3,2 東京、再進出。


「東京…、ほんとに来ちゃった…。」


新幹線で2時間ちょっと。

あっちゅう間に東京に来てしまった。


東京駅丸の内駅前広場では、晴天から突き刺すような日差しが縦横無尽に移動する人々の頭上と、アスファルトを照らし、輝かせる。


私はグルグルと体を回しながら、丸の内周辺の高層ビル群を眺める。


「こんなに要るんか…ビル…。」


「おーい!」


広場に隣接された道路から、一台のバイクが入り込んできていた。


「高校生の財布には、東京のレンタルバイクはやっぱり荷が重かったかなあ。お金ほとんど無くなっちゃったよ。」


「…ありがとう。」


私はナルの後ろに乗った。


「さて、どこへ行くかだね。」


「え!?行き先決まってないの!?」


「ライブが終わってからの彼らの行動は把握できてないからね。あれから一日経過しているから、場所を転々と移動しているのか、留まっているかもわからない。」


「えー!どうすんのよ探偵なんでしょ!?」


「探偵見習いだよ…。僕に確実にわかる事は今日もまた何か一つ行動を起こすつもりだということ。彼らの行動には、目的の為に何かを用意したり、計画したりという周到性が見当たらない。計画性があるんなら、人を利用したり、見られたり、ニュースに映るくらいに大きくは動かない。詰めが甘すぎる。」


「バカばっかりしか向こうにいないってこと…?」


「それもあるかもだけど、時間もないんじゃないかな。焦ってるんだと思う。」


「何が言いたいのよ??」


「また今日、東京のどこかで何かやらかすだろうなってことだよ。」


ブルン!とバイクのアクセルを握り、私達は東京のど真ん中を駆け始めた。


ライブを開催したドームに行ったり、東京をグルっと一周したり、ジグザグに進んだりして、気づけば5時間が経った。




「いやあ。もう夕方だねえ。」


「いやあ。じゃないよ!!仰る通りよ!もう夕方よ!!」


霞ヶ関の各省庁のビルの間からは夕日が覗き、私達の体を茜色に染めている。


「闇雲にバイク走らせてたら会えるかなって思ってたけど、そんな簡単じゃなかったなあ。」


この人…、探偵見習いどころか、探偵もどきなのでは?

闇雲に事件を探してたら、それは警察や刑事の仕事なんじゃないのか…?いや、それも違うか…。


「お腹すいたし、とりあえずご飯食べに行こうか。夜になって、もう一度探して、それでもダメなら今日は帰るしか無いね。」


「え…?嘘でしょ!?ここまで来て!?」


「レンタルバイク一日借りるだけでも高いんだ。二日も借りたら借金だよ。」


「ちょっと…、私の弟と妹の命かかってるのよ!?助けてよ…。」


「………。」


ナルはしばらく真面目な顔をして、夕日を見た。

そして、やっと口を開いた。


「しょうがないか。」


ナルは私の前まで歩き、肩を掴んだ。


「今日一日楽しかったよ。日和ちゃん。」


「ど、どうしたの?改まって…。」


「僕、本気出そうと思ってね。」


「え…?」


ナルは革ジャンの胸ポケットから、あるモノを取り出した。


「お、やっと直ったみたいだね。」


「これは…?」


ナルの手のひらには、サルとイヌのような形をしたロボット?が2体ちょこんと座っていた。


「ワオキツネザルとボストンテリアのロボット。ドームに行ったとき、中を探して拾ったんだ。」


私はドームに行ったときを思い出す。

ナルは警備員に何かを話したかと思うと、中に入らせてもらい、粉々になった何かを集めて拾っていたのだ。

それ以外は拾っているところを見ていない。


「まさか…。粉々になってたあの破片!?」


私はサルとイヌのロボットを指差してそう言った。


「ああ。直したらこうなった。」


「どうやって、直したの…?」


新しく作り直すならまだわかる…。

でも、あの粉々の状態から作った?嘘でしょ?

サルかイヌかどうかもわからない状態だった。

私、からかわれてる?


「まあ、今の人類の技術なら直すのは難しいかもね。」


ナルはわけのわからないことを言いながら、2体のロボットを地面に置いた。


「君達の役目はまだ途中だろう?誰を守ってる?」


2体のロボットに向かって、ジリジリと迫るようにナルは言った。


日は暮れ、月が差し込み始め、淡い夜空が近づいてきた。


ナルの後ろ姿は、何故か不気味に感じる。

何をしているのか?何を言っているのか?

何を考えているのか?何を企んでいるのかわからない。


何者なのか?


ロボットは走り出し、霞が関の交差点を曲がった。


「ははは。やったあ!大成功!」


ナルはすぐさまヘルメットを被り、バイクに跨った。


「日和ちゃん、行こう!見つかったよ!!」


ナルは今までの余裕な表情とはうってかわり、珍しい虫を見つけた子どものような無邪気な表情に変わった。

ますます不気味なナルに、私は少し引いた。


「うん。行こう。」


私は、見つかったことに素直に喜べず、何も聞かずにナルの後ろに跨った。





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