第3話「指輪と鍵」

地図を広げ、チェックをする。光の色で誰なのか分かる。

気付けばシリウスも帰宅していた。


「いやぁ、これから大忙しですぞ~ほほほっ!」

「何も嬉しくないけどね…。やるだけやってみるけどさ」


ストラスは楽しそうにしている。


「それなんだが…」


風呂上りで体が火照っているシリウス。彼は申し訳なさそうに口を

開いた。彼が後方を指さした。鉄線だろうか。ぐるぐる巻きにされている。

緑髪の気だるげな男…だがレイラを見ると助けを求めるような声を出す。

布を巻かれていて、口が開けない。


「一体、捕まえた」

「ほほ…?」

「は?…これ!?」


レグルスは男の拘束を解く。痣だらけだ。彼が怠惰を司る悪魔ベルフェゴール。彼は

ゆっくりとレイラのもとへ歩み寄ると彼女の肩を掴んで大きく揺らす。


「聞いてないよ!?研究させて!僕、人間にここまで酷い事をされた経験ないんだよ!

まさか人間の徒手空拳を喰らうなんて…あの三馬鹿なら、喜びそうだけど僕は

そういうタイプじゃないんだよー。痛いなぁ、痛くて苦しいよぅ!」

「お、落ち着いて!…って、あれ?珍しい。シリウスが包帯を巻いてる」


前を開いているため上半身がしっかり見える。体に包帯を巻いている。よく見れば

裂傷もある。


「シリウスも人間なのねー…」

「俺の事を何だと思ってるんだよ」


シリウスは自分の感覚を確かめるように手を握ったり開いたりする。何が

あったのか聞くと何やら互いに誤認して、戦闘をしていたらしい。


「恐ろしいですな。ベルフェゴール様は七柱の悪魔の一人ゆえ、悪魔の中でも

非常に強い力の持ち主ですぞ。そんな方のこんなお姿…私の事は大切に

扱って下され~!」

「握りつぶそうとか思ってねえからな。ルベウスファミリーの下部組織を

潰した時にそいつがいた。俺はてっきり、協力者かと思った。で、そのまま

殴りかかったんだよ」

「ルベウスファミリー、の下部組織!?一人で乗り込んだの!?」


レイラは目を丸くした。不敵な笑みだけをシリウスは返答代わりに見せる。

彼の喧嘩っ早さは今に始まったことではない。その体躯と仏頂面でよく誤解される。

暴力の塊とか、暴力が歩いているとか言われているが彼は決して自分から

手を出すことは無い。


「レイラさん、とりあえず呑み込みましょう。それで、ベルフェゴールさん。

逃げることも出来ますけど、どうしますか?」

「お前な…そっちの長身よりもタチが悪いっての。おい、アンタだよアンタ。

指輪の持ち主。レイラだったか」


レイラを呼び出した。指輪をしている左手を出させる。その手を握り、言葉を

紡ぐ。古い悪魔は契約を重視する。


「我、怠惰を司る悪魔ベルフェゴール。王の命に従い、魂を捧げんとする―」


指輪が緑の光を放つ。ストラスが別のページを開く。無地のページに

ベルフェゴールの名前が刻まれる。攻略本であり、契約書の役割も担っている

らしい。肝心の契約書、ストラスは何か疑問を抱いたらしい。


「あのぉ…つかぬ事お聞きしますが、ベルフェゴール様本人ですよね」

「そうに決まってるだろ」

「どうしたの?」


契約には当事者本人がいなければならない。揃っているはずが穴があったらしい。

気になることがあってストラスのページを契約書から地図へ変える。七つの光の

場所は漠然としているが悪魔たちの現在いる場所を示している。場所が

変わっていない。何を以てして居場所を調べているのか。独特の魔力だ。

ベルフェゴールも薄々自分の異変に気付いている。


「もしかして、魔力が空っぽだから?」

「もっと分かりやすく」


シリウスがレイラに促した。


「死人に口無し、みたいな。ない袖は振れぬ的な。魔力ってある意味、私たちの

言うところの魂とか心臓に近いらしいよ。それぞれで微々たる差があるんだって。

何が原因か知らないけど、目の前にいるベルさんは本人であることに違いないけど

…そう、証明書を紛失した状態って事!」


自分が自分である証拠を示すもの。免許証などに近い。銀行や市役所などの

窓口で身分証明書を見せてくださいと言われることがあるだろう。そう催促するのが

悪魔攻略本であり契約書の役割を果たすストラス。レイラにとって身分証が自分の

命である。魂である。そしてベルフェゴールはそれに加えて自分だけの性質を持つ

魔力が必要だ。両方揃って本人と認識される。


「俺の魔力を抜き取って好き勝手してやがるな…。指輪の他にもう一つ、

魔力そのものだけに干渉する下位互換のアイテムがある。ソロモンの鍵だ」


初めて聞いた。契約し、悪魔を文字通り使役するのが指輪。契約という面倒ごとを

省き、その代わりに魔力だけを使えるのが鍵。


「鍵と指輪が分立しているからな。僕にも分からんよ。今はどんな奴が持っていて、

どんなことに利用されているか…なんてさ」

「…だけどシリウスと出会ったのはルベウスファミリーの下部組織の拠点でしょ。

なら一番確率が高いのはルベウスファミリーが持っている可能性」


最初の話は怠惰を追いかける話。悪魔を悪魔たらしめる魔力を人間が抜き取り

操っている様だ。攻略本を片手に危険な奴らから魔力を奪い返す。


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ソロモンの指輪 花道優曇華 @snow1comer

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