02 えそら

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その日はラックの住む家で一夜を過ごす事にした。久しぶりの再会と言う事もあり会話はそれなりに弾みはしたものの、終始敵意の目をローライから感じ取りまともな打ち合わせも出来なかった。

翌朝、出発より早くに目覚めてしまったので外に出てみた。

濃い霧が朝日を反射する、綺麗に丸く描いた日差しと木々の影は宛ら真っ暗な中に差す舞台のスポットライトだった。

こんな素晴らしく綺麗で静かな場所を選んだ彼の意外な一面を見た気がする。


「綺麗だろ、朝が一番居心地良いんだよ」


振り返るとラックが家の玄関の前を立っていた。


「早いね、ラック」

「お前もな、ここ住んでからこれ見たさにずっと早起きでさ、街が遠いくらいかな不便なのは」

「この景観の為にここに家建てたの?」

「まあな、賑やかなのも嫌いじゃないけど、もう飽きた」

「変わったねラック」

「歳食っただけだよ」と掛けているメガネを指差し笑う。

「ラック、あの子は?」

「ん?ローライは孤児で故郷に帰った時にこっちに連れて来た」

「故郷って解散した後に村に帰ったの?」

「帰ったよ、丁度解散したのが4、5年前だったか、その時故郷に帰ったら村がもう跡形も無くてさ、その時に村で生き残ってたあいつを引き取ったんだよ」


淡々といつもの表情で話す。その姿に後悔や悲しみ等は感じられなかった。


「生まれ育った・・・とはいえ長い間いなかったんだ、俺達が名前を上げていけばそりゃ、いつか故郷が襲われるなんてざらな話だしその覚悟はあった。残念ではあるけど俺はあの旅を後悔したことは無いぞ」


そう語りながらラックはズボンから勲章を取り出し眺めていた。

世界を救った勇者一行にのみ授与されるそれは、丸く彫られた宝石が埋め込まれた正方形に象られた金の勲章。それぞれ受け取る勲章は宝石の種類が違う。


「カペラはまだ持ってるのか?」

「・・・うん」

「使ってないだろ」

「うん」

「俺はたまに使うんだけどさ、これに誇りがあるかと言われると微妙だな、何でも使える便利なアイテムって感じだよ」

「色んなものが貰えて、色んな所へ入れるもんね」

「あの徽章は?」

「あるよ、いつも服の下に入れて首に下げてる」


服の下にしまっている青い星が彫られたメダルが飾られたペンダントを取り出しラックに見せる、すると彼は微笑んだ。


「俺はお前達と旅が出来た事、今でも誇りに思うよ。お前もそうであって欲しいとそう思ってたけど、ふと思うんだ。お前を巻き込むべきじゃ無かったのかもってさ」

「寂しい事言わないでよラック」

「悪かったよ、たださ世界救った後に俺達の望んだ物は叶うのかなって、あの旅の意味を考える事が増えて不安になるんだよ」


ラックは近くの積まれた薪に腰掛け、じっとこちらの目を合わせ問い掛けるようにそう話す。そんな風な雰囲気を少し感じた。


「分からない、少なくとも僕はあの旅が出来て良かった、と思うよ」


ニコリと微笑むと彼は「そっか」と一言零し家の中へと入っていった。

あの旅に、自分の目的があるときっと皆が思い集まった。その目的はそれぞれ違っていたけど、きっと共通の思いや答えがあったのだと思う。

旅の目的を終えた後、それぞれ思い描いた答えを得られた仲間もいればいなかった者もいる。ラックが旅に誘った事を"巻き込んだ"という風に言い換えたのはそういう理由なんだろう。

かつての仲間達が今どうなったのか、リーダーである彼が事情を知っているのも不思議では無い。彼自身、願いが叶わなかったように。


気がつけば予定していた出発の時間まで太陽は上がっていた、家の中へと戻り居間の方へと行くと、ラックは四角の大きな包みを手渡してきた。


「これ持ってけ、邪魔にはなんないから」

「ありがとう、ラック」


客部屋に戻り、着替えを済ませ荷物を纏め再び居間の方へと戻ると準備を済ませ、装備を整え終えているローライの姿があった。


「行こっか、ローライ君」

「気安く名前を呼ぶな化け物」


ラックは軽くローライのお尻に蹴りをいれ、ムスッとした表情で私を睨んだ。


「気をつけてな、おまえら」


ラックに軽く手を振り別れ、ローライと共に"ノコラズノ森"を後にした。

目指すは"トリル・サンダラ"、いつもの様になるべく早く依頼をこなし無事ローライを帰還させる。

いつもより少し緊張感を持ってこなす事を心掛けていた。

想定以上の最悪の状況を襲う、そんな恐怖を身をもって知るとはこの時知る由もなく。

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