Omber

01 徽章

2


ギルドの建物から出るとすぐに一人の大男がマスクをし近づいてきた。街はどよどよと近づく大男と私の方に注目が集まる。

マスクをし上半身裸の男、方や全身黒くコートとフードで体を包み正体を隠してる二人向き合い立っていた。

足早にその場を去ろうとすると大男は肩を掴み、マスクを外した。


「カペラだろ!お前まだこんな辛気臭ぇ事やってんのか!?」

「セラムさん」


特徴的な傷だらけでゴツゴツとした肌と骨格の男は「セラム」という大男。

かつての”支配の龍”を倒し英雄と称えられたパーティの一人である。顔を真っ赤にし、口からはお酒の匂いがし、

彼は恥ずかしげもなくガハハと大声で笑い、肩から手を離した。


「スターキャリアーなんて下っ端仕事や勇者崩れの仕事だろうによぉ、お前さぁ俺らチームの名前に泥塗るつもりか?永栄ある勲章が泣いてるぜ」

「私はこの仕事に誇りを持ってるんです、セラムさん」


腰のベルトにつけた勲章をチラチラと私に見せ言った。


「この勲章すげえぜ、これチラつかせりゃどこでも入れるしよ、なんだって貰えちまう。多少の事も誤魔化せたりな」

「相変わらずだね、あなたって人は」

「そんな目で見んなよカペラ、冗談だよ・・・まあでも実際俺らの中じゃろくな使い方してない奴もいるがな、それにお前もそんな姿しなくてもこれつけてりゃ白昼堂々歩けるどころか英雄って称えられんだぜ?」

「いっしょだよ、そんなの有っても無くても」

「随分と御大層だなカペラ、いつからお前俺より偉くなったんだ?化け物」


少し苛々とした表情を見せ背を向け「あばよ」と一言言いセラムは立ち去った。少し弱って見えるその後ろ姿にもうあの頃の面影は無く、嫌味な性格だけが残った彼を哀れに思えてきた。


ふと横を見るとそこにはさっきまで部屋で業務をこなしていた所長がセラムの後ろ姿を呆れ顔で見ていた。


「セラムのやつ今は闘技場で八百長やってチャンピオンやってるんだよ。皆んな知ってるから評判も最悪であいつ自身その事も分かってる筈なんだが、名誉欲と言うのは恐ろしいよ自暴自棄になって日中酒浸り、邪険にしてやらないでやってくれ、カペラ君」

「大丈夫です、所長」


セラムの言葉、姿、当時のパーティのみんなは思い思いに変わっていった事を改めて実感した。



3


日も暮れ始めた頃に城郭都市カラットを離れ、見渡す限りの草原の中簡単に整えられた道を進み、街からしばらく離れた先にある"ノコラズノ森”と呼ばれる場所へ向かうことにした。

”トリル・サンダラ”は”ノコラズノ森”を抜け東に進むと辿り着く砂漠地帯。闇雲に探しても探し物は見つからない程広大で何も無い土地の為、心当たりのある探索に長けた知識や魔法を有している人物で、道中に見える”ノコラズノ森”に住む彼を頼る事にしたのだ。


街の宿は落ち着かないのでその日は少し歩みを進め野宿出来る場所を探した。

幼い頃から慣れている野宿は負担では無いが、あまり安心して良い物でも無いのも承知の上で野宿を選んでいるが、重いコートを脱ぎ姿を現さず身軽にテントで寝る事の方が少し気楽ではある。


日を跨ぎ、早朝から歩みを進め遠目からも分かる程の大きく自身の数十倍もある高さの木々が立ち並ぶ大森林、"ノコラズノ森"の姿が見え始めていた。

見え始めてからは差程距離は無く、歩むペースを変えず余裕を持ちながらの進むも予定をしていた時間より早く着くことになった。

森の中まで入ると辺り一体薄暗い中、1つ大きくポッカリと穴が空いたように空から光指す場所には1件の家が立っていた。


「いるかな・・・ラック」


少しの不安を過りながら光の差す家の方までへ行くと太い切り株に目新しい切り口、ざっくりと刺された剣に切られた綺麗に並べられた薪、それに屋根の煙突からは煙が吹いている。

