05 砂上の夢
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森からしばらく歩くとすぐに視界は一面砂の世界だった乾燥した空気に朽ちた建物と思わしき瓦礫の岩々、見渡す限り砂と岩だけだった。
気が付けば、道の途中から草木は突然消えた様にまるで何かの境界線の様にすっぱりと見なくなってしまっていた。
"トリル・サンダラ"広大な砂漠地帯、北の方へとずっと進むと街があるがそれすら視界に現れるまで途方もない。
目的の物は北東にあると言うが目印も無ければ、ただただ見渡す限り緩急のある砂の山々だけだった。
「久しぶりに来たけど、本当にどの方角でどの位置にいるのかさっぱり・・・」
「幸先悪そうだな」
「日差しも強いから帽子かぶってね、暑いけど目が灼かれちゃうよ。帽子ちゃんと持ってきた?」
「母親気分か?」
砂漠の砂を踏み入れ、しばらく歩いた後ローライはカバンにしまっていた鍔広帽子を被りながら目を閉じ集中した様子でくるりとその場で一周ゆっくりと回り途中方向を変え指を指した。
「あっちに進むと町か遺跡かわからないけど、少なくともなにか建物がある。見た所辺り砂だらけで、山とか岩場は戻らない限りないからあっちだ」
彼の指差す方を注意深く目を凝らしてよく見るが建物やそれらしき大きな物は見当たらず、陽炎の影響でかなりの遠方に小さな影がぽつぽつとしか確認が出来ない。
「山や岩場も無い事は見れば分かるけど・・・なんであっちの方向なの?」
「風の流れ、あと何でも良いんだけど適度に重みのある物く貸せ」
カバンの中を無造作に探り、適当に手に取った勲章を取り出しローライに手渡すと直様空を見上げながらその勲章を高く空に放り投げ、直ぐに落ちてくる勲章をその位置に留まったままキャッチしじっと勲章を見た。
「ってお前これ師匠の持ってる勲章と同じヤツじゃねぇか!!”光輝の印”なんか渡すなよ!!馬鹿かお前!??」
「丁度カバンに手を突っ込んだら出てきたのそれだったから、投げやすかったでしょ?」
「もっと他にあっただろ!!!お前これ絶対人の手に渡しちゃダメだし、こんな物投げさせるな!!」
「いや・・・投げるとは思わなかったから・・・」
「だからって渡すな!これ授与されたやつ以外が持ってたら重罪なんだぞ!!」
「へ~」
彼はゼェゼェと息を吐きながら怒鳴り続けその場に座り込み大きくため息をついた。内心要らないと思っていたけど、今それを言うとまた怒られるので静かに座り込む彼が立ち上がるのを待った。
"光輝の印"、それは世界を救った者達にのみ授与される勲章である。
諸々説明は受けていたはずなのだが、当初の自分が思っていた程の価値が無かった事もあり、それが如何に素晴らしい物なのかという世間的価値やその勲章の使い所等、言われるまですっかり忘れていた。
「あ~もうお前のせいで探知出来ないじゃねえかよ」
「ごめんなさい、それであれはどういう動作なの?」
「あれはなんでも良いんだけど、特定の物や物体に自身の視点を追加する魔法、さっき投げた勲章に視点を移して空に投げて周辺の地形をある程度認識した後に、予想でここから更に視点の先の地形を予想するつもりだったんだよ。もう集中力も切れて予想も出来ないけどな」
「じゃあ今の一瞬である程度の地形は把握出来たの!?」
「まあな、あとは目標の物の探知だけど。軽く数メートル見た雰囲気では無さそうだな」
「お~」と少しオーバーに拍手をするとローライは気にする様子もなく砂山に登って行き辺りを見渡しながら勝手に先へと歩き始めた。その後を追うよう後ろに付きながら周辺を気にするが、なんとも言えぬ違和感を感じながらも確信が持てぬまま探索は続く。
しばらくは特に会話も無くただ黙々と何も無い砂山の傾斜を昇り降り、周囲を見渡しては立ち止まり集中、立ち止まり集中と繰り返す、何かしらの違和感が何に対しての物なのか考えながら周囲への警戒を続ける。
そして、気がかりだった違和感に逸早く気づいたのは、探索をこなしていたローライだった。
「なあ・・・あまりにも静か過ぎないか?ここらはこんな物なのか?」
「分からない、随分久し振りに来るから・・・」
それを聞き、不安な様子を見せた。
