06 オアシス

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それからは再び何事も無かったかのように探索が再開された。

ローライと共に歩いては止まりを繰り返し、それ以上に何も話すことは無く黙々と移動を続ける。


「何も無いと逆に見つけやすいと思ったけど、こうも広いと探してる物も見つからないな」とローライはため息混じりに今回の依頼が面倒な物なのか痛感していた。


"トリル・サンダラ"に入り数時間程になる。

ローライの探索は魔力を消費し集中する事により広範囲にある物や人、はたまた野生の魔獣等を空、地中関係無く特定の範囲の探知をする事が出来るそう。

つまりは常にそれを行った状態での移動はとても効率が悪く消耗も激しい為、ある一帯のポイントを決め行うという事の繰り返しを行っている。


砂漠地帯ということもあるが、見渡す限り辺りは砂に少しの傾斜がある位の砂山がポツポツとあり、どこを見渡しても砂と少しの岩しか視界には映らない。

”砂上の夢”はあれから”オペラ”程の巨大な塊は現れず、小さな砂の塊となり、到底砂漠地帯とは思えない程の自然豊かな土地に生息していたであろう生き物や植物の形を成し、度々視界に現れていた。


最初こそは二人して終始砂が元の姿へと崩れ落ちるまで眺めてはいたが、途中からは反応を示さず進路を変えながら目的の鞄を探す事の方に注視し始めていた。

"砂上の夢"は稀に見かける自然現象ではあるが、こんなにも1日に何度も見るのは聞いた事が無い、更に道中で出会う"トリル・サンダラ"に生息する魔獣、妖虫もあまり見かける事もない。

かつてラック率いる私を含めたメンバーで訪れた際とは全く異なる環境下にある、それは月日が経ち、今や”支配の龍”が存在しない事による影響の物なのだろうと思っていた。


今回の"リオラ"というかつて同業だった人物の荷物は同じ[スターキャリアー]に属すると支給される黒く大きなリュックの為、この砂漠地帯において目立ちやすく比較的見つけやすい物には違いない。事前にラック達の家でローライには説明をしているうえに同様の実物である持参したリュックも見せていた事もあり一見すればすぐ分かる物である。


道中の探索や現象や環境で気掛かりな事はいくつもある中、簡単に状況を鑑みるに一つの最悪の仮説が浮かび上がる。


「ねえ、ローライ君。北東の方に進んでるよね?」

「何言ってんだ?北東で亡くなってるんなら北東の方にあるんだろ?」

「"砂上の夢"の影響で荷物が移動してる事って考えられない?」


それを聞いた瞬間、ローライは苦い顔をし地図を畳んだ。


「砂を通じて荷物が移動してるって事だよな?」

「そう、とりあえず最北東の方まで移動してみるしかないんだけど、荷物がある確証がないって事になってしまう」


それを聞くと少しイラついた様子を見せ私に問い掛けた。


「じゃあ、あの馬鹿デカイ砂の塊が落ちて地形が変わって、本来の場所と荷物の場所の地形を見間違えて報告に勘違いがあったとかそういうこともあるって事もありえそうだよな?まあこんな地形だしどこ見ても似たような景色なら勘違いもありそうだな?結局どの過程を想像してどこに進むんだよ」


「地点に関しては間違いないんだ、私たち[スターキャリアー]の場合のみだけど、消息が不明になった地点で魔力が消えた場合のみ、ギルドの集会場にあるマークボードっていう世界地図に消失した地点に小さくそれぞれ固有の紋章が魔力によって証印されるの、紋章も大体の地点も人物と場所は一致してる。けど荷物に関しては探知する術がないから、あくまで亡くなった地点の付近にあるだろうっていう予測でしか探せないんだけど」


「亡くなる前に荷物を捨てなければいけない状況で、荷物の場所と亡くなった地点が違う場合はどうする?」

「うん、それも考えれるよね。でも町から遠い地点でこの環境下、荷物を捨てて逃げなければならない状況があまり考えられないんだよね・・・。」

「それも含めてもまだ行くのか?確証もないのに?」

「そういう仕事だからね、勿論ローライ君には当初の予定通り指定した期間内に見つからなかった場合、この依頼から離脱してくれていいし、勿論、報酬も払うから安心して」

「そういう事じゃねえよ」

「”砂上の夢”がここまで頻繁に起こると、”オペラ”位の大きな形をした砂の塊も頻度が高いはずだから砂の中に荷物があっても何度も移動している事を考えたら途方もないと思う。けど、とりあえずは最初に決めた様に最北東まで探索を進めよっか、考えてても仕方ない」

「ホントかよ・・・、進路は変えないんだな?北東とはいっても、何処とは具体的な位置は聞いてないからな」

「荷物の有無はあまり期待は出来ないけど・・・けど恐らくここら辺に"リオラ"さんが目的としてた、あるいは亡くなった場所があると思うの」


それを聞くとローライは首を傾げ「根拠は?」と質問した。


「亡くなった"リオラ"って人、私は面識が無くて所長も内容の知らない依頼を受けていて、その詳細が書かれた紙を荷物に入れているって話なんだけど」

「そんな話外部の人間にして良いのか?」

「ダメかな?」

「駄目だよな?今度から気をつけようなバカ。で、それがこの人が亡くなった場所と何の関係あんだよ」


「内容は分からないけど"トリル・サンダラ"の方で亡くなってる事や北東の方に進んでいた事、最北東は海だから多分そこまでの間だとして、今いる場所から海までそう遠くないはず。それ以上に進む事が出来ないことを考えると恐らくリオラさんが受けていた依頼は今いる場所に近い所に用があったんだと思う」

