第3話 初めての戦闘
「――きて、―くん、起きて――テイトくん!」
「んあ……。」
「乗り心地いいだろ〜俺の心車!」
体を揺すられる。俺寝てたのか。
「ここからは、歩いて行くから。」
雨子が心車から降りて手を差し伸べてくれる。手を掴み車から降りると、視界を黒く染めていたヘルメットが消えた。
「あれ、ヘルメットどっか行った。」
「私の心で作ったやつだから。もう消した。」
「そんなこと出来るの!?」
「まあ、特殊だからな。俺たちは。」
「す、すごい……」
「じゃあ、二手に別れるか。テイトは俺に着いてこい!」
走っていく大和を追いかけようとするが、雨子が立ち止まったままだ。
「雨子?行こうよ。」
「…大和と行ってて。」
「雨子は大丈夫だから、ほら、行くぞ。」
戻ってきた大和に腕を引かれるが、女の子1人で大丈夫なんだろうか。
「雨子、何かあったら、叫んで!すぐ行く!」
「…分かった。」
そう言い、雨子と離れ、大和と一緒に目的地へと走った。何度振り向いても、雨子は動き出す素振りもなく立ち止まったままだ。
「テイトってさ…めちゃくちゃ優しいよな。」
「え?」
大和と隣に並んで走っていると、話しかけられる。
「ほら、雨子のこと気にかけてるからさ。」
「だって、雨子女の子だろ?」
「へー、雨子喜んでるだろうな。」
「なんでそんなことが分かるんだ?」
「なんとなく。」
大和は足が早く、ついて行くのがやっとなのに、話しかけてくる。
「雨子ってさ、声低いし、顔隠すし、性格も結構サバサバしてて、俺と誉はあんまり女の子扱いしないからさ、」
「…はぁっ…………」
「多分、めちゃくちゃ新鮮なんだろうな、雨子にとって。」
「はぁっ…はぁっ………」
「あ、ごめん。疲れた?」
「少し…、疲れたっ……。」
大和は俺の歩く速さに合わせてくれた。そして、俺の腕を引いて立ち止まり
「ん、水飲みな。」
リュックから取り出した水を俺に渡した。ありがたく受けとり、ごくごくと水を飲み干す。
「いい飲みっぷりだな!じゃ、走るぞ!」
「え!まだ走るの!?バイクはダメ!?」
「バカヤロウ!心車は自分の心臓丸出しにしてる状態と一緒なんだぞ!もし狙われたら俺が死ぬわ!」
大和は、俺のように息切れもしてない。体力が有り余っているんだろうか。羨ましい。
「……いきなりで困るよな、死ぬかもしれない場所に連れていかれるってさ。」
「えっと……うん、びっくりはしたけど。」
「少し休んでくか。」
大和が気を使ってくれた。地面に座る。
とりあえず頭を整理しよ。俺は今、雨子を攫おうとした人間を捕まえるために、大和といるんだ。
「あ、雨子狙われてるのに、一人にして大丈夫なの……?」
思わず立ちあがり、走ってきた方向を見つめる。
「大丈夫だ、テイト。雨子は、弱くない。」
「でも、俺が会った時、雨子は怪我してた。」
「…その件はよく分からんけど、雨子は大丈夫だ。信じてやってくれ。」
「……うん、分かった。」
大和は、俺よりずっと雨子と一緒にいるんだ。雨子のことをずっと知ってる。
「よっし、行くか!」
全く休憩は出来なかったけど、大和に着いて走った。
______________________
「もしもし、誉?」
『どうした?』
「あのね、事務所に1人新しい子入った。」
『そうか、大和はどうだ?』
「大和は、すごく気に入ったみたいで、今一緒に、アイツら追ってる。」
『…大和が……。』
「いつ頃戻れそう?」
『律はもうすぐそっちに戻れそうだが、俺はもう暫くかかる。』
「ふーん。」
『誉、誰と話して…雨子か?久しぶりだな、元気か?』
「うん、元気。律も元気そうでよかった。」
『あぁ、若干寝不足だが、元気だ。』
『は、お前いつも寝不足じゃねぇか。変わらねぇだろ。』
『やかましい男だな……。』
『はいはい。』
「…2人とも長期依頼だから、こっちのことは、私に任せて。」
『あぁ、お前がいるから心配してない。』
「……、あのさ…できるだけ……―。」
『ん?』
「やっぱりなんでもない。じゃあね。」
『じゃあな。』
雨子は、誉に電話をした。内容は、テイトが事務所に所属したという簡単な内容だ。
電話を切り、ため息をついた。
「ふぅ…。向かうか。」
雨子はフードを深く被り、深呼吸をした。
――――――――
「はあ、はぁ、っ、はぁっ……」
「だ、大丈夫か、テイト……」
大和が心配になるくらいに俺は体力がないらしい。
「あと少しで、目標地域だから、もう少し頑張れるか?」
「え……」
もうすぐ着いてしまうのか……
「…俺、大丈夫かな。……少しだけ緊張する。」
「大丈夫、俺らがいるから!」
今日何度目かの眩しい笑顔を向けてくれた。
「……うん。」
「取り敢えず、俺らは隠れて遠くからアイツらの動向を探る。」
「雨子は?」
「近くにいるよ。」
フードを深く被り、準備をし、古びたビルに入る。
「雨子はどこから来るの?」
「ん〜……、反応無いな。」
大和がポケットから小型の機械を出して胸に押し当てる。
「え、なにそれ。」
「これ?
