、今は彼をこの依頼から離脱させたい。
「いや、帰ろう。トリル・サンダラから出て近い街に向かおう」
「・・・ここまで来てか?歩いてトリル・サンダラから抜けるにしても1日歩いても今日中は無理だろ?」
「そうだね・・・」
「だったら町に寄ってから日を跨いで帰るでもいいんじゃないか?何焦ってんだよ」
「・・・そうだよね、どの道そうする他なさそうだよね。理想は今日中にトリル・サンダラから離れられたら良かったんだけど」
じっとこちらを見る彼の目は真っ直ぐと私の目を見ていた。あまりの焦りに勘ぐられてしまった。
「さっきの質問の続きだ、この足跡はなんの足跡だ?」
「わからない、見覚えはあるけどこの地域に住んでいる生物では無いから・・・」
「答えになってないぞ、何の生き物の足跡なんだよ」
「・・・龍、だと思う・・・」
それを聞いた彼はピクリと体を動かし驚いた様子を見せた。
露骨に態度には出さないがこの足跡を見た時、自分ですら体が一瞬強ばってしまった。
"支配の龍"を倒した後、世界的にもしばらくは一部の魔獣を除く龍とその配下に属する魔獣の殲滅する部隊や機関や組織を国毎に設立され、その際、龍に属する生物の殲滅した報告は全世界に報告されていた。
殲滅報告からしばらくは再び発見した話はあったにしても、それから今に至るまで発見の報告数年間は一切無かった。
つまり絶滅した。という事なのだろう。
「いたずらかな・・・」
「いてたまるかよ」
しばらく沈黙は続き、波の音と共に強い風が吹き荒れる。
どちらにせよ事態は良いものではない。荷物の行方も手掛かりもなく、謎の足跡にオアシス。
未だ何一つこの状況についての情報も理解も出来ていないのだから。
「とにかくここから離れて町に行こう、これが何であれ異変には違いない、今はある程度の安全を確証出来ない中でリオラさんの荷物を探すのは少し怖い」
それを聞いたローライは鼻で笑う。
「なんだよ、ビビってんのか?あんまり情けないこと言ってると殴るぞ。師匠の顔に泥塗るのか?」
「似たような事同じ仲間だった人にも前に言われちゃったんだよね」
「ヘラヘラしてるからだよ。誰に言われたか知らないけど、その通りなんだよ」
彼はそういうと早足で海辺から離れ一人早歩きで砂山を上がりオアシスのあった方へと戻って行った。
ゆっくりと後を追う様に砂山の緩い傾斜をあがり、砂山の高いところへと登り、振り返る様に遠くから足跡を高い位置から見直した。
そこには今迄に見た事の無い龍の姿をした、砂の塊が立っていた。
"砂上の夢"による再現。姿形、それに色味は砂だったが飛膜の紋様は綺麗に浮き出ていた。
その模様はかつて倒した”厄災の龍”達に等しく描かれた紋様の刺青と同じものだった。
全身の毛はゾワっと立ち、悪寒が走った。
一体何の龍で、いつ砂達が記憶したものなのか、砂達の想像上の物なのか。
”離脱”、今頭に過ぎる言葉はこの依頼を放棄し、この事をギルドと龍の殲滅、調査をかつてしていた機関への報告することだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます