第24話
小鳥のさえずりが聞こえる。
呪われて死ぬのだから全ては地獄への片道切符だ、それにしては随分とメルヘンな鳴き声だと思った。
これでラッパの音色でも聞こえれば、もしかして天国に行けるんじゃないかと期待も出てくるものだけど、いつまで経っても迎えは来なかった。
ジーザス。ジーザス。
悪口を言って見ても変化がない。何か、おかしかった。
私はパチリと眼を開けた。
壁に寄りかかっていた身体を立て直す。全身がバキバキと悲鳴を上げていた。こんな体勢で一晩寝ていたらそりゃ痛くもなるものだ。
アトリエはいつも通りの静けさで、見慣れた光景が広がっていた。
呆けた私は思わず、自分の顔に手を触れた。徐々に意識がはっきりして状況が鮮明になってきた。
どういうことだ、これは。
「……生きてる?」
お風呂も入らず、歯も磨かずに寝たので不快感は最悪。身体は相変わらず節々が痛かった。けれどそれら全ては、私が紛れもなく生きているという証明になっていた。
一日、ずれたのだろうか。
人外ともいえるあの老婆なら、そんな嫌がらせも出来るかもしれない。けれど、何故だろう、私はそうではないと理由のない確信があった。そしてそれは呪いは無くなったという確信でもあった。
一つ思い至って、私はポケットの中を探った。あるはずのものが入っていなくて、立ち上がって、辺りを探すがどこにも見当たらなかった。
「栞が、ない。なんで……」
「清佳ぁ、いるー?」
そう言って入ってきたのは、母さんだった。
「いた、何あんたここで寝てたの? ご飯も食べないでどうしたのよ?」
放心状態の私の肩に母さんが手を乗せる。
私は衝動に駆られてて母さんの胸に抱きついた。生きていた、生きていたけれど、混乱と恐怖で頭の中がグシャグシャだ。わからない、わからないことが怖かった。
母さんは何も聞かずに、ただ私を抱きしめ返してくれた。多分朝帰りだったのだろう、いつもの匂いに混ざってお酒くさかった。
母さんは私の頭を撫でながら「あれ?」と声を出した。
「おかしいな、椅子ちゃんと戻したつもりだったんだけど」
それはいつも私が座っていた小椅子、父が生前に座っていた小椅子だった。
昨日の夜、私は小椅子には座らなかった。そのときも小椅子の脚はついたままだったのに、いまは脚が外れてひっくり返っていた。
涙がまたこみ上げて、私は母さんを抱きしめる力を強くした。
声を出して大泣きしたのは、これが初めてだった。
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