CHAPTER:03 結成、リンカンパニー。

3.1 秋椿鳴千佳は蔦町家が気になる。

蔦町家は今、空前絶後の大事件が起きていた。

母さんが死んだ。その次と言っていいほどに。





凛香と、月吉が、私の前から消えてしまった。









CHAPTER:03.








夕方に目が覚めた。

夜中に寝て、夕方に起きる。

そんなバカな。と思いきや、そんなまさか。


「おばあちゃんやばい!へっ!?」


状況を理解しようと私の頭はフル回転する。


まず、


「学校はっ!?」


外は夕日が眩しく光り、空が焼けていた。


時計が指しているのは18時。


「な…、えぇ…。」


疲れていた、にしても寝すぎ。


「おばあちゃん!起きてる!?ねぇ!」


私は急いでおばあちゃんの部屋の扉を開けた。


「なに…、これ…?」


おばあちゃんとおじいちゃんは、二人で仲良くまだ寝ていたのだ。

夕日が窓から部屋に差し込んでいる。

そんな時間にこの二人は、晩御飯を作っているわけでもなく、お風呂に入っているわけでもなく、パジャマ姿で寝腐っている……。


ようやく、今の状況がかなり異常だということを感じ始めた。

誰かに人差し指で脊髄をなぞられているような、ゾワゾワと体が疼き始める。


「…!凛香は!?」


おばあちゃんとおじいちゃんの真ん中でいつも寝ているはずの凛香がいなかった。


「え!?うそ!?凛香!!?」


私はおばあちゃんの部屋をあとにして、部屋中を回った。


「凛香ー!!!どこーーー!?月吉ーーー!?」





何が起きてんの…?


外も、家の周りも、どこを探しても二人の姿が見当たらなかった。


20時。夜になってもおばあちゃんとおじいちゃんは起きてこない。

息はしている。しっかりと、寝てしまっている。


うずくまり、整理がつかない頭を必死に動かして考える。


夕方まで寝込んでいたのは、私とおばあちゃんとおじいちゃんだけで……、あとの二人の姿は忽然と姿を消してしまっていた。


さっぱりわかんない…!


誰でもいいから…、何が起きてんのか教えて……。



「困っているようだね。」


家の周りに設置していた照明が人感センサーに反応し、点灯した。

その光の奥から、学生服を着た若い男性が現れた。


「あなた…何?」


「僕は…、秋椿あきつばき秋椿鳴千佳あきつばきなるちか。珍しくて、その上長ったらしい名前だから、なかなか人に覚えてもらえないんだよね。」


「違うわよ…。勝手に人ん家の庭に上がり込んで、私に話しかけてきたあなたは何企んでんの?ってことよ。」


「疑っているんだね。今の現状の理由が僕にあるかもしれない。てね。」


「あなたなら、わかんの?」


その男は、学生服?のネクタイを緩め、肩から外す。


「多分。」


「あなた…誰?」


「やっと言ってくれたね。僕は高校生探偵、ってのに憧れてる探偵見習いってとこかな。」


高校生探偵と自称する秋椿は、縁側に腰を据えた。


「テレビ、付けてくれるかい?」


「なんで今?」


「君の知りたいことを見せてあげるよ。」


私はこの胡散臭い学生の言うことを聞くしか、他にできることがなかった。

リモコンを手に取り、テレビを付けた。


「どういうこと…、これ…?」


テレビには、映るはずのない人が映っていた。


「凛香…?」


凛香が女性に抱えられ、その後ろを月吉が追いかけている姿が、テレビに映っていた。


「人気アイドルグループ、セルメオのメンバーである宇和時那さんが東京の某ドームで来日ライブ中に誘拐された事件。現在も行方がわからなくなっています。ライブの参加者は4万人で、軽傷者が1055人。ドーム内で何が起きたのか、警察が捜査しています。犯人は未だ不明で、複数犯とみられています。」


「どういうことこれ!?見間違えようがない!私の妹と弟よ!!なんでこんなとこいんのっ!?」


「どうして、こんなところにいると思う?」


「あんた!なんか知ってんの!?」


秋椿と名乗る男はニヤリと、その言葉を待ってたと言わんばかりの顔で話をしだした。


「君が見ているその人達が、犯人だと僕は思っているんだ。」


「はあっ!?犯人って、え!?」


「新大阪駅でね、妙な人を見つけたんだ。その人は畑仕事で使ってそうな泥がそこかしこにくっついた軽トラにフラフラとした足取りで乗ろうとしていたんだ。新大阪駅に停めてあるにしては珍しいと思って、僕が手を貸すと不思議な事を言い始めたんだ。小学生が赤ん坊と狸を乗せて新大阪駅まで行ってくれって頼まれて、断ろうとしたが、気づいたらここまで送っていたと言うんだ。最初はボケてしまわれてるんだと思ってしまったけど、なんか引っかかってね。」


何言ってるんだこいつ…?


