第5話 レベリオン
「はぁっ、はぁっ……」
山積みになった男たちと、ぐったりと横たわる雨子と大和を交互に見つめる。
「どうすればいいんだ……」
目の前の光景への対処法が全く分からず、ぼーっとする。
先程まであった痣のような刺青のようなものは消えていて、体も重くなった。手は痛むし、眠たいし、もうどうすればいいんだ。
大の字になり、雨子の横に寝転ぶ。
「はぁ……起きてよ……。」
こんなこと言っても起きる気配はない。
夕焼けが綺麗だな……
「おーい」
「うわぁっ!!!!」
「うわあっ!」
突然誰かに目を隠され、飛び起きる。俺の声にびっくりしたのか、その誰かも飛び跳ねる。
「きゅ、急に大きな声出さないでよ!」
「え、あ、ごめん。」
「はぁ、びっくりした……。」
なんで俺が謝ってるんだ。
よいしょ、と言いながらソイツは立ち上がり、俺の方に歩いて来た。
身長はそんなに高くなく、黒髪で前髪は真ん中で分かれている。目がデカく、鼻が小さい。もみあげ部分が金髪になっている。女にも男にも見える中性的な見た目をしていた。
「君が雨子と大和君をボコボコにしたの?」
「違う、俺のせいで2人とも怪我しただけだ。」
「えーっと、じゃあ2人の仲間ってこと?」
「うん。」
「へぇ、ラヴァーズに新入りか〜、よく大和君が許したね。」
「?」
「大和君ってだいぶ難しい人だからさ、君の事を認めたって信じ難いな〜」
突然俺の腕を引っ張り、無理やり立たせられる。
「で、どうやって2人倒したの?」
グッと力を入れられる。ゴリラかと思うほど力が強く、ミシミシと肉が締め付けられる。
「いっ」
「雨子が襲われたって聞いて様子見に来たけど、君1人だけ元気なの明らかにおかしいでしょ?大和君まで結構な怪我だし、何したの?」
真っ赤な目が俺を捕える。
「だから、俺は______」
言葉を発しようとするが、喰われるかと思うほど、獣のような目をしていたため、怯む。口元は笑っているが、目はガチだ。
「陽、その手を離して。今すぐに。」
「
「もう、勝手に行かないでって言ったでしょ?」
焦っていたが、ピンクのふわふわした頭の人が俺を庇うように真ん中に入ってくれた。握られた腕が赤くなっていた。
「あぁ!!!雨子ちゃんが大変っ!!」
倒れる雨子を見つけると、優しく抱き起こして、ぎゅっと抱きしめる。
「大変、ゴーグルから血が出てるわ、腕にもっ!!陽、今すぐ2人を連れていくわよ!」
「え!?嫌だよ、雨子はともかくら大和君もなんて……それに、まだこの人との話が途中だし……」
「ねぇ、陽。私ここへ向かう前に、ラヴァーズに新人が1人入ったって話をしたわよね?」
「え……」
「律から、着心きた時、隣にいたでしょう?」
「あ、あ〜、そ、そうだったね。」
「話をしっかり聞きなさい。」
ベシッと背中を叩かれ、先程まで俺に殺気むき出しだったコイツは別人かのようにヘコヘコしている。
「テイト君だよね?陽が無礼な事をしてごめんなさい。私、ラヴァーズの事務所長と友人なの。レベリオン事務所長の
だから、貴方のことは聞いてたわ。ほら、陽。テイト君に謝りなさい。」
「さっきはごめん、手痛かったよね?」
「……う、うん大丈夫……」
獣から子猫のように従順になった。悪い奴ではなさそう。
「私の手、冷たいから少しでも傷みが引くといいな。」
ピンクの髪の人は、優しくニコニコしながら、俺の赤くなった腕に手を当てた。
「ごめんなさいね、私情なんだけど、雨子ちゃんが重症だって聞いて、いてもたってもいられなくって、勝手に来ちゃったの……でも、来て正解だったわ!」
慣れた手つきで雨子と大和の怪我に包帯を巻いていく。
「あぁ、こんなに可愛い雨子ちゃんが怪我しちゃって……誰よ、傷付けたゴミクズ野郎は……。」
大和の心配は一切無し……どうやら雨子のことが好きみたいだ。
