第9話 親子丼

「律さん達はいつ戻るんだ?」

「律はもうそろそろ、誉はまだ時間がかかるらしい。」

「誉に早くテイトの事紹介したいな!」

「そうだね。」



……雨子と大和。



「あ、テイト起きた。」

「おはよう、よく寝てたね。」



フカフカのソファで寝ていたみたいで、向かい側で話す2人が俺を見る。



「……おはよう。」



体がめちゃくちゃにダルい。起き上がれず、重い瞼を必死に開ける。



「何か食べる?」

「腹減ったなー。油淋鶏食べたい。」

「まだ食べるの?」

「さっきのは準備運動だ。」

「はぁ……。」

「ごめん、まだ眠いかもしれない。」



「そりゃ雨子の心器使ったんだから、そうなるわ。寝てていいぞ。」

「でも体力消耗しすぎだから、何かは食べようか。」



目が覚めて、誰かがいるのって、なんだか凄い嬉しい。けど眠い。



「雨子の得意な目玉焼きでいいんじゃね?」

「目玉焼きなんて誰でも出来る。もっと手の込んだ料理も作れる。」

「意地はんなって。」

「……はぁ_。」



大きなため息をつくと、雨子は台所の方へと行った。



「テイトもお疲れ様だな。雨子の心器はめちゃくちゃ強いから、体への負担が半端じゃない。半日寝てるだけで、起きれるお前がすげーよ。」


「そうなの……俺何も知らないから、分かんないんだけどさ。」




「まず心器を自分以外に渡す行為が、命懸けなんだ。自分の心臓を外に剥き出しにするのと同じ状態だからな。ましてやそれを他の人に渡すってことは、自分の心臓がどうなるか分かんないだろ?」



つまり雨子の心臓は、俺が使い方を間違えれば死んでしまうってことか。


「でも俺、大和みたいに武器に出来なかった。」


「え、武器にしてないのに、アイツらに勝ったのか!?」


「うん、全員素手で殴った。」


「…………そうか。」




大和が黙り込み、何かを考えていた。暫く固まった大和を見つめているといい匂いがしてきた。




「ん〜……じゃあ、具現化の仕方を覚えないとだな。」


「俺も大和みたいな、かっこいい弓がいいな。」

「それは無理だな。」

「えー」


「それぞれ、一人ひとりの心には特性があってな。なかなか同じ心器を持つ人には会えない。」

「じゃあ、雨子の特性って何?」

「あれは特殊。ま、あれが初めて見た心器なら勘違いするよな。でも普通は何かしら武器になるからな!」


「じゃあ律さんは?」


「律さんは短剣。そんなに強くないって言って滅多と依頼には出向かないけど。めっちゃ頭が良い。」

「へー」


「テイトがまず、始終者しじゅうしゃかどうかが気になるな。」


「始終者って何?」



初めて聞く言葉だった。また知らないことが増えていく。




「始終者っていうのは、俺達みたいな感じのことを言うんだ。心臓を、武器として戦う人の事……つまり、心器に出来る者のことをいうんだ。」


「それってどうやって分かるの?」


「自分の心臓を、手のひらに出すイメージってできるか?」


なんだそれ、難しすぎる。重い体を起こして、手の平を見つめる。




心臓、出てこい。




「……したよ。」


「アホか、詠唱しないと出てこないぞ。」


「何って言えばいい?あと、さっきから質問ばっかりでごめん。」


「気にすんな。下級層の当たり前が、上級層での当たり前だなんて思ってないから。」


よく見てろよ、と大和が言うと






「我が心の臓よ、この手に穿て_______」





大和の右手に、暖かくてあんまり眩しくない光が集まる。




「……これが心器か…………。」


見るのは2回目だが、やっぱり綺麗。俺も欲しい。



「そ、今俺の心臓は俺の体には無い。レントゲンで撮ってみな。」


「レントゲンなんて持ってないよ。」


「そうか!」




アハハと笑う大和。



「心器が出せなくてもショック受けるなよ、この世の10%の人しか心器を出せないと言われてるからな。」

「でも、俺が見てきた下級層の人達は、皆心器を使ってたよ。」

「そりゃ、心器を使える人が事務所に入るんだからな。心器を使えない人は事務所に入んないよ。」


弓を小さくしたり大きくしたり、自由自在に扱っていた。羨ましい。俺も使えたらいいのにな。


「じゃあもし、俺が心器使えなかったら、どうすればいい?」


「仮想での仕事をしてもらおうかな。」



はい、ご飯。と言い、お盆に乗った親子丼を俺に差し出してくれた。フワフワで美味しそう。



どんぶりと箸を持ち、ひとくち食べる。


「俺の分は?」

「はい。」

「いただきます!……うまい!!」

「うん、美味しい。すっごく美味しい。」



俺よりも、ふた周りほど大きいどんぶりをかき込むようにして食べていた。




「雨子は食べないの?」

「さっき朝ごはん食べたばかりだから。」

「こいつ、意外と重いこと気にしてんだよ、あんまり言ってやんなテイト……いでっ!!」


ゴッ!!!!


