第2話


住む家も家族も仕事も無くした男が、この雑木林に住み着いて、もう4年になる。

同じ境遇の仲間は男を「カワダ」もしくは「カワさん」と呼んでいた。


全てを無くした男・カワダの手の中には、一丁いっちょうの拳銃が有った。

それは決して洗練されたものではなく、所々に不格好な手作業の痕跡こんせきが見られた。

恐らくは、あのパーカーの人物がモデルガンをベースに制作したのだろう。

試しに雑木林にある木の一本を撃ってみたら、控えめな破裂音を発して弾丸が木の幹に深々と食い込んだ。

腹の底で、ふつふつと何かが沸き起こるのを感じ、カワダは笑い出したい衝動に駆られた。



その試射ししゃから2日後、そして前回の襲撃から3日後、カワダはブルーシートで作った簡易テントの中で、銃のグリップを両手で強く握りしめながら待っていた。

懐中電灯の光が近づいて来るのを。

同時に複数の恫喝どうかつの声も近づく。


「おォい! 居るんだろ!」

「すぐに“引っ越せ”つったろ!?」

「もしくは死んでクダサーイ!」


前回と同じ若者グループによる2度目の襲撃。カワダには威嚇いかく射撃による警告という選択肢はなかった。これまでの人生における不遇、不幸、理不尽がカワダの背中を強く押す。テントの正面に懐中電灯の光が当たった。カワダは弾かれたようにテントから飛び出す。照らされた懐中電灯の光に眼を細めながら、光源に向かって引き金を引いた。破裂音の直後、懐中電灯が地面に落ちて、あたりは一瞬で暗くなる。


地面に転がった懐中電灯を若者の1人が拾い上げ、それを持っていたはずの友人がいた場所を照らす。誰もいない。

そのまま懐中電灯を下に向けると、友人は地面に仰向けに倒れていた。

胸元は血まみれで、眼と口はうっすら開いていた。若者の1人が短く奇声を発する。

それと同時に若者らは我先にと来た方向へと脱兎だっとのごとく駆け出した。



雑木林はカワダとむくろと化した若者だけになり辺りは静寂に包まれた。

カワダは肩で息をしながら、暫しの間、若者らが逃げ去った方向を見つめる。

そしてゆっくり死体に目をやった。

これをどうするか…と考えた時、左側の暗がりから枝を踏む音がした。

カワダは慌てて音がした方に銃口を向ける。


そこにはカワダより一回りほど年下だが、同じように薄汚れた青年が茫然ぼうぜんとしながら立ち尽くしていた。




 to be continued.

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