「どうやって改札を通ったのか、どう新幹線に乗り、東京へたどり着き、ライブ会場へ入り、出てきたのか。正直、まだ何一つわかってないんだ。あはは。」


秋椿は頭に手を当て、笑い始めた。


「アホ?できるわけ無いじゃない!!まだ月吉は6歳よ?野球にしか興味なくて、物静かでリアクションも薄いあの子が、赤ん坊を連れて東京まで行ってアイドルのライブ見てきた!?11歳の私でも無理よ!そんなこと!!」


「だよね。」


秋椿は顎に手を乗せて、再び話し始めた。


「じゃあ、君達は今まで何をしてたの?」


そこだ。

そこが一番わからない。

仮に凛香と東京行ってくるって言われてそんなの、私達が許すはずがない。


第一、何故起きなかった??


「さっきようやく月吉君と凛香ちゃんの家族が自分なりの調査でわかってね。家を訪れたら、君がその二人を部屋中叫びながら走って探していた。他の家族は、まだ寝てるのかい?」


「おばあちゃんとおじいちゃん…。まだ寝てるの…。起こしてこないと…。」


「ご老人がそんなに寝れる体力を持っているとは思えない。

君達三人は多分、何者かに気絶させられたんだ。そして、月吉君と凛香ちゃんをライブ会場へ向かわせた。僕の言っている犯人は、それをした人物のことだよ。」


「映ってたの…?さっきのテレビに…?」


君が見ているその人達が、犯人だと僕は思っている。

秋椿はさっきそう言っていた。


「凛香を抱えている女の人?」


スーツ姿で亜麻色の髪を二つにおさげしている女性。

この人に関しては全く見覚えがない。


「違うと思う。彼女は新大阪駅まで送られていない。途中で合流したんだ。」


「じゃあ…、他に誰が…?」


「まだ映っている人がいるだろう?」


「まさか…。」





映っているのは、残り凛香と月吉だけだった。




「何が言いたいの?」


「日和ちゃん。僕は探偵見習いだ。僕みたいな見習いの推理に確証なんてものはない。でも、憧れているんだ。僕の推理が正しいかどうか、この目で見たい。その手伝いをしてほしいんだ。」


「アホ?逆よ。あんたが私の手伝いするの。」


私は、その推理が外れていることをこの目で見る為に、こう言った。





「明日、行くわよ。東京に。」




「うん。手伝うよ。」









翌朝。

晴天に恵まれた青い空の下だが、私は何も恵まれてはいなかった。


母さんが死んで、父さんが消えて、次は妹と弟が消えて、私一人が取り残されてしまった。


本当ムカつく。

何なの、この家族…。


朝から私は家に塩をまいた。

呪われた家族を少しでも清め、今日一日の家族の無事を祈りながら。


「よし、準備できた。」


手についた塩を払い、秋椿にそう言った。


「うん。おばあちゃんとおじいちゃんの事は任せて。警察の知り合いがもうすぐ来てくれて、事情を説明してくれるよ。厄介だろうけど、仕事だからね。」


秋椿は、自分が乗ってきたバイクのエンジンをふかした。


「じゃあ新大阪駅まで行くよ。君のヘルメット、小さかったらごめんね。」


秋椿からヘルメットが手元に向かって投げられた。


「バカ!ブカブカだったらごめんね。の間違いでしょ。頭でっかちって言いたいの?」


「日和ちゃんは詮索が上手いね。」


私はヘルメットを被り、秋椿の後ろに座る。


「あと、秋椿って名前長くて言いにくい。」


「だよね。下の名前はどうだろう?」


「ナルチカ…かあ。ナルってのどう?」


「いいんじゃないかい。」


ブゥゥン!!


私が初めて乗ったバイクは、見ず知らずの高校生探偵の後ろ。

田舎町に似合わない紫色に鈍く光るバイクは、私を新しい世界へ連れて行った。

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