大分前に、雨子に嫌がらせで朝鬼電したから、もしかして
「……」
言葉が出ない。
「!……テイト、フードを深く被れ。誰か来るぞ。」
大和から緊張感が出てきた。俺は一切何も感じない。先程のおふざけ大和とは打って変わった。
「雨子を襲った人達?」
「そうだと思うけど…、足音の数が多い。2人じゃないな。」
大和の話し声だけで、何も聞こえない。
「後ろに回り込むぞ。」
「うん。」
大和の後ろを引っ付くように着いていく。何が始まるかも分からない。ただ緊張感で心臓がバクバク鳴っている。
「心臓の音立てなくても、大丈夫だ。テイト、落ち着け。」
「止めろって言われても無理だよ……。」
大和に心臓の音が聞こえていたらしく、少し恥ずかしい。
「 ……――始まる。」
「ん?」
大和の呟きを聞き取れず、聞き返すと
「鳳梨雨子だ!!」
ドカンッ___________!!!!!!!
「1人で来たのか!?あの女!」
「油断するなよ!」
「どこだ、探せ!!」
「俺が仕留める!!」
爆発音と共に、同じフロアにいた人間がバラバラと出てきて、俺と大和は身を隠す。結構な数の人がいる。
「あ、雨子が見つかった…__っ。」
大和に口を押えられ、地面にしりをつく。
「うわぁっ!!!」
「な、なんだこれっ!!」
「ぐっ、ぐるじ……、、」
「はは、絶好調だな、
大和は小声で笑った。
「よし、俺らも上の方目指すぞ。」
高いビルの階段をひたすら登っていく大和に着いていく。
もう何階登ったのか数えてないが、沢山登った。足が疲れた。大和はなんでこんなに体力あるんだよ。すごいな。
ハァハァと息を荒らげながら大和の背中を追うと、到着したようで足をようやく止めた。
あぁ、疲れた――、休憩しよう。と思った矢先
「殺しても構わん!!」
近くで、野太い声が聞こえた。
その声に続き、銃声が止まることなく鳴り始めた。
「攻撃しろォ!!!」
「な、なんでだ、効かねぇっ!!」
「おい、止めるな!!限界が来るまでアイツを撃て!!」
「うわぁっ!」
雨子が視界に入るが、屋上では風が強く吹いていて、体が倒れる。フードが取れないように、大和が引っ張ってくれているから、なんとか吹き飛ばされていない。よく見ると、銃だけじゃない。小型のナイフを投げる奴もいれば、メリケンサックのような物で雨子の球体を攻撃する奴もいる。
「雨子さん、だいぶ怒ってんな。」
ただ立っているだけの雨子だから、俺には分からない。
「くそっ、くそっ……、心力が無くなりそうだァっ……」
「おらぁ!!」
「全員で鳳梨雨子を殴るぞ!!所詮女だ!心力が尽きる前に、行くぞ!」
雨子に殴りかかる作戦に変更したらしい。
「アイツが、気を引いてるうちに、俺とテイトが周りのヤツらを後ろから、ガツンとやる!」
「え、俺も!?」
大和が眩しい笑顔と共に、拳を作りギュッと力を込める。
風が止んだ
「我が心の臟よ…、この手に穿て――。」
綺麗な光に包まれ、手のひらには黄色の弓矢が現れた。
「す、すごい……」
「初めて見るか?」
「こんな近くで見るのは……初めて。」
「俺たちは、心を武器にして戦うんだ。」
「心を…?」
「簡単に言うと、心臓を剥き出しにして、武器の形にして争う。」
「そんなことできるんだ…。」
「ちなみに、誰でも出来る訳じゃないぞ。」
よく見ると、黄色の弓矢が淡く燃えているような気がした。
「これって炎?」
「いや、俺の心の状態だよ。このフヨフヨ揺れてるのが大きいと焦ってたり興奮状態だったり。」
「じゃあ小さかったら、悲しかったり苦しかったり?熱そうだね。」
「そうそう。感情の浮き沈みで変わる。ちなみに熱くない。」
ほら、と弓矢を差し出され、手のひらを載せる。
「!…温かい。」
これを例えるのなら、冬場にココアの入った暖かいマグカップを握った時のよう。
「そうなのか。俺が触ると冷たいけど……触る人によっては違うのか。」
弓矢から手を離すと、大和は弓矢を構えた。
「……この矢も、俺の心臓の一部だ。無限には打てない。」
弓を引き、掌から放つ
ピン――、と音を立てて飛んで行った。
「グッ!!」
敵の一人が倒れた。
「え……。」
「うっし、回収ー。」
大和が手を顔の横くらいに上げると、何かが凄い速さで飛んできた。
「うわっ!」
得体の知れないものが飛んできて思わず頭を抱えて目を閉じる。
「テイト、大丈夫。俺の矢が帰ってきただけ!」
すごい、帰ってくるなんて優秀すぎる。
「待って、それ俺もやりたい。」
矢に触れようと手を伸ばす。
「無理。俺の心懸かってんの。」
「俺の心使っていいから、貸してよ。」
「無理に決まってんだろ!まず、心を武器にできる人間がこの世の何割だと思ってんだ!それに、心を無闇に他人に渡すなよ!絶対!」
「え〜……。」
「……興味…ある?」
低くて重みのある声が背後から聞こえた。
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