1.5 モトフィーバー家の無敵能力。


「さあ。三つの質問に答えた。これよりお前から質問をするのを禁じる。」


イファニはようやく本題だ。と言いながら、テレビをつけた。


「少し複雑な話を長くする。余計な説明は省くが、しっかり聞くんだ。これが凛香とやらを元に戻すことにも繋がる。」


テレビには、とあるアイドルグループが映し出された。

何を見せようとしているのか?

このアイドルが一体何なんだ?


「このアイドルがなんだ?みたいな顔をしているな?」


図星を指された。


「わたしはどうも説明下手でな。いつも面倒なことをバスタに任せていたからでもあるのだが。結論から先に話すタイプなんだ。話の最中にツッコまれると、何を話そうとしていたか一瞬で頭から飛ぶ。意外とデリケートなんだ。いいか?話の最中にツッコミを入れるなよ?」


お笑い芸人のフリみたいなことを言われたが、そんなことをしてしまうと冗談じゃすまなくなりそうだ。

僕は首を縦に振り、話の続行を手で促した。


「このアイドルのユニット名は、セルメオ。韓国で活動している三人体勢の女性アイドルユニットだ。そしてわたしの妹がこの女に転生している。」


イファニは一瞬、右端に映る女の子を指さした。


「え?どれどれ?どの子!?」


踊っている最中なので、右端にいた女の子はダンスをしながらすぐ別の位置に入れ替わってしまう。

目で追いそびれてしまった。


「ほら、こいつだよこいつ!」


イファニはもう一度、女の子に指を指す。


「あー!じっとしてくれないとみんな同じ衣装着て、同じような顔だからどれが誰かわかんなくなってきたよ!!」


「なんでだよ!こいつだよ!これこれ!目がつり上がってるだろ!?奥二重の!」


イファニは左右に移動し、指で女の子を追う。


「これ!?これか??」


「違う!隣だ!!」


「隣ってどっち!?今真ん中だよ!!」


「バカ!片方は垂れ目だろうが!」


「あ!この人だ!!」


「そう!それだ!!」


ハアハアとイファニは息を切らし、タオルケットに転がった。


「このおしゃぶりをつけながら喋るのはなかなか顎が疲れるな…。改良してもらわねば…。」


「でもどうしてこの女の人が妹だってわかったの??」


「ああ、それはバスタが…。っておい!ツッコむなって言っただろ!!おかげで何言おうとしたか忘れたではないか!」


「ぼっちゃま。わたくしめがご説明しましょうか?」


ニュッとテレビの前におしゃぶりを付けた狸のバスタさんが現れた。


「何故、ぼっちゃまの妹、ルカフ様を探し当てたかを説明する前に、モトフィーバー家の人間には、モトフィーバー家の血を引く者だけが与えられる、ある超能力があります。それは『めい』と呼ばれる能力であります。」


「命…?」


「言葉で、人に命じることができる能力となります。」


「 わたしの能力は、以前月吉に見せたことがある。」


「え…?そんなの見たかな…?あ!」


気になっていたんだ。

あの時、僕が凛香の喃語を聞いた瞬間に起きた出来事…。


「僕に命じたのか…?おばあちゃんの頭をバットで殴れって!!」


僕は頭に血がのぼり、イファニに迫り寄った。


「僕におばあちゃんの頭をバットで殴れって!あの時命じたのか!?」


「あれは…、すまん。わたしの喧嘩っ早いところがつい出てしまった。わたしの悪いとこだ。あれは反省したよ。」


「イファニ様は昔からパニックになると、なかなか手がつけられなくなる習性がございます。そこでわたくしがあちらの縁側から上がり、事を収めたという経緯であります。」


本当に執事だ…。

狸になっても、常に見守っている…。

だからよく狸と目が合っていたのか…。

頭にのぼった血がスーッと引いていく。


「バスタが人間の姿だったら、格段に動きやすいのにな。」


「申し訳ありません。おぼっちゃま。」


何だか偉そうな感じの人達だけど、そんな人達でもここまで状況が悪いと流石に困ってしまっているらしい。


「ルカフ様の『命』の能力には弱点があります。それはまだ幼い為、自身の能力の全てを理解、掌握できていないことです。オンオフができないのと、他人から見ると能力が備わっているということがわかりやすく、まだ能力を制御しきれていません。例えば今セルメオが行っているライブ中継。もしルカフ様が転生されているとしたら、どうなると思います?」


少し考えてみた。

どうなる…?どうなるんだ?