期待を胸に家の扉にノックをすると直ぐ開かれ、目の前には1人の少年が立っていた。


「え?あれ?」


扉の前に突然現れた全身黒の姿で覆う人物を見た少年は驚きもせず、私はというとラックでは無い150位の同じ背丈程の見知らぬ少年がラックの家から出て来た事に声が漏れてしまった。


「どちら様?名前は?何の用ですか?」と少年は睨みながら言った。

「ラックは居ますか?彼の旧友です。カペラという名前を伝えて貰えれば分かると思います。」


少年はまじまじと頭から足の先を細く目を尖らせ睨み怪しむ素振りを見せ、深く被るフードを指し言った。


「その上着を脱いで下さい、脱がないのであれば帰って下さい・・・、と言って大人しく帰りもしないでしょうけど」


脇に巻いたベルトに付いたホルダーから短剣に手をかけ少年は戦闘態勢に入る。目は本気だけど相手は子供、手荒な真似は避ける為、コートの背に隠した背丈程の杖を取り出し即座に少年の脇とホルダーの間に杖を差し込み体ごと持ち上げ身動きを取れない様にした。


「降ろせ!こ・・・」


少年の咄嗟に暴れようと試みるも驚いた様子でこちらを見ていた。

杖を取り出す際にコートが持ち上がりフードは外れた。

少年の青い瞳から映る人とは異なる大きな三角の獣の耳に顔は白い毛に覆われ、少し長く尖った口に逆三角の黒い鼻、まさに獣そのもの人ならざる魔獣の姿は、私の姿。


「魔獣・・・」

「手荒な事してごめんなさい、でも私はラックに会いに来ただけなの」

「ふざけるな、お前みたいな醜い魔獣が師匠に何の様だ。報復か?」

「私は彼の仲間だったの」

「嘘つくなお前みたいな化け物が英雄である師匠のパーティな訳無いだろ」

「証明が必要ならする・・・」

「信用する訳無いだろ、どんなでっち上げをしようと絶対にありえない」


「もういいだろ」と言う声が聞こえ後ろを振り向くとそこには背の高くヨレヨレの軽装をしたどこにでもいそうな見た目の男、ラックが立っていた。


「師匠!こいつをやっつけて下さい!」と少年は興奮した表情を見せていた。それに呆れたラックの苦笑いを見て少年を下ろした。


「手洗い歓迎で悪いなカペラ、元気そうです何より」

「ラック、お願いがあるから来たの」


ラックはため息をつきズボンのポケットからメガネを取り出しかけてから、半場強引に私の背中を押し家の中へ入れ、それを横目にポカンとした表情で少年は目のやりどころに困っていた。


「あのなあカペラ、久しぶりにあって用事だって寂しい事言うなよ。とりあえず座れ、ローライなんか飲み物出してくれよ」


ローライと呼ばれたその少年はビクリと体を動かし、キッチンのあるであろう部屋に急ぎ足早に去っていき、ラックは居間の方へと私をつれ大きな椅子の前に並べられた数個の椅子の内の1つを引き座らせ、ラックは向かいに座る。


「あの、ラック謝るから・・・」

「なんだよお前、あんだけ遊びに来いって手紙出して来なかったのに、お前のお願いは聞かなきゃなんないのか?」


意地悪そうにニヤニヤと頬杖をつき見るその姿、居心地の悪い状況を楽しんでいるラック。


「本当にごめん、ずっと長い旅続きで家に帰ることも全然無くて」

そう答えるとラックは少し微笑み言った。


「知ってるよ、まだお前スターキャリアー・・・だっけか?やってんだろ?ユージーは元気か?」

ユージーとは所長の名前である。

「うん、ラックあまり長居は出来ない」

「お願いの話か?」


私は頷きラックの方を見ると奥の方から大皿に2つ並々と注がれたお茶の入ったカップを持つ少年のローライの姿が見え、座る2人の前にお茶を差し出し去ろうとした。

「待てローライ」とラックは呼び止め、続けて「お茶をもう1つ、お前も座れ」と指で指示を出し、小さく「ハイ・・・」という声が聞こえた。少年がお茶を片手にラックの隣の席へと座る迄の何とも居心地の悪い数秒は長く感じ、ただただ罪悪感しかない。