「お前ここらから先に海があるってなんで分かるんだよ」

「鼻が良いからね、微かに潮の匂いがする」

「で?荷物もそこにあると思うのか?さっきの考察を踏まえるとそこにあるのかも分からないんだろ?それに海の方に用事があったのかも知れないだろ?」


「そうだね、でも今は荷物が移動していない事を祈って北東へ向かお、とりあえず近辺に何か見つけたら教えて」

「結局、行くべき方向は変わらずじゃねえか何の話だよ」

「一応、探している荷物の居所の場所が変わる場合の話があるから話しておいた方が良いと思って・・・、後あまりにも会話がないからローライ君と話そうかなと」

「お前良くそんなんで今まで1人で旅出来てたな、寂しがりで死にそうだったのか?」

「そうかも、誰か居ると何か話さなきゃって・・・」


少し照れながら話していると、ローライは深いため息をつき「分かったよ」と言い、再び探索と探知を開始した。

彼は水の入った皮袋を取り出し一口飲み、蓋を閉め再びそれを大きく空へと飛ばし直立のまま落ちてきた川袋をキャッチした。

するといままでに見せた事のない少し驚いた表情を見せ眉間にシワを寄せた。


「ここから直接の視認は出来ないけど目の前の高い傾斜を超えた辺りにオアシスがある」

「オアシス?海じゃなくて?」

「距離的には近いけどな、オアシスだと思う・・・俺も本でしか見た事無いから明確には分からないけどさ」


早速、足早に2人して砂山の傾斜を上がった。上がりきり頂上に立つと下の方にローライの発言通り、少し大きなオアシスの様な水の溜まり場が出来ていた。

傾斜を勢い良く滑り降りオアシスの方へと行くとローライは付近の方で魔力を大きく使い探知を始めた。


「探知に集中しにくいな・・・そろそろ集中力と魔力が不足してきたか・・・」

「オアシス・・・なのかなこれ?」


"トリル・サンダラ"にはかつて何度か訪れた事はあるがオアシスがあるという話は聞いた事が無く、町の住民からその様な話を聞いた事が無い。

オアシスらしきそれを円を描くように周囲を歩き水を観察し、服を脱ぎ水辺に入る事にした。


「お前また・・・!!いい加減にしろよ!こっちはここにあると思って魔力使ってんのに!!集中力切れるだろバカ!!」

「私"トリル・サンダラ"にオアシスがあるなんて聞いた事なくて、ちょっとこの場所怪しいから調べるね」

「お前裸になりたくてわざと理由つけてやってないか?」


そう思われると何故か少し恥ずかしくなってきた。

ともかく、水辺の中に入りながら周囲や水中に潜り調べ始める事にした。

外見から見た所、綺麗な大きい水溜まりのようにはなっているが水辺には少しも緑が無い事から随分前に出来たもので無く最近出来たものと分かる。

水に潜り底の様子を見ると砂が少し焦げた様な跡、まるで何か強力な熱で溶かされた様に固められていた。

水底には少し水流が見られ底から水が湧き出ている事が確認出来る。

水辺から上がり、オアシスの水を少しすくい飲んでみるとほのかに少し味を感じた。


身体を振るい水気をある程度飛ばしカバンからタオルを取り出し身体を拭いていると、さっきまで集中していたローライがこちらに歩み寄り呆れた様子で「どうだ、遊泳は気持ち良かったか?」と尋ねて来た。


「このオアシス、最近作られた物だった」

「作る?こんな所に?"トリル・サンダラ"からこんなに離れた場所に?」

「ここのオアシス、範囲は小さいけど底は結構深くて、多分水脈まで掘られてるんだと思う。だから雨露やそういった自然に出来たものじゃない人工的な物、ただ・・・掘られていたと言うより何か抉りとったみたいな・・・丁寧な感じはしなかった」

「どういう事だよ」

「目的は見えないけど、何か急いで作ったみたい・・・かな?そういえば荷物はあった?」


ローライは鼻で笑った、つまり無かったという事なのだろうか。

しかし、その後に怪訝な表情を見せ俯きながら言う。


「荷物は見つからなかったけど、海辺にちょっとヤバそうなものは見えたぜ、行くか?」

「ここからどれくらい?」

「まあ数キロって所かな」


空を見上げると日はもう落ちかけていた、辛うじてまだ光はあるが、日が落ちると急に光は無くなる。その事をふまえた上で数キロ程度なら歩いても日は跨かず、直ぐに着く距離ではある。


「いや、今日はここまでにしよっか・・・光もない状態でこの土地を歩くのも不安だし、何があったのか知らないけど、出来れば日の光で視認したい。それでローライ君何を見たの?」


ローライは少し考えた様子を見せ、少し間隔を空け答えた。


「デカい穴・・・いや足跡2つ」


"トリル・サンダラ"へ足を踏み入れてから、これだけの情報があったのにも関わらずこの時点でも尚、事の重大さと状況を完全に理解していなかった。

あまりにも軽率なものだったと猛省している。

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