「ほら、あそこで寝転がってる人達じゃないかな?アイツら、事務所に所属してないフリーだし、ラヴァーズに手を出そうなんて……彼らの恐ろしさを知らないんだろうね。」
「よくも、私の大事な大事な
「任せて、僕が追い討ちしてくる!」
完全に2人……いや、雨子合わせて3人の世界に入り込んだ彼らは、俺の事なんて見向きもしない。
「ねえ、起きて。」
「うぅ……」
「起きてってば。」
ドサッ
「うっ!!」
「やっと起きた。」
軽々と大男を持ち上げ、背中から落ちるように投げる。起きた男は苦しそうに咳き込んでいた。アイツ、俺が足を刺した人だ。
「雨子をなんで襲ったの?」
「!…その紋章…なんで、レベリオンのが……」
「僕が話してるんだけど。」
「があっ!!!」
陽君の服のマークを見て驚いていたが、陽君は容赦なく敵の背中に足を置いた。男にしては小柄なのに、力が強すぎる。
「で、なんで雨子を襲ったの?」
「はっ!言うわけねぇだろォ!?」
「……僕、あんまり待てない性格だから、もう1回聞くね?」
「グウッ!!」
容赦なく足に力を入れてグリグリと地面に押付けていた。痛そう。
「今ここで死ぬか、少しでも長く生きるかどっちがいい?」
「はっ、俺達も依頼を受けてんだ。そう簡単に言えるかよっ……うっ、あっ!グゥっ!!」
「……ねぇ、豆矜。もう殺っていい?」
「待って、テイト君が怯えてるわ、私に代わって。」
雨子を優しく地面に寝かすと、陽君が踏み倒す男の横に膝を着いた。
「私はレベリオンの長、蕪菁豆矜よ。」
「!!」
「貴方達は依頼に失敗したから、もうすぐ存在を消されるでしょうね。」
「ふっ、脅しか?」
「ええ、脅しよ。だけど、私なら貴方を救うことも出来る。私が新たな依頼を貴方に提供することで、先程の任務を放棄し寝返ることが出来るわ。」
「……レベリオンとしての依頼をくれるってことか?」
「ええ、だけど、何故雨子ちゃんを襲ったのか……その理由だけは聞かないとね。」
「……」
「ねぇ、教えて。何故鳳梨雨子を殺すのではなく、拘束する依頼だったの?」
「………俺達の身柄を守ってくれる約束ができるのなら、教えてやってもいい。」
「え?何この人、今はどっちの立場がどうなのか理解してる?」
「陽!……ええ、約束するわ。私の気が許す限りは。」
「……依頼者は匿名だ。だが、この依頼が成功したら、上級層で暮らすことを約束すると心契りを依頼者とした。」
「上級層で……?そんな契りができる人間なんて」
蕪菁さんは何か考える素振りをするが、男の様子が途端に変わった。
「がっ……ううっ!!!」
心臓部分を抑え始め、陽君が驚いて足を背中から退けた。
「何こいつ……」
「もしかして、黙秘事項を話したから……心崩しが……」
「豆矜、離れて!!!」
陽君が蕪菁さんを抱えてその場を離れる
バチュッッッッ!!!!!!!、
破裂する音と共に、男たち全員の心臓が爆発し、辺り一面血の海と化した。
「ひっ!!!」
俺にも血が着いた。
「……陽、とりあえずこの場を離れるわ。危険な予感がする。」
「分かった。ねぇ、テイト君。僕が大和君を運ぶから、君は雨子を背負って着いてきて。」
「テイト君、できるだけ急いで、もう時期依頼者が全ての痕跡を消しに来る筈よ。」
「え、えぇ?」
「心契りを破ったら、命は無いわ。上級層での暮らしを提供しようだなんて……その話が本当だったら、関わってはいけないほどの組織よ」
蕪菁さんと陽君はフードを深く被り、俺の下がっていたフードも深く被らせた。
「疲れてると思うけど、急ごう。レベリオン事務所まで案内するわ。」
「君ゆっくりだね、もう僕が2人とも運ぶ。」
大和を右肩に、雨子を左脇に抱えた陽君と、足の早い蕪菁さんに必死について行った。
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