大和の余計な一言で、雨子の鉄拳が大和の

頭に落ちる。


確かに、この前雨子を背負った時、重いと思ったけど……言うのはやめておこう。




目の前の親子丼をひたすらに食べる。美味しい。




「心器が使えなくても、私達は絶対にテイト君を見捨てたりしないから。」

「ありがとう……」



「律さんも、心器が使えないからって、追い出すような人じゃない。テイトは雨子の命の恩人だから絶対気に入ってくれる!」



とても不安になっていたが、2人の話を聞き、少しだけ泣きそうになった。たった一度だけ、雨子を助けただけで、ここまで迎え入れてくれるなんて……



「ご飯食べ終わったら、特訓してみる?私の心器を使って、具現化出来るかどうか。」


「お、いいな。」


「じゃあ、裏庭でしようか。」


「俺が洗い物するわ。」


「よろしく、私は準備してくる。最近草刈りしてないでしょ?」

「最後に誉が草刈ってたな……半年前か?」

「……やっぱり私が洗い物と洗濯するから、草刈ってきて。」

「り。」



話しながら器用に食べ進める大和は、俺よりも倍の量を食べているのに、もう平らげた。




「テイト君はゆっくりでいいからね、食べ終わったら台所までお皿持ってきて。」




雨子は、大和の空になったどんぶりと箸をお盆に乗せて台所の方へと行った。



大和はタンクトップと短パンに着替え、麦わら帽子を被った。



「うっし……雨子ー!軍手と袋どこ?」


「タンスの1番下に軍手、袋は台所のカゴの中。」


「あいよー」


「タオル持って行って。汗かくよ。」


「ういー。」




大和は裏庭へと歩いていった。



親子丼を食べ終え、台所に持っていく。




「はい、これテイト君の服。」




綺麗に畳まれた白い長袖のシャツに短パンを雨子から渡される。


「私見てないから、リビングで着替えていいよ。」

「別に見られてても気にしないけど……分かった。」



着ていた服を脱ぎ、ソファに畳まず置いた。渡された服を着ると、シャツとズボンに名前が貼られていた。



「…大和の服?」



"小柴大和"と書かれている。



「大和と私が下級層の学校に通ってた時の服。だから、名前が書いてあるの。気にしないで。」


「下級層にも、学校があるんだ。」



下級層は、とにかく印象が悪いように教わっているから、勉強する場所がある事を知りびっくり。


「心器を使える人が通える学校と、一般的な学校の二種類があって、私と大和は、心器専門学校しきせんもんがっこうの小等部、中等部を卒業してる。」


「ってことは、高校入ってないの?」


「心器を使える人は、中等部でスカウトが来た事務所に行くの。上級層のように高校まで行くのが当たり前って訳じゃない。


私と大和は元々ラヴァーズに所属してたから、卒業する前から働いてたし、就職もラヴァーズ。

心器を使えない人は、基本的に高等部まで行く。ちなみに大学部もある。」


「へぇー……、下級層でも仕事ってあるんだ。」



「下級層には協定地域があるの。

A地区、R地区、S地区の3つは、上級層のようにルールが存在して、平和な場所。警察もあるし、病院もある。上級層とほとんど変わらいない。

でも、ここはC地区だから、危険。たまにこの家も攻撃される。事務所は3つの地域以外に設立されるよ。」



冷蔵庫に貼ってあるホワイトボードに絵を描いて説明してくれるが、字は綺麗なのに絵が下手すぎて何が何だか分からない。雨子が頑張ってくれたから、何も言わないでおこう。




「学校か……俺、全然行けてなかったな。」



学力がついて行かなくて、世話好きならクラスメイトに迷惑をかけていた。あの時の友達元気かな……。



「…私は下級層の学校に……良い思い出は一切無い。」


「そんな事言うなよ〜……学校行けていいな……。」


「……大和が待ってるよ。」


「あ、急ご。」


「はい、鎌と軍手と帽子。」


「ありがとう!」


「後でお茶持ってく。」


「はーい。」




靴を履いて大和を追いかけた。

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