第5話
ムロオカが路上生活者になったのは一年前。それまでは普通の会社員だった。
ムロオカが知り合いのコネで入った会社は限りなくブラックに近かったが、何より直属の上司に毛嫌いされたのが明暗を分けた。
日々、一つの間違いや失敗を百倍ほど責められ、事ある毎にデスクや椅子を蹴り付けられた。体調を崩し、会社を休みがちになってからは、数多の電話やメッセージで人格否定された。
気がつけばムロオカはアパートを飛び出し、公園で寝泊まりするようになっていた。
その上司、ハマグチのことは今でも夢に見て、悲鳴と共に飛び起きている。
多分、田舎の両親は警察に捜索願いを出し、自分を探しているだろうが、このままでは帰れない。悪夢とトラウマを
ムロオカは、ハマグチの退社後の行動を知り尽くしていた。子分みたいな社員らと共にチェーン店の居酒屋に行き、その後に馴染みのスナックへ行く。そしてその際はビルとビルの間の細くて雑然とした路地を抜けて移動するのだ。
ムロオカは路地にある雑居ビルの非常階段の2Fの踊り場に身を潜めていた。
銃を握りしめて。
午後9時を過ぎた頃、待ち人は来た。
路地に入ってきたスーツ姿の3人、その最後尾にハマグチの姿があった。
大柄で坊主頭なのは以前と変わらず、そのシルエットを見ただけで胃が重く感じ、指先が冷たくなる。
「それでも」とムロオカは口の中で呟く。
「それでも今の俺には、こいつがある…」
ハマグチ達が非常階段を通り過ぎる。
ムロオカは立ち上がり、見下ろすように銃口をハマグチに向け、息を止めると、引き金を引いた──。
破裂音と同時にハマグチが前につんのめる。肩口がみるみる血に染まった。
思わずムロオカが舌打ちする。
頭を狙ったのに外れて肩に当たったのだ。
もう一発撃つか!?と一瞬、迷ったが、ムロオカは直接攻撃を選んだ。
非常階段を飛び降りると、そばにあったビールケースを掴み、持ち上げる。
ハマグチらは事態を把握出来ず固まっている。ムロオカは駆け寄り、ハマグチの背中にビールケースを放り投げるようにして叩きつけた。
ハマグチの前を歩いていた2人は「わっ」とか「えっ」と声を洩らし、前方に見える大通りの明かりめがけて走り出した。ハマグチは地面にうずくまり、呻いている。走っていった2人は、すぐに警察を連れて戻ってくるだろう。
ムロオカはハマグチの脇腹を
ムロオカは走りながらハマグチが蹴り付けられた時に発した「ひぃッ!」という悲鳴を思い出した。その悲鳴を脳内で何度もリプレイする。知らず知らず口角が吊り上がった。
ムロオカは
to be continued.
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