「お願いの前に」そう切り出したのはラックでその後に続く言葉を挟む様に口を開く他なかった。


「あの、その子は私の事知らなかったし私も格好が格好だから・・・責めない・・・ね?人もあまり寄らないようなこんな場所に魔獣の姿が見えたらさ」

「2つ、勘違いしてる。相手の力量の見極めの甘さ、戦闘経験も無いのに戦おうとしたんだろ、逃げ方も教えたよな?」

「ハイ・・・」

「あと、カペラに謝れ」


ローライは唇をグッとかみ締め睨む様に恨めしそうに頭を下げ、ラックは静かに軽くローライの頭を叩いた。


「カペラ許してくれ」

「別に怒ってないんだけど~・・・」


とても気まずい、早く要件だけ伝えて依頼元へと行きたい。だが、この状況を見る限りお願いは無理だと判断した。


「あの、ラックお願いの件だけど・・・やっぱりいいかなって」

「水臭いな言うだけ言え、言うだけならいいだろ?それにそんなに急ぎか?」

「急ぎ・・・まあ急いだ方が良いかもだけど」

「1日位足休めろよ、客部屋もあるんだぞ。1回も使った事ないけど」


いや、この状況で無理だよ。とも言えず、その言葉を聞いた隣に座っているローライも驚いた表情を見せている。

要件を伝えれば用事も無くなり、とりあえずこの場にいる理由が無くなり去りやすくなると踏み、依頼についての場所や目的、探索に長けている能力を持つ人物、今回の場合ラックに対して一時的な同行と協力をお願いしに来たことを伝えた。


「成程ね、まあ確かにあの広さだと並の探索知識と土地勘と探索能力はいるな」

「うん、ラック位しか思いつかなくて・・・」


というのも数多存在する勇者の中でもラックは特別変わっており、他の勇者に比べ探索に関しては最強を誇る。基本的な勇者のアビリティは等しく全体的に高いのが特徴だが、彼の場合そこまで長けた能力は多くないが固有する魔法や能力に関しては他の追随を許さなかった。


「探索なんか出来るやつ今だと結構居そうだけど?」

「居なくもないけど、誰もついて来てくれないんだよ」

「同族は?」

「現職として活動してる人少ないし辞めた人から探すの大変で」

「まあ理由はお前と一緒だろな、良くやるよ。回復特化で探索は経験だけだとまあそりゃ仕事長引くわな」


しばらく沈黙は続いた後、チラリとラックの隣に座るローライが気に掛かり見ていると、その目を追うように彼はローライを見て何かに気づいたように手を合わせ音を鳴らした。


「あぁ、そうか成程。カペラ、ローライを連れて行け」

「「えぇ?!」」


2人してガタリと椅子から音を出し立ち上がり、それを見て驚いたラックはお茶を飲もうとした手を置く。


「なんだよ」

「いや・・・なんで?」

「師匠、嫌です」

「ローライお前は少し黙ってろ」

「ラック、この子見た感じ10歳くらいの子でしょ?仮にも危険な場所には違いないんだよ?」

「お前の魔法能力があれば充分過ぎる位大丈夫だろ。それにローライにはかなり探索能力と捜索や察知能力や魔法使えるように教えてるし、そこら辺の探索使えるやつより断然使えるぞ、何よりローライにとっては実戦経験があった方が良い、結構良い案だと思うけどダメか?」

「ラックも来るんだよね?」

「いや、行かない」

「なんでオレがこんな奴と!」

「ローライ、仮にも俺達はお前らで言う"支配の龍"を倒してんだ。こいつはお墨付きだよ」


ローライは苦虫を潰したような顔でこちらを見つめ、かく言う私も不安が顔に現れていたのだろうか、ラックは「大丈夫だよ」と一言かけた。

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