2.6 転生された者達の魂の行方。


「速報です。人気アイドルグループ、セルメオのメンバーである宇和時那さんが、本日18時頃、東京の某ドームで来日ライブ中に、誘拐され、現在も行方がわからなくなっています。犯人は未だ不明で、複数犯とみられています。」



タクシーの助手席に取り付けられたテレビのニュースが目に飛び込み、じわりじわりと今日の出来事が、とんでもない犯罪だったと実感が湧き出す。

タクシーはもちろん、僕の『命』の能力で乗せてもらい、走らせている。


中継では、僕が『命』の能力で人の波を泳いでいる姿が映っていた。

人から人へ、手で渡されていき、出口へと導かれている。


大変なことになってしまった…。



「はあ…。」


ため息が漏れる…。

なんで、僕のところなんだ…?

なんで僕の家族は、こんな報われないんだ…。

母さんは死んじゃって、そのショックで父さんは行方不明になっちゃって、おばあちゃん家の田舎での暮らしにやっと慣れて来たかと思えば、今度は産まれたばかりの妹の体が、異世界の王子に転生されている?

妹を取り戻そうと、自分の性格をへし折り、変えて頑張った挙げ句、大々的にニュースに取り上げられちゃう程の指名手配にされてしまった。


「いやー有名人になったもんだなあ。」


僕の膝に乗るイファニは、梢さんに作ってもらったミルクを飲みながら、悠々とニュースを見て、ニヤついていた。


「お兄さん…。」


隣に座る女性、宇和時那さんはボソッと吐いた。


「ルカフ!!とうとう会えたんだ。今日は盛大に祝おう!」



「なんてことしてくれちゃったのよ!!」


ダン!!


時那さんは椅子を激しく叩いた。


「ル、ルカフ…。」


「転生した途端、右も左もわからない私をセルメオのみんなは優しく支えてくれて…、やっとこの世界の生活にも慣れて、ようやくアイドルしてる自分が好きになれたのに…。お兄さんが全部ぶち壊した!!私の努力を壊したっ!!」



宇和時那さんというアイドルに異世界から転生してしまった、ルカフさんはイファニの妹だ。


彼女はもう既に、宇和時那としての環境に馴染み、愛着を持ってしまっていたのだ。


「ルカフ!お前が仮にいくら宇和時那というアイドルが好きになっても、それは人の体であり、人生だ。本当の宇和時那はどこに行った?わたしのこの体の持ち主、凛香ちゃんの魂はどこへ行ったんだ!?その理由も理屈も、帰る方法もわからないわたし達が、無闇矢鱈にこの世界の人間と接触してはならん!」


「本当の…、宇和時那…。」


凛香に、宇和時那。

イファニとルカフさんが転生した瞬間、その体の持ち主の意識はどこへ行ってしまうのだろうか…。

本当に、凛香は戻るのだろうか…。


「まずはモトフィーバー家五人全員集まらないと、全員で!帰らないと意味がないんだ!どうして五人まとめて輪廻転生が行われたのか、なぜヴァンダグラムではなく、この異世界へと転生してきたのか。わたし達は一刻も早く知る必要がある!!」


「お兄さんはそうやって、いつも正論を並べて人の方向性を自分の方向へ持っていこうとしてきた。それ楽しい?」


「ルカフッ!!」


「や、やめてください二人共!!」


梢さんが兄妹喧嘩の間に入り、止めに入る。


作戦は成功したが、結果は最悪だった。


「わたしはこれから、長男、長女、三男3人をこの世界の中から掻き集めないといけない。その3人は、お前みたいに今いる環境に馴染もうと努力して、やっと馴染んで愛着が湧いているかもしれない。例えどんな形になってたとしても、その環境をぶっ壊して掻っ攫う。嫌な役目だが、家族の為であり、転生された人間のせめてものの償いだ。」


イファニは、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。


僕やルカフさんは、もう言葉が出なかった。


イファニの言葉はあまりにも残酷で、あまりにも正論すぎた。


僕らを乗せたタクシーは、40分くらい走り、ある場所で停止した。

そこは…、


「河童堂…?」


そう看板に書かれた温泉宿が目の前に建っていた。


「今日は本当に疲れた。ここで休息としよう。」


イファニをベビーカーに乗せた。


イファニの覚悟は本物らしい。

疑っていたわけじゃないが、言葉や態度の割に、人思いなところがある。

この人は、不器用なだけなんだと思った。


梢さんはルカフさんの手を取り、タクシーから優しく降ろさせた。


「あの…、宿でゆっくりできたら…、サインもらえますか…?うち、有名人に会うのって初めてなので…。」


「サイン練習中なの…。下手だったらごめんね?」


梢さんは相変わらずマイペースだ。

ルカフさんは、アイドルという職業を持った人間に転生してしまい、かなり苦労してきたみたいだ。


イファニも、ルカフさんも悪くない。


この二人の為にも、異世界転生の原因を突き止めたい。


僕は河童堂の玄関に入り、支配人に命じた。



「一部屋、お願いします。」



この温泉宿が、僕らの拠点であり、スタート地点となった。



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