「基本的に俺は器用じゃない、探索範囲を広げたり集中してる時は敵の探知はこなせるけど咄嗟に戦闘が出来ない上に普段より労力も魔力も使うからな。終始こんなのずっと使えないからタイミング見て解かないとダメなんだ」
ローライはカバンから簡単に紙で包まれた四角い物を取り出し、紙を捲り現れた緑色の固形をガリガリと食べ始め、腰に刺した地図を読み始める。
「ローライ君それなに?」
「なんだよ今、地図見てんだから話しかけんな」
「ごめんなさい」
「・・・・・、携帯保存食だよ。即効性もあるし消耗した体力や魔力、栄養素もある。携帯しやすい、何より作り方によっては環境や状況に合わせた配合出来る・・・・って、お前仮にも魔法使いなのに知ってないのかよ」
「へ~・・・初めて見た。今って飲むタイプじゃないんだ」
「まあ経口補給水のやつ不味いからな、即効性はあるにしても腹も満たせないし、配合も限られてる」
「美味しさとか栄養素とか腹持ちとか考えるんだ、昔程急な戦闘も無いからかな」
「言ってもこれもあんまり美味しくないぞ、食べるか?」
カバンから同じ物をもうひとつ取り出し私に手渡してくれ、包み紙を開くと密かに薬草といくつかの魔力増強剤やら果汁等の匂いがした。
「甘酸っぱい匂いはカボン、後は薬草は良いもの使ってるね。魔力の補給はミテンとユーナミミかな?」
「マジかよ、配合当てやがった・・・流石獣」
歯触りは硬く、少しゴリゴリとしていて少し口の水分が奪われる。味は果実のおかげで薬草やいくつかの補給水の嫌な味や匂いを甘味料等でも誤魔化しているが、味がごちゃごちゃとしてて美味しくはなかった。
「うん、美味しくないね」
「まあこれで、魔力回復に魔力の補助効果や自然回復増進。あとは暑さの緩和する効果一遍に取れるから文句言うな。補給水だけだとここまで作るの大変だしな」
「え、これ作ったの!?ローライ君凄いね・・・、あ・・・美味しく無いなんて言ってごめん」
「美味しい物作るつもりで作ってないからな、魔獣には丁度良い餌だろうけどな」
「酷い」
地図を大きく開き、まじまじと彼は眺めながらあちらこちらと印を付ける。その様子を携帯食をガリガリと食べながら眺めていると、激しい轟音と共に大きな影が突然2人を包んだ。
「なんだ!!?敵か!!」
「ローライ君、空」
ローライと共に上を見上げると、大きな魚の形をした砂が塊になり空を飛んでいた。
「なんだあれ?!!」
「凄い・・・あんな大きいの初めて見た・・・」
「何呑気に眺めてんだよ!!逃げた方が良いだろ!!」
「大丈夫、あれは"砂上の夢"っていう自然現象なんだ」
「"砂上の夢"?」
大きな魚を象った砂の塊は遥か高く、跳ね上がるように空を舞っていた。その光景に目を奪われ、ローライも落ち着いた様子で見上げる私を見て落ち着きを取り戻した様子で同じくゆっくりと頭上遥か上に舞う砂の魚を目で追っていた。
「空気中にある微量の魔力の元になる魔素が風で舞う砂1つ1つについて、集まってくっついた塊が、ああやって砂達の魔力を消費するまで、何かしらの形になって空に舞うんだよ」
「凄い・・・」
「凄いよね、いつもならもっと小さい塊で色んな物になって空に舞うんだけど。こんなに大きいの初めて見た」
「あれは・・・魚?」
「昔存在した大きな口を持つ、1つの町にも匹敵する巨大な魚の絵を見た事がある・・・多分それだね。名前は"オペラ"」
「オペラ・・・」
空を舞う大きな魚"オペラ"の形をした砂の塊は少しづつ削れて行き、巨大な塊は再び遠くの方で轟音と共に沈む様に、まるで海に帰り飛び込むように落ちていった。
「なんで、砂が集まってあんな姿形になるんだ?」
「分からない、けどラックは砂たちの記憶って言ってた。削れた石や、かつてここが海だったのかもしれないって、その時に自然達が見ていた風景になぞってあんな形になったんだろって」
2人してその大きな砂の塊に見とれ、消えた砂の塊は遠くの方で少し大きな傾斜が出来ていた。
その様子を終始見ていた後に少し上擦った気持ちがあったのかしばらくその場を動けなかった。
ふとローライは砂が落ちた先を見たまま言う。
「あの大きな魚となんか関係あるのかな」
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