03 キミノセイ


森から離れしばらく歩き"トリル・サンダラ"を目指し道なりに進む、目的地までは徒歩でのペースではどれだけ早く歩みを進めようが1日はかかってしまう。いまだ見えぬ広大な砂漠での探索を踏まえた上で、砂漠の砂に足を踏み入れるまでの道のりはローライにとってとても辛いものに違いない。


「ちょっと休む?」


そう声をかけるも数メートル後ろに歩くローライは聞こえぬふりをし正面の道を見ず、なんてことのない山谷を眺めていた。森から離れかれこれ数時間は歩いている、体力が有り余る程の年頃とはいえ一人の人間には違いない。

そう判断し道を外れ近くの木陰へと移動しシートを引き座った。後方から彼はその様子を何か呆れる様に見下し歩みを続けた。


「休憩しようよローライ君」

「1秒でもお前といる時間を短くしたいんだ、さっさと歩け」

「これは手厳しい」


さっさと敷いたシートを畳み、追い抜くローライの元へと走り先頭の方へと戻る、静かな時間が流れ後方の方で歩く彼を度々気にしチラチラと目線をやると、目が合うたびに嫌そうな顔をしていた。


風の音や草や葉、茂みが揺れ擦れる音が微かに響く中、何者かの足音と風とは違う茂みの揺れ動く音を私の大きな耳は感じ取った瞬間、後ろを振り向くと颯爽と岩に擬態していた大きな魔獣が数十本ある鉤爪の様な腕をローライに振り下ろす瞬間だった。

「後ろ!」と咄嗟の声に反応したローライは素早く脇に挿した短剣を取り出し防ぎ直様間合いをとった。

杖を取り出し彼の方へと歩み寄りすぐ様硬質、補助の魔法を準備し唱えた。


「怪我はない?数分間だけ回復を自動で行う呪文唱えたからその間逃げて」

それを聞き鼻で笑い、言った。

「逃げる?俺はあの"支配の龍"を倒した男の弟子だぞ、余裕だよこんなやつ」


息を荒げ、口からは呼吸と共に荒い声が漏れる。彼の過度な緊張を感じまともな状況では無いことは見るからに明白だった。

しかし無理矢理にでも止め連れ逃げるにも相手のあの素早さでは逃げるにも難しいと判断しこのまま彼の援護をする事にした。


「無理はしないでね、傷の回復は出来ても痛みは取れないから痛みでショック死する場合もある事を考慮して立ち回って」

「俺に指図するな、役立たず」

「良く言われる」


前日のラックの発言通り恐らく彼にとって初めての戦闘経験になるはず、敵の攻撃の痛みを和らげる事を最優先し、傷への回復は感覚的に行われる自動回復に作戦をシフトした。

硬化魔法”シェルター”、ヒーリング"シリウス"、自動回復”ラピス”。次々と魔法を使い重ねローライを主体に後方から唱えていると、ローライは素早く姿勢を低くし短剣を構えたまま魔獣の腹の中に入れ何度も斬り込みを行う、斬撃をものともせず鈍い斬撃の音だけが響いた。魔獣は容赦無く彼に何本もの脚を使い鋭い鍵爪で斬りかかり、四方から切られ、魔獣との距離を置く他無く後方へ下がろうとした。


「なんなんだよこいつ!!いてえ!」

「不味い、思ってるより強いかも・・・」


ローライが寸前に負った傷は塞がるもその痛みに耐えかね足は怯み、その様子を見逃す事も無く魔獣は大きく腕を振り上げとどめの攻撃を仕掛けようとする。

懐を見せた魔獣に、透かさず杖を大きく振りかぶり殴り叩いた。


「ガァ・・ァ・・」

魔獣は悶える様に倒れ込み、彼の手を握り足早にその場を去った。

しばらく夢中になって走っていると、手を握る方から「ゼェ・・ゼェ・・」と息切れしたの声が漏れていた、ふと我に帰り近くに大きい岩岩の間に身を細め身を隠すようローライを座らせ、周りを警戒したのち安全を確認したうえで続いて座った。


「ごめん、大丈夫?」


彼はしばらく息を整え黙ったのち、震えた手で胸ぐらを掴んでくる。

顔を赤くし、憤怒の表情が顕になっていた。


「なんで逃げた!!勝てただろ!!逃げたらなんの意味もない!!勝たなきゃ学べない!!!」

「勝てないから逃げたの」

「倒れ込んでただろ!!」

「騙し討ちの可能性が高いうえにこれ以上無理な戦闘なんか続けたらあなたがどうなるかはあなたが一番分かってるでしょ?」

「お前が援護をサボってたからだろ!!応戦もしないし大した魔法も使えない!!攻撃出来る魔法の一つくらい使えろよ役立たず!!」

「ごめんなさい」


食いしばる歯を見せ彼勢いよく振りかぶり、私の頬を殴った。


「良いよな、どんなに痛くても自分で回復すれば癒えるんだろ?戦闘に立たず後ろからずっと魔法唱えて痛い思いもしないしな」

「・・・」

「どうせいくら殴っても痛くないんだろ?師匠の仲間って言っても全く役に立たないお飾りだったのに偉そうに・・・この嘘つきの化け物」


慣れていた。この子の言う通りだと思いながら、何回も殴られた。彼の拳が赤くなると振り下ろした拳を止め、服から腕を紐解き立ち上がり歩き出した。

私は服に溢れた血を拭った。殴られる度、昔のことを思い出し、自分から流れる赤い血を見る度、情けなくなる。

こんな思い何度もしているのに成長しないな。


「痛い・・・」

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