ライブ中継を、じっくり見てみることにした。

歌って、踊っているが、日本語ではない言語だからか、全然何を言っているのかわからない。


「お、今の聞いたか?やばいぞー。」


「え?なんて言ってたの?」


「これはこの世界の韓国と呼ばれる国で使われる韓国語という言語です。先程の歌詞には『余計な枷は脱ぎ去って、さあ外の世界へ飛び出そう、ジャンプ!』と歌っております。引き込まず、自分のペースで感情をさらけ出していこうというテーマが含まれた歌でございますね。」


「よく知ってるなあ〜バスタ。」


「ルカフ様に関わることであれば、どんな事だろうと完璧に把握致しております。」


「んで、この歌がどうしたの?」


そう言った瞬間、急に僕の体がフワッと持ち上がった。


「……あれ?」


僕はシャツを脱ぎ始め、ズボンのベルトを緩め始めた。


「どうなってるんだこれ!体が勝手に!!」


「ははははは!!さあ外へ飛び出すぞー楽しみだ!」


「そういうことかっ!!」


やっと事の深刻さが理解できた。

モトフィーバー家の『命』という超能力…。

無敵だ!こんなことってあるのか!?


ついにパンツ一丁になってしまった僕は、そのまま縁側まで走り始めた。


「わーー!!やばいよ止めてー!!」


僕は柱にしがみついた。

しかし強烈な引力が、僕と柱を引き剥がし、外へ押し出そうとしているのを感じる。


「オンオフが聞かないってのは、そういうことだ。向こうがこうしたいって呟くだけで、聞いた奴は全員命じられたと認識し、行動に移してしまう。わたし達はモトフィーバー家の人間だから能力を相殺し、効果は無くなるが、これを聞いてるやつはたまったもんじゃない。室内にいるやつは全員無差別に今頃外に飛び出す頃だ。裸になってな!」


イファニはテレビのチャンネルを変える。


「速報です。全国各地で下着姿のまま、外を徘徊する若者が相次いで報告されています。」


ニュースキャスターが真面目な顔をしながら、とんでもないことを口にしていた。


「はっはっは!な?わかりやすいだろ?間違いない。ルカフはあの女に転生している。」


なんてことだ。

こんな能力が現実に…、それも誰にも知られていないなんて…。


「月吉、こっちに来て服を着ろ。」


イファニの声を聞いた途端、強烈な引力がピタッと無くなった。


「すごい!」


「だろ。わたしのは正確にコントロールが効く。」


「話を戻しますが、我々の目的は転生し、各地へ散らばった残りの王子と王女4人を捜し出し、共にヴァンダグラムへと帰ることです。別世界への転生という異例の原因を突き止め、ヴァンダグラムへと帰ることができれば、凛香ちゃんもきっと、元に戻ることができるでしょう。」


「わたしにも妹がいる。約束しよう。この体は今、借りているだけだ。必ず凛香ちゃんに返す。」


僕は服を着ながら、二人の意志をひしひしと痛感した。


「わかった。協力するよ。でもそのルカフさんを取り戻すなんてどうしたらいいの?」


「明後日、セルメオは東京で緊急来日ライブを開催する。その時を狙う。その為にはお前の力が必要だ。」


「東京!?ここ大阪だよ!?どうやって行くの!?」


「新幹線とやらの乗り物に乗る。一度乗ってみたいと家にある図鑑を見て思っていてな。実に楽しみだ。」


「新幹線なんて…、お金もないし、僕たち三人が改札通ることだって難しいよ!!」


いきなり前途多難な話だった。


「わたしを誰だと思っているんだ?」


イファニはクッションにもたれかかり、自身の口を指さした。


「乗せろ。この三文字で解決だ。」


……。実に簡単な話だった。


「明日、新幹線に乗る。今日は各自、ゆっくり休め。」


イファニはそう言った途端、タオルケットにくるまり、目を瞑った。

そしてすぐさまグースカと音を鳴らして、寝てしまった。


「ぼっちゃまも慣れない体で疲れております。わたくしも一旦ここを去り、明日の朝6時にここへ戻ってまいります。月吉様も頭がいっぱいでしょう。早めにお休みになられてください。では。」


バスタさんはそのまま縁側を出て、森の方へ消えてしまった。

空はもう暗く、カエルの鳴き声が聞こえ始めた。


座布団を折り、枕にして寝転がり、今日聞いたことを頭の中で振り返る。






「……、強烈すぎるだろ…。」




風鈴は、風が止み、もう鳴らない。


初夏、僕のキャパは無視され、凛香と僕の人生を賭けた人探しの旅は始まろうとしていた。






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