第7話 私の好きな人

「助けに来てくれて、ありがとう。蕪菁さん。」




私の愛して愛してやまない雨子ちゃんが、お礼を言いに来てくれた。





「えっと、雨子ちゃん、可愛いわね。好きよ。大好きなの。無事でよかったわ!」


「ちょっと豆矜……雨子引くよ。」


「あらヤダ!私ったら……」



雨子ちゃんを前にすると平常心が保てない。口走ってしまった先程の言葉に恥ずかしくなって顔を手で隠す。


ちらりと指の隙間で雨子ちゃんを見ると……




「真顔っ!!!そんな所がもっと好き!!!」

「ははは」

「その感情のこもってない笑い方も好き!」


「陽、助けてくれてありがとう、涼紀からある程度話は聞いた。」

「相手にしてくれない所も好き!」



「豆矜…もうやめてってば…、それより、なんで雨子も倒れてたの?」


「あの建物崩壊したでしょ?落下する時、大和にテイト君が抱きついて、為す術なく大和が下敷きになってくれた。」

「なってくれたって……大和君可哀想だね。」

「そのおかげでテイト君は無傷。私は軽傷で済んだの。」

「うわ……同情するね。大和君に。」


「それだけじゃないだろ?」


赤髪で体格の良い、斬兵さんぺいが雨子ちゃんの隣にドンッと座り、覗き込むように来て聞いた。


「……心契りをしたら、力を一時的に持っていかれて気を失ってた……」


「え!?」






心契りをした……_________?






自分の命を他人と結び付ける行為を、心契りという。



「まさか、その相手って、テイト君?」


陽が聞く。


「ええ、テイト君。」


「……なんで、そんなことしたの??」


「私の心を……上手に使ってくれると思ったから…………それだけ。」



話を聞いていた一同全員が驚きのあまり言葉を失う。陽だけは淡々と雨子ちゃんに質問していた。



「……そっか、雨子がいいなら、別にいいと思う。」



「だ、だめよ、絶対だめ!!!今すぐ契りを解いて!!」



私の大好きな雨子ちゃんの命を、他人と共有するなんて、少し許せない。





「雨子ちゃんも、心契りを分かってる!?テイト君が死んだら、雨子ちゃんも死ぬってことよ!?」



「私はそんなに弱くない……ただ……、力のない彼が、下級層で生きていくためにどうするべきかって考えたのが、これだった。」


「豆矜……雨子は命を共有するって覚悟をしたんだろ?俺らが言ったってこの女は聞きやしねーよ。」




斬兵が雨子ちゃんの頭をポンポンと叩くが、私は納得いかない。




「……でも、蕪菁さんだって心契りをしてるじゃないか……涼紀と桃と……だったか?」


「私が何年も妹のように可愛がってる2人なのよ。だから、雨子ちゃんとは訳が違う。」


「……そう。」




聞く耳を持っていないかのように、私の話へとすり替えようとしてくる。


「そんな重く考えないで、助けてくれてありがとう。私はもうそろそろ帰るよ。」



パシ……


テーブル越しに立ち上がった雨子ちゃんの腕を掴む。




「あんな弱そうな彼に、そこまでの価値があるのか、私には理解できない。事情は知らないけど、今すぐ解きましょう。」



「頑固な雨子が聞き入れると思う?」



麦香が私を落ち着かせるように、両肩をポンポンと叩く。





「……心契りは、6つの心器があれば、外部の者が繋がりを断ち切らすことが出来る……そうよね?」






自分に本意はなく、契りをしてしまった場合、6人の心器で囲み、契約を解消することが出来る。






「……まさか解消をしようと?」


「豆矜もいい加減にしてよ。雨子が決めた事なんだよ。」


「私は納得出来ないわ。」


「……断固拒否、もう話は無い。2人を連れて、帰る。」




雨子ちゃんの腕で払い除けられる。


「待って、レベリオンの長として_____」







「大和が暴れて傷口が開いて………あ、大事な話してた?」





事の現況になっているテイト君がノコノコと来た。



「なんでもない、大事な話しでもない。もう帰ろう。大和の傷は私がラヴァーズで治す。」




立ち上がろうとした雨子ちゃんを飛び越え、テイト君の喉元に無詠唱で具現化させた剣を突き立てる。




「え、」

「ちょっと、豆矜!!それはやりすぎ______」




驚くテイト君を押し倒し、刺さらない程度に剣を首に押し付ける。






「笑えないわ。」




雨子ちゃんの低い声が、緊張感の走る室内に響くと同時に手をクロスにし





「!!」




雨子ちゃんの心器の中に閉じ込められた。まさか心器を使ってくるとは思わず、油断した。





「え、え?何が起こってるの?」

「……」

「はぁ……今のは豆矜がわりーよ。」



「他の事務所の人間にどうこう言われる筋合いは無い。私はレベリオンと関係が悪くなろうがなんだろうが、関係ない。私の仲間を殺そうとするなら、容赦しない。」




「……雨子、僕らが悪かった。だから豆矜の解いて。」




陽が雨子ちゃんのクロスをした腕を掴み、無理やり心器を解いた。



こんな酷い雰囲気にテイト君が困惑していた。




「………もう帰る。依頼のお礼は、律から行くと思う。」




テイト君の腕を掴み、雨子ちゃんは大和君の元へ行ってしまった。





「……豆矜らしくないね。落ち着いてから雨子に謝るんだよ?」



麦香に言われ、少し正気に戻る。



「……はぁ、私は雨子ちゃんの為に……」

「それは豆矜の、エゴ。」




陽に頭をチョップされた。

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