死神の白魔法

世見人 白図

プロローグ 始まり

目の前に広がる丹碧の炎。

それはまるで砕けたガラスが散りばめられた様な、鋭く、しかし柔らかさえも感じてしまう程に美しかった。


まさかまたこの光景を目にする日が来るとは思いもしなかった。忘れもしないあの日、襲いかかった炎と同じ。

放った炎の残火を散らし、目の前に立つ龍は吐いた炎を纏い得意げな顔を見せ笑い、私を見て言う。


「怖いか?」


私達がくだしたあの日の龍との戦いと恐怖を今、この様な形で再び味わう事になるとは。


×××



無限の富”カラット”その様に呼ばれている大きな城塞都市。

大きな山を切り崩しそのまま街にしたような所で、外周と内周とで二つの門がある。街へ入ると傾斜は緩やかだけど、内周の門までは登る階段は多い。


この街で忌み嫌われる姿にある私は黒く長いコートを見に包み体を隠し、フードを深く被り顔を隠しながら内門を目指した。

忙しくて、騒がしい人の波を避け上層の街へ続く階段を上り内門まで足を進める。内周の城壁への入り口に着くと門番が立ち塞がり此方を睨み口を開いた。


「カードもしくは証明書」


自身を証明するカードは内周の街でしか発行されないカードがありそれを見せると街へ入れる。

街の組合や店の人間、住む人間等が持つのだがたまにしか寄らない為面倒でしかない。手渡したカードを見る門番は怪訝な顔で「弔い屋かよ、縁起でもねえ」と吐き捨てられカードを返された。慣れている。


内周の街は外周から入る街とは違い長閑で、景観が良く気品がある。街をしばらく歩くと大きな建物がそこらと並んでいる。その中でも一際丸くドームの様な形をした建物が目的地である。

中へと入り目的の部屋まで行くとその部屋は既に扉が開かれていた。開いた扉をノックし中へと入ると、丸々と太ったこれまた丸い眼鏡をした男が大量の紙を持ち部屋を徘徊していた。


「おお来たか、カペラ君」


大きい机に大きな紙の束をドンと置き椅子に腰掛け、近くの椅子を指差し手招きする。


「そんな格好で此処まで来たのかい?疲れたろう、ここに座ってお茶でも飲みなさい」


言われるがまま椅子に腰掛け、注がれたお茶を飲み干した。


「前にね、仕事しに来てた子がね亡くなっちゃってね・・・、悪いけどその子の仕事とその子の持っていた荷物を回収して欲しいんだ。仕事に関してはその子の荷物の中に入っているんだけど・・・どうやらここ以外の外部から仕入れた仕事らしくって詳しくは知らないんだよね」

「その量の紙を見ると相当仕事があるみたいですね、所長」


所長は言葉混じりにため息をつき「そうなんだよね」と吐き漏らした。


「人手が足らないんだよ、そりゃやりたがらないよ[スターキャリアー]なんて・・・、わざわざ死人の荷物を危険な所まで行って故人の品を身内に届けるなんてさ、ミイラ取りがミイラなんて言葉が外国であるが、まさにそれだよ」


フードの奥から睨む瞳が見えたのか、所長は言葉を続ける前に少し間を開け気不味そうに続けた。


「世界の恐怖から君達がいつかあの”支配の龍”を倒した時から、頭を失ったモンスター達は好き放題で以前よりやっかいになってきたり、いままで友好的に協力していた国同士が戦争始めたり・・・。本当にあれから世界は良くなっているのか、分からなくなってきたよ・・・」


「私は」と、それ以上言うのを止めた。

きっとこれ以上言うと自分の行いや今していることの意味を見失ってしまうから。

長い沈黙は紙の擦れる音、外の雑踏や呼吸の音を静かに部屋は響かせた。話を切り出すにももう依頼の話しかなく自ら話を切り出す。


「所長、亡くなった方の名前と荷物の場所と届ける人の名前は?」

「ああそうだね、えっと・・・星の名前は"リオラ"、場所は”トリル・サンダラ”の北東、この街に住む”フリル”という人に届けて欲しい」

「トリル・サンダラ・・・かなり広範囲ですね。わかりました、必ず届けます」

「そう言ってくれるのは君くらいだよ、カペラ君」


コートの中にある青い星のペンダントを握り締め誓った。

これが今の私の誇りだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る